少女は出会う
周囲の生徒達の少数が悲鳴をあげ、教室中がどよめきたつ。
(・・・・この男・・・・・・・・侮れん。)
)
一体どれだけモテるというのだろうか・・・・少年が少女に向かって口を開くのと連動してクラスが軽くパニックを起こしている。
HRが台無しだ。
余程訝しげな表情をしていたのか、
少年は少女の顔を覗き込むと酷く珍妙な表情で場所を変えようと言い出した。
重い沈黙の後に訪れたのは重い一枚の壁。
屋上へ出ることの出来る唯一の扉だ。
(こここ告白タァァァァイム!?
告白タイムktkr!!
私にも遂に春が!!!?
ヒャッフーィ!!)
と、まぁその・・・・
ピンク色の方向への経験が極端に少ない少女は内心でかなり荒ぶりつつも
表情には出すまいと必死にニヤける顔を抑える。
しかしその少年は
少女の思考とは斜め後ろ64°ほどずれた言葉を発するのである。
「・・・ここに来ても何も思い出さない?」
(は?こいつは初対面で何を言っているのかしら?入学2ヶ月目にして思い出すって・・・そもそも忘れるほどの年月がたっていない・・・・・!)
「と言うよりお前は誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ビシィィッという効果音が聞こえて来るのではないかと思うほどに勢いをつけて少女は少年を指差す。
少年は少し驚いた顔をしたが直ぐに口元を緩めて少女の質問に答える。
「2年の佐々木です。一応は、久しぶり。」
「久しぶり?初めましての間違いでしょ?日本語わかってるわけ?りぴーとあふたーみー〜初めまして!!」
捲し立てるように叫び少年が後ずさる。
そこで少女の言葉が一時的に止まる。
「え?この人今2年生っていった?・・・・そうか先ぱ・・・・・・・」
言葉を濁す少女に、少年は疑問符を浮かべる。
そして次の瞬間―――
「先輩ぃぃぃ!!!!!!?」
悲鳴にも似た叫びが聞こえて慌てて耳を塞ぐ。
鼓膜が破れてしまいそうな程の大声量だ。
「嘘でしょ!?冗談でしょう!!?先輩?私は先輩に向かってあんな酷い態度を・・・・?」
「え?あ・・・あの・・・・・取り敢えず落ち着こうか?」
突然荒ぶりだした少女を宥めようとして少年があたふたと声をかける。
しかしそのやり取りは長くは続かなかった。
少女がピタリと動きを止めて俯いてしまったのである。
不思議に思った少年はどうしたの?と声をかける。
少女からの応答はない。
俯いているその顔を覗き込む。
すると・・・・・
「翔くん?」
その口から発せられた単語に少年の目が見開かれる。
そしてまだ混乱している様子の少女に問いかけた。
「俺のこと分かるのか?」
少女は俯いたまま首を横に振る。
少年は小さく息を吐いて別の質問を投げ掛ける。
「じゃあ自分のことは?どこまで覚えてるかな?」
「はぁ!?」
質問の意味を読み取れない少女が怪訝な顔をするが、少年は何も言わず回答を待っているようだったので渋々といった様子で口を開く。
「えっと・・・・・名前は倉田緋萌・・・2か月前に入学しました。」
訳が分からないまま自己紹介をすると少年が苦虫を噛み潰したような顔を見せる。
「??」
無言の少年がゆっくりと少女へ手を伸ばす。
少女は驚いて身を竦めるがその後には世にも不思議な光景が広がっていた。
「・・・・・・・え?」
少女に触れようと伸ばされた手は少女をすり抜けて空を掴む。
文字通り、すり抜けて。
「こう言うことなんだけど、理解できた?」