Report.4 アクトレス
「さよなら、愛しの人……」
ホロ・スクリーンの中で、マリミアはそういって、いつまでも宇宙港で宇宙を見上
げていた……
そして第七銀河標準語でエンドマークが出ると、スタッフロールが流れていく。
「この映画どうだったかしら、真希」
「なかなかよかったわよ。特にヒロインのマリミア役の役者さんかわいくて演技もう
まかったわね……えと……」
「シンディア・マクバードル。銀河系を代表するトップスターよ」
英語風につづればCindia McBirdleとでも書けばいいかな。
「その人が……なかなかすごかったわね。地球の役者さんももっと頑張って欲しい
わね」
「私もそう思うわ」
今はA.D.1998年10月9日金曜日27時を回ったところ。やっと映画が終わった。
私の家の地下室。今日はシンディア・マクバードル主演の映画「黄昏の星の彼方」
を私と真希とメリーとマリアの4人で見ていたところだった。
「それにしても私……一度会ってみたいなあ。この人に」
「シンディアはとっても忙しいから無理だと思うわ。それにあの娘って性格が少し歪
んでいるからできれば会わないほうがいいと思うわ」とメリー。
「メリーさん、会ったことあるんですか」
「あるわ。真希と比べるとかなり歪んでいるから気をつけてね。まあシンディアがこ
んな銀河の果てにくるとは思えないけどね」
通信機が鳴った。一番近い私が出る。
「……メリーを出していただけますか」
……どこかでみたような顔ね……まさか。
「メリーよ。……久しぶりね、シンディア」
メリーが通信機の前にやってきた。
「ええ久しぶりね。さっそくだけど私を周回軌道まで迎えにきてくれる」
「……わかったわ。それはいいけど、いったい何しに来たのかしら」
「決まってるじゃない。久しぶりのお休みに友人のところに遊びにきたのよ」
「友人って誰のことかしら。素直に白状……」
「何ボケてんのよ。あなたのことに決まってるじゃない」
「……今すぐいくからそこでまってなさいよっ。通信終了」
勝手に通信を切るメリー。
「というわけで、迎えにいきたいんですけどいいですか」
「ええいいわよ。私も一緒にいくわ。……それであれって本物なわけ」
「本物よ。私が彼女の友人だっていうのは今まで知らなかったけど」
「あのねえ~」
「えりな、私も一緒に行っていいかしら。なんか面白そうだから」
「いいわよ。3人で迎えに行きましょう」
マリアは映画の途中から眠っていた。まあ無理もないわね。午前3時すぎだし。
「ようこそチェリープラッサムへ。乗船を歓迎します」
「ありがと」
「私がエリナ・ル・アートブルク。こっちが私の友人の松川真希、真希は普通の地球
人よ」
「シンディア・マクバードルです。よろしく。私のことは知ってるのよね」
「ええもちろん。私なんかファンクラブに入ってるから」
「それじゃさっそくだけど家に戻るから発進というか降下を開始するわ」
サブ・ディスプレイをみてシンディアが言った、
「なんで時間が3つも表示してあるの」
「上は銀河標準時、まん中は地球標準時、下が私の住む場所の時間よ」
「あ、そうなんだ。・・・でも銀河標準時だけで普通いいんじゃないの」
「そうもいかないのよ。そもそも地球は連盟未加盟だし、この星で仕事するからには
時間にも注意をしないといけないのよ。真夜中に訪問するのもなんだしね」
「ふうん、そうなんだ」
10日朝11時。まだ眠いけどいつまでも寝ているわけにもいかないわね。
シンディア(本人がそう呼んでくれといったからね)の希望として、とりあえず地球
のあちこちをめぐりたいと言ってきた。
シンディアがここに来る途中に作った予定をみると、どうやら地球の自然がテーマ
になっているらしい。ただ……地球全体をぽんぽん移動する形なので、私の宇宙船
をつかうことにした。シンディアが地球にいれるのはたった70時間なのだ。
これはシンディアの宇宙船がのろいというよりも、シンディアが仕事をしているホ
ーウッド(銀河系版のハリウッドみたいなところ)が遠いせい。
地球からだと中央星系はかなり遠いのだが、ホーウッドはその先になるしね。
そういうわけで、チェリーブラッサムに乗って、私、メリー、真希、マリア、シン
ディアは「地球の自然めぐりツアー」(命名・真希)に出発した。
長江。
「これが長江よ。地球でも有数の大河」
「ふーん。こうして間近で見るとすごく大きいわね」とシンディア。
「もちろん宇宙船だとあっという間だけどねえ」
「それはそうだけど。これだけでかいところで映画つくったらすごいのができそうね」
「実はつくった人はすでにいるんだけどね」と真希。
