少女は知る
少女はへなへなと崩れ落ちる。
(何今の・・・どういうこと!?)
理解仕切れていない少女に少年が追い討ちをかけるように続ける。
「最近、何かに触れたことがあった?誰かと話した事があったかな?」
そう言われて思い返してみる。私は何かに触っていただろうか?
そこでふと思い当たる。
教室に入るとき、扉は閉められていた。
でも扉を開けるどころか触ることすらしていない。
同級生達が教室に入るとき、明らかに少女は誰かにぶつかっていたはずだ。それなのに触れられた感覚すらなかった。
挨拶をしても返してくれないのは皆には私の声すらも届いていないから。
それならば、少年が声をかけてきたときに教室がざわついたのも理解できる。
そもそも毎日、授業が始まり終わるまでの少ない記憶しか残っていないことにも違和感を覚えた。
少女に触れられない手を脇に下ろしつつ少年が呟いた。
「緋萌、ごめんな?助けてあげられなくて・・・辛かったよな、入学早々苛められて・・・・自分の体を傷つけてしまうくらいに苦しかったんだよな」
少女がめを見開く。全てを思い出した。
入学して2ヶ月でクラスの派手な女子に目をつけられ酷い苛めにあっていたこと、
彼だけは、いつも自分の味方でいてくれたこと、
それでも彼女は、堪えることが出来なかったのだ。
この屋上から飛び立てば、自由になれると思い込んでしまっていたのだ。
そして問いかけた。
「じゃあ、あの花束は・・・・」
「勘違いするなよ!!
お前は死んでなんかない。ただ偶々あの席の人が交通事故でなくなって、それで彷徨いてた緋萌が自分の席と間違えたんだろ?」
「そっか・・・・じゃあ私、まだ生きてるんだ・・・・・」
ホッとしたような
残念だったような・・・
そんな不思議な感情が込み上げてきた。
そんなとき、徐々に少女の体が透明度を増してくる。
「・・・・緋萌?」
状況を理解できていない様子の少年が少女に手を伸ばす。
触れられない手がもどかしそうに少女の幻影を霞める。
今にも泣き出してしまいそうな顔で拳を握り締めた。
「・・ひ・・め・・・」
少女はただ微笑みかけ、言葉を紡いだ。
「私ね、翔に見付けて貰えて凄く嬉しかったよ?
ありがとう、翔。」
「でも俺は、緋萌に何もしてあげられなかった」
少女は否定の意を表し、続ける
「翔?私はあなたに他の彼女を作るななんて言わないよ?翔には幸せになってもらいたい、私の分まで」
「そんな・・お別れみたいなこと言わないでくれ!お前は死んでなんか「翔。」
この先は言わせまいとばかりに彼の名を呼ぶ。
そして飛びっきりの笑顔で告げるのだ。
「ただね、私。」
忘れられるのは、寂しいな―――――――…。