手紙事件
──ある日のダイアモンド・ファイア本部。
ルビー・フレイムバレット。彼女の手には、複数の手紙があった。
ルビー「…しばらく依頼が連続で来てたから、ここ最近手紙見てなかったわ…」
廊下を歩きながら、誰宛のかを見ていく。
その中の一通に目がとまった。
ルビー「…読めない」
手紙には、手書きで「文月 夕陽・暁美宛て」と書かれているだけであった。
彼女はメンバーの中で唯一、日本語が苦手であり、ひらがなを読むのだけでもやっとなのである。
ルビー「うーん…聞いてみようかな…」
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「ええ? この手紙が誰宛てかですって?」
火豪院 日向。先程の手紙を見ている。
日向「なにこれ…ふつきゆうひ?」
『おうおう。何見てんだ?』
思いっきり首をかしげている彼女の背後から、突如特徴的な声が聞こえた。
日向「紅蓮…アンタいきなり出で来ないでくれる?」
紅蓮と呼ばれた猫は、鼻で笑うだけだ。その隣には、少女が立っている。
文月カレン。紅蓮の契約上の主だ。
カレン「日向。それは一体…?」
日向「アンタも気になる?」
日向から手紙を渡されたカレンは、宛先を見た。
カレン「…誰だ?」
紅蓮『フゥン。どれどれ…』
紅蓮がカレンの持っている手紙の匂いを嗅いだ瞬間…紅蓮の毛が逆立った。
カレン「…紅蓮?」
紅蓮『…あのガキの匂いがする…』
紅蓮が怒気を滲ませた声で答えた。
紅蓮の言う「ガキ」とはカレンのパートナー、レット・フォルシード。彼のことである。
ドアが開いたかと思えば、一人の少年が入ってきた。
日向「噂をすれば…」
レット、彼が入ってきたのである。彼に対して、紅蓮が思いっきり威嚇した。
レット「何をしているんだ?」
カレン「ああ、この手紙のことなんだが…」
ルビー「ふつき…なんとか…?」
その手紙を見た瞬間。レットは手紙をカレンの手から取っていった。
そして背中を向け、部屋から立ち去ろうとした。
ルビー「あ、ちょっとー…誰かわかったのー?」
レット「ああ」
背を向けたまま視線を彼女等に向け、手紙を顔の横に持ってくると…
レット「俺とロート宛てだからな。ついでに言うが、文月じゃない。
『文月 夕陽』と『暁美』だ」
そういうと、そのまま部屋と立ち去ってしまった。
紅蓮は…納得したように言った。
紅蓮『成る程なぁ…通りでアイツの匂いがした訳だ…』
日向「…ん? 文月?」
カレン「紛らわしい名だな…」
日向「…(なんかどっかで聞いたような…?)」
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自室に戻ったレットは、手紙を見た。
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夕陽、そっちでは最近何かあったか?
たまには暁美と一緒に戻って来い。
優樹はまだ眠ったままだが…もしかしたら…お前達が帰ってきたことで、目を覚ますかもしれないな。
まぁ、頑張れよ。
文月 真日留
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レット「『もしかしたら』…か…」
顔を上げると、机に置いてある写真を見た。
日本にいた幼い頃の…少年らしい無邪気な笑顔の自分、父、そして…妹を身籠った母。
レットの母…文月 優樹は、元々体が弱く、
妹を産んだ直後…容体が悪化、何とか命は取り留めたが…現在は病院で眠っている。
ロート自身、そのことを知らない。レットが話さなかったからだ。
自分は笑顔を失ったが、妹には笑顔でいてほしい。そう思ったからだ。
レット「…たまには休暇をとってみるか…」