少女の日々
そこには、少女がいた。
綺麗に糊付けされた制服を身に纏ったその少女は
新鮮なものを見るでも、
懐かしいものを見るでもなく、
ただ当たり前のようにその一点を見詰めている。
その目に写っているものは教室の扉。
同級生と思われる少年少女が会話を交わしながら少女の脇をすり抜けていった。
その僅かな時間に少女の目が見開かれた。
SHRが始まる時間なのか、少女は意を決したように扉の内側へと足を踏み入れた。
「おはよう!」
少し大きめの声で挨拶をする。
しかしクラスの皆は変わることなく談笑を繰り返していた。
まるで…
少女が其処に存在していないかのように――…。
少女はため息をつき、自らの席に向かう。
窓側の一番後ろ。
特等席だ。
「あ………」
また…。
と呟いた少女は机上にあげられていたそれを眺める。
ふわりとしたいい香りのするそれは
この時期に満開となる季節を迎える色とりどりの花。
その花束を持ち上げようとして手を伸ばした。
しかしその手は目的にたどり着くことなく空中で停止してしまった。
SHR開始のチャイムがなったのだ。
(どうしよう…これ……。)
少女は迷う素振りを見せたが、近くに花瓶があるわけもなく
仕方なく花をそのままにして席に着いた。
それにしても、最近毎日のように机上に置かれているこの花束はいったい何なのだろうか
と少女は考える。
一体誰が?
何のために?
私の熱狂的なファンでも居るというのだろうか・・・。
そこまで考えたところで思考を一時停止させる。
クラスの空気と化している私に想いを寄せる人間など居るわけがない、と。
「あのさ、ちょっと良いかな?」
ふいに自分を呼ぶ声がして振り返る。
そこに立っていたのは顔も知らない1人の少年だった。