帰路
どんよりとした空だ。灰色の雲がとても重くのしかかる。
「浮かない顔ですね、グレン将軍」
空を見上げる青年にあまり歳の変わらないもう一人の青年が話しかける。グレンは緑色の瞳を空から外さずに口を開いた。
「いつ行ってもヴァンパイア討伐の任務はあまり気持ちのいいものではない。そう思わない?」
「確かに。ゾンビならともかくヴァンパイアは元は生きた人間なのですからね」
「そのまま放置しておけばヴァンパイアになる人が増えるだけだというのは分かっているんだけど」
グレンはここムーンホルンの国王セレスト直属のいわゆる王騎士という地位にある青年である。今回はヴァンパイア討伐の命を受け、二人の上級兵士クレッチとデュランを部下として連れていき、見事任務を遂行した。
「王騎士である僕がこんなことを言ってはいけないね」
「ええ。今の発言は聞かなかったことにしておきます。でも、お気持ちはお察しいたします」
「私はグレン将軍のそういう人間味のあるところが好きです。兵士になると忘れがちですが」
「まだ未熟な証拠かな」
デュランの発言にグレンは苦笑した。王騎士という兵士としては最高の地位にいるが、兵士としての経験は他の者と比べても長くはない。今ここにいる三人の中でもいちばん浅い。その実力を買われて兵士になりわずか三年足らずでこの地位に昇格したまでだ。王騎士というのは伝統的に三人いるが、ちょうどその席が一つ空席になったことも理由だ。