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【改訂版】魔王のお嫁サマ!?  作者: 熊野クマ
魔界トリップ編
4/17

「えーと?」

 この赤毛の美女は誰だろう? 彼とは対照的な小麦色の肌に腰ほどまである見事なまでに真っ赤な髪。身に纏っているドレスも真っ赤で、所々金の刺繍が施されている。太ももまで豪快にスリットが入っていて、そこから健康そうなすらりとした脚がのびる。さらに胸元もざっくりと開いて、豊かな胸の谷間がおしげもなく披露されている。……思わず自分の胸をみる。

「兄上っ! ルアが戻って来たというのは本当かっ!?」

 赤毛の美女は彼しか見えていないようで、こちらにはまだ気付いていない。

 ん? 兄上?

「大きい声をだすな、レノール。ルアはほら、ベットの上にいる」

 そういって私に視線を投げかける。

 どうやらこの赤毛の美女はレノールという名前らしい。

 そう言われると美女はようやく私に気付いたようでゆっくりと視線を彼から私にうつす。

 お互いの視線が交差する。すると美女の目には、どんどん涙がたまっていく。

「えっ!?」

 急に目を潤ませ始めた美女の理由も分からず、ただただ戸惑う。

 美女はそんな私をお構いなしにベットの側まで近づくとおもむろに私に抱きついた。

「!!?」

 豊満な胸に顔が押し付けられ、ぐりぐりとされる。うっ、く、くるしい……

「おぉぉ! ルアよ、こんなに立派に成長してっ!!妾は、妾はうれしいぞっ!! あんなこと(・・・・・)があって妾がどれほど心配したかっ!」

 あんなこと? 一体何があったんだろうか。……ってそれよりもっ……

「レノールッ! ルアが苦しがっている。離してやれ」

「!? おおっ、すまなんだ。つい、嬉しさのあまり……大事ないか?」

 そう言うとパッと身を離し私を解放する。

 あ、あぶなかった……あと少しで女の人の胸で窒息死してしまうとこだった。ゼーッ、ゼーッと足りなくなった酸素を思い切り吸い込む。

「な、なんとか……」

 心配そうに見つめる美女に力無く微笑む。

「すまなんだの。それにしても無事、成長したようで安心したぞ。人間界はあまり空気が良くないからのぉ~」

 そういって、慈愛に満ちた表情で私の頭をぐりぐりとなでる。それになんだか懐かしさを覚える。

(私、この人と初めて会うんだよね? でもなんだろう、この懐かしい感じ……)

 見えない何かを探し求めるように、そのままボーッと美女を見る。

「レノール、忘れたのか? ルアはこちらで暮らしていたことを何一つ覚えていない」

 その言葉に何かが引っ掛かる。しかし、それが何かを見つける前に、美女が私に話しかけた。

「そうだった、そうだった。忘れておったわ。では、軽く自己紹介するかの……そういえば兄上は済んだのか?」

 ふと、美女が彼に尋ねる。そういえば、まだキチンと挨拶はしてなかったことに気付く。

「いや、まだだ。する前にお前が来た」

「そうかっ! ならば妾が一番乗りじゃっ!!」

 そう言って、美女は小さく「んっ、んんーっ」と咳払いをする。後ろで彼の溜息が聞こえる。

「妾の名はレノール。ここにいる魔王ヴィスラヌの妹じゃっ! 火を扱った魔法を得意とする。暴れることと、兄上をからかう事が3度のメシより大好きじゃ!!」

「をい……」

 えへんと胸をはるレノールさん。後ろで疲れたように突っ込むヴィスラヌさん。なんだか二人の関係が見えた気がした。

 それにしても、レノールさんは話し方もだが、見た目に反してギャップのある性格のようだ。なんだか子供っぽい仕草もあって可愛いらしい。

「兄妹、ですか」

 二人とも美形なところは一緒だが、肌や髪の色が違う。

「ああ、似て無い兄妹じゃろ? 妾たちは母体が違うのじゃ。父親は一緒じゃがな」

 あっけらかんと言う。輪郭や瞳、鼻筋は二人とも良く似ている。そこは父親似なのだろうか。どちらにせよ、両親はどちらも美形だったにちがいない。

「じゃあ次は私だな。さっきレノールが言ったが名をヴィスラヌ、この魔界の魔王をしている。魔法は召喚を好むが闇が一番得意だな」

「魔法……」

 さっきレノールさんも言っていたが……魔法。いままで生活してきた中で馴染みの無いワードだ。

 ちなみに私はまだ、魔界云々は信じていない。いや、だって普通……ねぇ。

 正確にいえば信じていないというよりも信じたくない、という気持ちが強いのだが。

「そうか、ルアの世界には魔力が無かったな。まあ、そのために人間界に行かせたんだが……。魔法というのは魔力を使い発生させ……見て貰った方が早いか」

 そう言うとヴィスラヌさんは何もない手のひらから炎や水をだす。それは玉となってふよふよとヴィスラヌさんの手のひらの上でただよう。それをヴィスラヌさんが握りしめると水と炎の玉は四散して消えた。