「へえ。そうなの」
「シンガーソングライターの人なんだけどね。フィルムを目一杯回したらしくてもの
すごい費用がかかったらしいわ」
そりゃそうよ。だって長江て数千キロあるんだもん。
サハラ砂漠。
「砂漠だからみてのとおり砂また砂ってとこかしらね」
「ホーウッドにはさすがに巨大砂漠はないのよねえ」とシンディア。
「本当にないの。だって「砂のメロディ」なんかすごかったじゃない」
「あれはほとんどコンピュータ処理してるから」
「ふうんそうなの。ああそういえばダカール・レイドがここでやってるわね」と真希
「それって車のレースよね」とシンディア。
「車は車でも全部ランドカーよ。タイヤつきで、ガソリン燃料の」
「フライヤーとかスピナーとかエアコミューターは1台もないのかしら」
「ないわよ。地球じゃまだランドカーしかないもの」
「はぁぁ。……そこまで遅れているとは思わなかったわ」
「まっ一応、宇宙船ぐらい飛ばしてますけどね」と真希。
「真希ぃ。連盟の一般常識じゃ化石燃料の宇宙船は宇宙船として認めてないわ」
「あぅっ。そうなの、えりな」と真希。
「当たり前よ。だって効率が悪すぎでしょ」
アイスランド。
「見るからに寒そうなところよね~」
「だからアイスランドっていうのかしら」とシンディア。
「いや。多分そうじゃないと思うけど……」
「あそこに街がみえるけど、ここってたくさんすんでるわけ」
「ここはそんなに多くないわね。確か20万人くらいだったかしら」
「ふーん……。そういえば日本だっけ、はどのくらいなの」
「約1億3000万人くらいよ。地球の200近い国・地域でも多いほうね」
「ホーウッド星系は150万人よ~。すごく多いじゃない」とシンディア。
「地球で一番多い中国は約10億人てとこかしら」と真希。
「ひとつの惑星の一部の地域でその数なんだ。道理で地球が約60億人なんて数になる
と思ったわ」とシンディア。
「ついでにいっとくと、60億全部が酸素・窒素呼吸系のヒューマノイドばっかり」
「……なんかそう聞くと改めてかわった星にきたって気がするわね」とシンディア。
……そしてさらにあちこち回ってやっとグランドキャニオンにたどりついたころ
には残り時間が20時間となっていた。
「ここはスケールが巨大すぎるのよね~。宇宙船をつかうとなんとかなるでしょ」
「……すごいわね~。この巨大な渓谷はもちろん特殊映像じゃなくて本物なわけで
しょ」とシンディア。
「もちろん」
「へえ~」
そして私たちは外に出た。
広大なグランドキャニオン。……まああんまし広大すぎてなにがなんだかよくわ
かりにくいところもあるけどね。
「さて、そろそろ最終目的地につくわよ」
「あの、さっきのグランドキャニオンが最後じゃなかったの」とシンディア。
「違うわよ。そろそろつくわよ、ブラック・ヴァレーに」
そして私達は降り立った。みんなが出迎えてくれた。
「ここはカリフォルニア州ブラック・ヴァレー。表向きは田舎の小さな村なんだけど、
実はここはエイリアン村なの」
「エイリアン村……じゃここの人たちってみんな地球人じゃないのね」
「そうよ。ほとんどが汎銀河連盟の加盟惑星のひとたちなの。だから安心して」
「はあい」
「やあ、エリナ。スペシャルゲストは、シンディア・マクバードルだったのか」
「そうよ。びっくりしたかしら」
「したした。おれがシンディアの大ファンだって知ってて隠してたな」
「もちろん。どう、本物は格別でしょ」
「ああそうだな」
「始めまして、テッド・スタインバーグです。しがない銀行家です」
「こちらこそ」
「テッド、トランス・イースタン・ギャラクシー銀行地球支店長のどこがしがない
のよ」
「こんなところにまで支店があるなんて、さすがですね」
トランス・イースタン・ギャラクシー銀行は汎銀河連盟の5大銀行のひとつで、
A級銀行のひとつ。もちろん5大銀行で地球に支店がある銀行は他にない。
だから地球在住の汎銀河連盟の加盟惑星出身者はほとんどが利用している。
かくいう私の銀行口座もここなの。
地球支店はニューヨークのあるビルの地下にひっそりとあるんだけど、普通の地球
人に利用してもらうのはまずいので宣伝とかはいっさいしてないし、表に看板など
も出していない。なにせドルじゃなくてクレジットだもん。
一応、ニューヨーク州の銀行として正式に許可されてる。
あ、もちろん私は日本の銀行の口座もちゃんと持ってるわよ。東名銀行と富士桜銀
行の口座をね。
「たいしたことないですよ。親父の惚れた女がたまたま地球人だっただけっすから」
村の集会所でそのままパーティに突入した。
