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【改訂版】魔王のお嫁サマ!?  作者: 熊野クマ
魔界トリップ編
3/17

――光に飲み込まれる……っ!



 足元には私を中心に2重の円が展開されており、その中には均等な間隔でいくつもの幾何学模様が浮かびあがっている。

 円全体が一層強く発光すると、私の体は光に包みこまれ、ふっと軽くなり重力に逆らって浮かび上がる。

「お、お父さん! お母さん!! た、、助けっ……」

 パニックで泣きそうになりながらも部屋にいる両親に助けを求めると、お母さんは自分の娘がそんな状況にも関わらず、落ち着いた顔をしてにこやかに手を振っている。

 お父さんにいたっては……泣いている……。

「う、うぅ……。流亜がもうお嫁にいってしまうなんて……パパは悲しいぞ。でも絶対幸せになるんだぞーー!!」

 先ほどと同じように顔をぐっちゃにしながら両手を口に当てて叫んでいる。すでに今の状況からして幸せとは程遠いところにいる気がするんですけど――!

 二人のそんな対応に私の期待は裏切られ、さすがの私も怒りがこみ上げてくる。


「幸せって…ちょっと!! 私の幸せを考えるなら助けろーーーーーっっ! ~~~~~~っ!!?」

 

 最後の最後に思いっきり泣き叫んだ私の視界は両親から真っ白な光に塗り替えられた。


 ゆらゆら


 ゆらゆら


 リビングだったはずの部屋は、真っ白な視界、真っ白な世界に埋め尽くされ、私はその中をぼんやりとした意識の中、漂う。

 そんな真っ白な世界の中、ふと目の前に幼い子供が現れる。



(ーーこの子は……小さい頃の私!?)



 その子には私が見えていないようだった。そんな幼い私の周りには3人の大人がいた。

 その内の二人は私のよく知っている人物だった。若いころの両親。二人とも元々若く見えるが、それ以上に若々しく、そして美しく、綺麗だった。

 小さい頃の私はそんな二人と両手をつないで、目の前に佇んでいる人を見ている。

 顔はよく分からないが男の人で、身長は父よりも高く、ゆうに180センチは超えている。全身黒ずくめで、背中にはマントをつけている。

 その男の人は幼い私の前にゆっくりとしゃがみこむと視線を合わせ微笑んだ。


「っ!!」


 その光景を見ていた私は思わず息を呑む。あまりにも整った顔立ち。

 切れ長の目に吸い込まれそうなほど、どこまでも黒い瞳。

 鼻筋はスッと通っており、形のよい唇。滑らかそうな白い肌。今まで生きていてこんなに整った顔の人を見たことがなかった。

 私の父も整った顔立ちの方だが、比べ物にならない。同級生の女の子たちは父をみて、自分の親と交換してほしいとか、すごくカッコいいとか言っていたが、きっとこの人を見ると、のしを付けて父を返し、この人に乗り換えるだろう。……それほどまでに完璧だった。

 その男の人が幼い私を見つめ口を開く。

「ルア、私の可愛いルア。大きくなったら私のお嫁さんになってくれるね?」

 そんな彼を見て幼い私は一瞬キョトンとするものの、すぐに満面の笑みになり、コクンと頷く。

「うん! るあ、ヴィスのおよめさんになるー!」

 彼はその返事に満足そうに頷き、スッと立ち上がった。そして……

 私の方を向いた……ような気がした――

 その瞬間、またあの眩しい光が全体を包み込み、私はとっさにぎゅっと目を閉じた。

 しばらくすると、閉じた瞼に感じていた光が無くなり、いままでふよふよと漂っていた感覚の体は、何か固い物の上にあった。

 恐る恐る目を開けて周りを見渡す。そこはいつもの慣れ親しんだ我が家の一室ではなく、高い天井に、広い空間。いくつもの大きな柱。

 その柱にはここからではよく分からないが、なにか細かい模様が彫りこまれている。大理石と思われる床は丹念に磨かれているのかピカピカで、そこには私の不安そうな顔が写りこむ。


「ルア、よく来たな。ずっと待っていたぞ」


 突如、頭上からふってきた声に思わず顔を上げる。

 すると、私の目の前には先ほど白い空間で見た綺麗すぎるほど整った顔立ちの男が静かに佇んでいた。


「あ、の……ここは……?」


 私はさっきまでリビングで両親と話していたはずだ。それなのに部屋が急に光りだしたと思ったら、気づけば見知らぬ部屋にいる。

 色々な事が突然起こって、私の脳はもう許容範囲を超えている。なんだか目の奥が熱くなってくる。

 私はしゃがみこんだ体勢のまま、自分の事を知っていると思われる目の前の綺麗な男の人に尋ねた。

 目を潤ませた私の前に、男の人は床に膝をつき、そして――――


「ルアっ! 会いたかった――――!!」


 ぎゅーっと力いっぱい抱きしめられた!


