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序
この物語の舞台は、異界の「日本」である。
現実の地名、人名と共通、あるいは想起させる名称が登場する場合があっても、それは現実のそれらとは何ら関係がないし、また現実のそれらに何ら影響されるものではないことを、あらかじめお断りしておく。
すっかり冷たくなった男の素肌に、女は己の素肌を添わせた。女のまなざしは全裸で横たわる男の姿を悲しげに見つめ、女の手と唇は愛しげに男の身体の隅々を愛撫する。しかし男からは何の反応も返って来ず、女のまなざしはますます悲しみのいろに染まる。女の眼からは涙が溢れ、それは男の肉体のあちこちに降りかかる。
女はやがて涙を拭い、気を取り直して、男の肉体の上に己の裸体を投げ出すように覆い被さった。そして男の唇に己の唇を軽く触れさせると、両手を男の胸に当て、その上に己の額を置いて、何かを祈るように、じっと眼を閉じた。
週1~2回程度の更新を目指しております。
60~70年代の邦画のプログラムピクチャーが念頭にあります。
よろしくお付き合いください。