1°C
自分の中では珍しく、ストーリーが膨らんでいく話です!
これから、長くなると思いますが、末永くお付き合いください‼
「いらっしゃいませ」
背の高いウェイターが、優しく出迎えた。ゆったりとした、いかにも「カフェ」と いった雰囲気を醸し出している曲が、店の中を行き来する。時折、小さな可愛い鈴の音が聞こえる。
外の寒さが、嘘のように 店は暖かかった。
ウェイターが笑みをつくって言う。
「上着をお預かりしても、よろしいでしょうか?」
「あ、お願いします……」
店中を見回してみると、大半が女性だった。しかも、尋常な数ではない……。
私は、呆気に取られて、引き返そうとした。とても 人が多くて、入れそうもなかったのである。
「ご来店は、初めてでございますか?」
優しい口調で、ウェイターは私に話しかけた。
悪いけど、今はそんな気遣いが、私に更なる恐怖と緊張感を与える。頭の中が、真っ白になった。質問の意味を考えられず、言葉だけが私の中を駆け回って、混乱を産んだ。
催眠にかかったように、私は声を絞り出した。
「……ぁい」
はい、と 言ったつもりだったのに、腑抜けた声がホロっとこぼれた。
ウェイターには、なんと言ったか 解ったらしく、笑顔をつくり、それ以上は何も言わなかった。
手だけで、「あちらへ」と合図をして、そのウェイターは、店の奥へ歩き出した。慌てて付いて行く。
案内されたのは、何回も曲がったりしてやっと着いた、窓際の席。この辺に人の姿はない。
まだ、雪は降り続いていて、近くの森林を白く染めていた。帰れるか、心配だ。
ボーっとしていると、水を運んできてくれたウェイターが言った。
「ご注文は、どうされますか?」
まだ、何も決めていない。
「すみません、また後で……」
「かしこまりました」
きれいなお辞儀をして、ウェイターは去った。
私は、メニューを探した。
無い。
無い…!
無い‼‼
近くに、ウェイターや、ウェイトレスはいない。どうやって呼ぶのだろう。
そういえば、さっき入り口で聞いた、可愛い鈴の音は なんだったのだろうか。
よく見ると、窓にヒモが垂れ下がっていた。窓枠の上の方を見ると、そのヒモの先に、小さな鈴が付いている。
とにかく、鳴らしてみることにした。
チリン___。
小さいのに よく響く。綺麗な音に、心が洗われているみたい。
それから、一分も待たない内に、ウェイターが来た。
「お待たせしました。……どうかされましたか?」
「あの、メニュー もらってないんですけど……」
禁断の質問をするかのように、私は恐るおそる聞いた。
すると、ウェイターは笑顔で答えた。
「あぁ、メニューですか。大変申し訳ありませんが、当店にメニューはご用意させていただいておりません」
「エ、じゃあ、みなさん どうやって注文なされているんですか?」
驚きだ。メニューを用意していない店なんて、あるんだ……。
ウェイターは笑顔で続ける。
「当店では、2種類の注文しか受けておりませんので、どちらかから お選びください。
ひとつは、日替りセット、もうひとつは、お任せセットでございます。どちらも、当店自慢メニューでのご提供ですが、どうされますか?」
え⁉何が出てくるか、分からないってコト⁈優柔不断だから、多すぎるよりはいいけど、2択って……
それに、私、結構好き嫌い激しいんだけど……、でも、無いメニューを、作って寄越せ、なんてとてもじゃないけど、言えないし。
「えっと、じゃあ……、お任せの方でお願いします」
「かしこまりました」
ウェイターが去っていった。また、一人になる。
不思議なところ。こんな山奥にあるのに、人がたくさんいるし…、メニューが無いなんて。
やっぱり、寒くても、あのまま進むべきだったかしら。
ふと 窓の外を眺めながら、そんなことを考えていると、足元を、何か駆け回っている感じがした。
ネズミかと思ったので、怖々机の下を覗いてみると、そこには、何か白いものが落ちていた。
一度頭を机の下から出してみた。すると、ウェイターが曲がって行ってしまった角の方に、キラキラと輝く粉のような物が浮遊しているのを見つけた。私は、その角まで行ってみたが、何も居る気配すら無く、その時にはもう あの不思議な粉も消えてしまっていた。
元居た席まで戻って来てから、もう一度頭を机の下に覗かせると、白い物体はまだそこにあった。
拾ってみると、それは とても小さな小さな雑巾だったのです。
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