「っっっ!!?」


 一瞬頭の中が真っ白になる。しかし次の瞬間、人生今までで出したこともないような大きな悲鳴が、建物中を駆け抜けた。


「き……きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 その声を聞きつけ、扉の外でいたであろう人たちが一斉に部屋になだれ込む。


「いかがなされましたか、魔王様!!」


「ご無事ですか!?」


「な、なんだか、すごい悲鳴がき、きこえたんだなっ」


 ぞろぞろと入ってくる人たちをみて私はさらに悲鳴をあげた。



「い……いやぁあああああああああっっっ!!」



 部屋に入ってきた人たちは、『人』ではなかった。

 牛のような顔をした頭に筋肉隆々の体。豚のような顔にこれまた筋肉隆々の体。

 そして2メートルはあるかと思われる巨大な身体に甲冑を纏い、……これにいたっては首がなかった。

 ……私は一体どうなるのだろうか。

 いや、そもそも、これは現実なんかじゃない。きっと夢をみているんだ。

 次、目を覚ませば私はきっと自分のベットの上で、朝ごはんを食べて両親に行ってきますって言って普通に学校に行くんだ。そうだ、そうに違いない。

 そして私の意識はそこで完全にブラックアウトするのだったーーーー


「う……うぅん……」


 手放した意識が徐々に戻ってくる。私はどうしたんだろう。

 卒業式が終わって家に帰って……それで……それでっっっ!!!?


「ゆ、夢オチっっ!!!???」


「なんだ? 夢オチとは」


 ガバっと布団から起き上がると、冷静なツッコミが返ってきた。

 その声は両親とは違う声で、でも聞いたことのある声だった。

 おそるおそる声のした方へ振り向くとそこには、気を失う直前みた顔と同じ整った顔が椅子に座って長い脚を組んでいた。

(夢じゃなかった……)

 がっくりと項垂れる。

 それにしてもすごくカッコいい人だ。脚も長いし、座ってるだけなのに絵になる。

 思考が明後日の方向へ向かいそうになったところで、自分の置かれた状況を思い出し、あわててかぶりを振って邪念を追い出す。


「どうした?」


 そんな様子に彼は首をかしげ尋ねる。

 は……恥ずかしい。絵になる人と、かたや自分は挙動不審でなおかつ寝起きだ。……逃げ出したい。

 が、本当に逃げ出す訳にもいかないので取り合えず状況を確認すべくベットの横にいる彼に聞いてみる。

「あ、あのっ、気を失ってしまったみたいですみません。介抱していただいたみたいで……その、ありがとうございます。私、状況がまったくわからないんですが、あなたがヴィスラヌさん、ですか?」

 緊張で声が震える。叫んだ上に気を失って介抱してもらって……これ以上迷惑はかけたくなかったが、そうもいっていられない。自分がなぜこんなところにいるか分からないが、きっと彼は知っているだろう。

 両親は私の結婚相手を『魔王様』と言った。そして気を失う直前、入ってきた人(?)たちも『魔王様』と言っていた。つまり彼が『約束した相手』なのだろう。それに、先ほど見た幼いころの記憶と一緒だ。

 そして16年も昔なのに、なぜか今も昔と何一つかわらない同じままの姿とその顔立。色々な疑問が浮かんでは消える。

 彼はそんな私の問いに僅かに寂しそうに笑うと「そうだ」と言った。その寂しそうな笑顔になぜか一瞬胸が締め付けられる。

 (?)

 そんな自分の感情に疑問を浮かべつつ、言葉の続きを待つ。

「状況……と言ってもな。ルークとアリーナからは何も聞かなかったのか?」

 ルークとアリーナ?

「誰ですか? その人たち」

 キョトンとして尋ねる。

 聞いたことの無い名前だ。

「誰って……お前の……ああ、そうか。人間界では違う名だったな。たしかリュウとアリサだったか?」

 流と亜里沙。それって私の両親の名前だ!

「流と亜里沙だったら、うちの両親の名前ですけど……ルークとアリーナって言うのは?」

「それがお前の両親の本当の名だ。人間界で名乗るのに問題の無い名前に変えたんだ」

 えーと?

 流と亜里沙っていうのは偽名で?

 人間界で名乗る為に名前を変えた、と。

 ん? 人間界?

「えーと、先ほどから人間界と言う言葉が聞こえるんですけど……それじゃあここは……?」

 そう言って自分の座っている床を指さす。

 それじゃあ、ここはどこだと言うのだ!?

 まさか……

 いや、いや、そんな筈は……

 だって、それって空想の世界の話……

「ん? 魔界だが?」

 ああああああっ! やっぱり!!

 しかも事もなげにさらっといってのける。それがなにか? といった感じだ。

「ま、まままま魔界って! そそそそれって冗談ですよね? でなければ何かの間違い……はっ! さてはドッキリ!?」

 キョロキョロと回りを見渡し、『ドッキリ大成功!』の札をさがす。あまりの衝撃に自分が何を言っているのか分からない。

「落ち着け、ルア。これはドッキリでも冗談でもない。……さて、どうしたものか」

 そういって彼は困ったように「うーん」と唸り、腕を組んで首をかしげる。私は相変わらず現実逃避をしている。

 と、その時、扉の向こうからドドドドドドドッとけたたましい足音が聞こえた。

「む、来たか」

 彼がそう呟くとバターンッと奥の扉が開く音が聞こえ、さらにもう一度バターンッ! っと激しい音が鳴り響く。

 寝室のドアが開け放たれ、そこには真っ赤な長い髪をたなびかせた美女が立っていた。

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