 おおおおぉぉぉぉ。

 ぱちぱちぱちぱち。

 思わず拍手をしてしまう。

「と、まあこんな具合だな。あと魔法が見たかったら私がいつでもみせてやる。だから、ぜっったい、何があっても! レノールに見せてもらおうとするなよ」 

 そういってずいっと近づいて念を押される。

 ち……近い。

 圧倒され、理由も分からぬまま、こくんと頷く。

 それをみて「よしっ」と頷くと、私から離れる。

「兄上っ! どうして妾が見せちゃダメなのじゃっ!! 妾もルアに良いところを見せたいのにっ」

「やかましいっ! お前、自分が今までどれだけ俺の城を破壊させたか覚えているのか? 今もドワーフ達が修繕活動を続けてるんだぞ。これ以上俺の仕事を増やすなっ!!」

「さ~てと、兄上の自己紹介も済んだことだし、次はルアの番じゃなっ」

 旗色が悪くなるや否や、レノールさんはささっと話題をこちらに移す。

 急にふられ、わたわたと慌てる。

「え、えぇと。土屋流亜です。今日、高校を卒業して……気付いたらここにいました。趣味は料理です」

 その言葉にピクっと二人が反応する。しかし、ヴィスラヌさんとレノールさんの反応は真逆のものだった。

「ツチヤ……というのは人間界での名だな。それにしてもルアは料理をするのか! すごいのぉ~。そのうち妾にも食べさせておくれっ」

「…………」

 ヴィスラヌさんは何も言わず横を向いている。ヴィスラヌさんはあのことを知っているのだろうか……

 実をいうと、料理を作るのは好きだが、私はなぜか家でキッチンを使わせてもらえない。料理を作ろうとしたものなら両親から必死で止められる。

 いや、まぁ、たしかにちょこっと焦がしたりはしたが……。でも作るのは好きだし、うまくなりたい。それには練習しなければいけない。そうだ、ここだったら止める両親もいないし、キッチンを使わせてもらえるかもしれない。

「ええ~と、キッチンを使わせていただけるのなら……」

 ちらりとヴィスラヌさんをみる。彼は相変わらず横を向いていて私の視線には気付いていない。

「きっちん? ああ、調理場のことじゃなっ! もちろんじゃっ、のう、兄上?」

 話を振られたヴィスラヌはビクッと肩を震わせるが間をおいて「…………ああ」という返事が返って来た。

 よしっ! これでここで料理の練習ができる! 

 最初はうまくいかないかもしれないけど、上手にできるようになったらレノールさんたちに御馳走しようっ!

 …………ん?

 まてよ?

 なんか……話が逸れまくって忘れていたけど……大事なことを忘れているような……?

「あああああぁぁぁぁっ!」

 私が急に叫び、二人は同時にビクゥッっと肩をあげる。

「「!!?」」

 そうだ、すっかり忘れてたけど、幼い頃の結婚の約束云々でいまここにいるのであって……

 それをまず、はっきりさせないと、このままいけば、この人と『結婚』ということになる。

 いや、確かにヴィスラヌさんはカッコいいけれどもっ!

 でも、魔界とか魔法とか魔王とかっ!! 自分の脳では処理しきれない。 

「どうしたんだ、ルア」

「どうしたのじゃ、ルア」

 ふたりは口々に尋ねる。なんて言っていいか分からないけど、とりあえず聞かないと話しは進まない。

「え~っと……その、私、両親からヴィスラヌさんと婚約してるって聞かされたんですけど……なにかの間違い……ですよね?」

 そうだ、何かの間違いに違いない。だってこんなにカッコいいヴィスラヌさんと、かたやレノールさんと違ってつるぺたのちんちくりんな私。あ、言ってて悲しくなった……

「間違い……だと? なぜそう思う?」

 私がそう言うと急にヴィスラヌさんを取り巻く空気が代わる。ぴりぴりとした空気が部屋を覆う。

 こ、これは……私マズイこと言っちゃった!?

「兄上落ち着くのじゃ。ルアの記憶が無いとお主も言ってたであろう。しかもルアの今までの口ぶりからいくと、まだ何も聞かされていないのではないか? のうルア? お主は両親からどれくらいきいたのじゃ?」

 レノールさんが私とヴィスラヌさんの間に入り、フォローしてくれる。

 ヴィスラヌさんもレノールさんがそう言うと、思うところがあったらしく、ぴりぴりした空気が和らいでいく。

 よ、よかった……って、両親から聞かされた話しっていっても……

「私には婚約者がいて、卒業したらその人の元にいかないといけないってことくらいしか……」

「「はぁ~~~~」」

 私のその言葉に二人とも深い息を吐く。

「まったく……アリーナは別としてルークまできちんと説明してないとはな。まあ、あいつもルアが生まれた時から嫁にはやらん、と言っていたからな~……」

「きっと奴のことじゃ。ギリギリまで現実逃避してたんじゃろうて。結婚するのはすぐではないにしろ、ルアが魔界に行けば今までのように毎日会うというわけにはいかんじゃろうからのぉ」

「……ということは、だ」

 おもむろにヴィスラヌさんがこちらに視線を向ける。

 なんだろう、何を言うか分からないけど、なんだか嫌な予感がする。

 できれば聞かない方向でいきたい。その視線に耐えれず、そっと視線を逸らす。

「ルア……お前、自分が魔族だということも知らないだろう」

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