一応名目は「シンディア・マクバードル歓迎パーティ」。
本当はたださわぎたいだけなんだけどね、みんな。
「紹介するわ、こちらが私の友人の松川真希。でもってこいつが、テッド・スタイン
バーグ」
「はじめまして」と真希。
あれ。テッド、なんかぼーっとしてない??。
「テッド」
「ああ、はじめまして」
テッドは結構日本語もしゃべれるはずなんだけど……今のはなんなのよ。
「エリナ~、ちょっときて~」とシンディアが遠くで呼ぶ。
「はあい」
と私はそっちへ向かった。
そのあともパーティというかどたばたおおさわぎは延々と続いた。
そしてタイムリミットがやってきた。わたしゃかなり眠たかった。
「いよいよ、お別れね。楽しかったわ」とシンディア。
「私も……結構楽しかったわ」
「そうね。またきていいかしら」
「いいですとも」
「それから、メリー。あんた私のこと性格がゆがんでるっていったそうね」
「……わたしそんなこといったかしら」
「ふーん。あっそう。じゃ仕返しね。そういうこというひとも性格ゆがんでると
思うな」
「ううー」
「ふふっ。どうやら効いたみたいね」
「怒ってない……んですか」と私は尋ねた。
「まさか。伊達にメリーの友達やってないわよ。あの子寂しがり屋だからそういう
ひねくれたコミュニケーションしちゃうのよね」
「……そうなんですか」
「そうなのよ。エリナ、メリーをよろしくね。あなたならメリーをまかせても安心
だわ」
「……はあ」
「それじゃ、またね」
翌日放課後、マクレナード。真希と一緒。
「えりな、ちょっと聞いていてくれる」
「ほいほい」
「私ね。告白されちゃったの。つきあいたいって」
「よかったじゃない。おめでと。で相手はどんな人なの」
「テッドよ」
あついにそんな器用なことができたとはね。
「それでOKしたの」
「……うん。したけど。私別に恋人とかもいないし。それに悪い人じゃなさそだし」
「おめでとさん。でもいつ告白されたの」
「パーティで紹介したもらった直後」
「テッドにしては素早いわねえ。めずらしいこともあるわね」
「そうなんだあ」
「うん、まあね。そだ。理由はなんていってたの」
「ひとめぼれ、だって」
「信じられないわね。あいつがひとめぼれなんて」
「そうよね。ひとめぼれなんて小説とか漫画とかならともかく」
ああ、コーヒーなくなっちゃった。
「つきあうのはいいとして……遠距離恋愛ってことになるんじゃない」
「……うん。テッドはちょくちょくくるとはいってたけど」
「テッド、船持ってるからね。チェリーブラッサムより性能いいのよ」
「でも、いいのえりな。えりなはテッドのことはどう思ってんのかな」
「ノープロブレム。単なる幼なじみよ。私なんかすきといわれたこともないし、告白
されたこともないし、キスされたこともないのよ」
「じゃ別にいいんだね」
「もちろん」
真希がうらやましいわね。私もそのうち告白とかされてみたいわ。
「辺境駐在」Report.4 あとあがき
ブラック・ヴァレー。
場所的には山の中あたりでなんにもないところです。
今回はみんなで歓迎してましたけど、それだけシンディアの人気が高いということ
と、ホーウッド・スターで地球にきたのはシンディアが初めててっことです
地球の自然めぐりツアー。
宇宙船をつかうので移動時間が少なくてすみます(笑)
ホテルもいちいちとらなくていいし(笑)
テッド。
エリナの幼なじみで銀行の人です。あくまで「友人」ですね。
テッドもエリナ同様ハーフで地球育ちだったりします。
だからかなりアメリカ文化にどっぷりはまってる部分があります。
まあその点はエリナも似たようなものですね。
当初の予定ではシンディアの話とテッドの話は別でしたがくっつけてみました。
ちょっと強引だったかも・・・ま、きのせいきのせい(^^;
・・・それじゃ次回もエリナといっしょにれりーずっ(^^;)
BLUESTAR(1999/7/20)
p.s.とまあそんなわけで。新キャラです。
第七銀河標準語は、英語みたいな表音文字な言語。
エリナの住んでいる場所の時間は、もちろん日本標準時です。
ダカール・レイドは現実世界のパリ・ダカール・ラリーみたいなもの
です。一応パラレルワールド扱い(友角市は架空の都市だから)なんで固有名詞
とかに微妙に違いがあったりなかったり。
フライヤーは空飛ぶ車で、確か某ミリタリーSFにでてくるようなもの、
だったはず。
スピナーは、某ブレードランナーとか某サイレントメビウス(爆)にでてくるような
ものをイメージしてもらえればいいかと。
2012/3/27 by BLUESTAR