Report.3 シスター
「こんにちは、えりなさん」
9月の放課後。学校そばのマクレナードでアイスコーヒーをすすっていると、声を
かけられた。マクレナードはファストフードなお店。私は気に入ってるのでよく利用
するの。
「こんにちは、真由」
松川真由は、真希の妹。
「なにしてるの・・・ってみりゃわかるか」
「午後の昼下がりにのんびりアイスコーヒーをすすっているところよ」
「そだ真希、今日の夕飯はどうしよっかな」
「そうねえ。いったい何作るつもりだったの」
「ビーフシチュー」
「ふむ。わるくないわね。ならそれでいいわよ」
「了解。それじゃ資材調達してくるから」
「はいはい」
真由は去っていった。
「妹か・・・。いいわねえ」
「なにがいいのよ。ときどきけんかもするし、近ごろはかなり生意気になってきてる
から取り扱いが大変なのよ」
「だって・・・私は一人っ子よ」
「えりな、それってないものねだりっていわないかしら」
「言うらしいわね。まあ私の場合、両親が亡くなってるから今後妹ができる可能性は
ないしねえ」
「それをいったらみもふたもないじゃない」
その夜、地下室でデスクワークをするためにパソコンに向かっていた。
私の家には地球外のものがたくさんあって、そういうものが目につくとまずいので
地下室にパソコンやら通信機やらホロ・プレーヤーやらをまとめて置いてある。
地下室の出入りには専用カードキーと網膜チェックとボイスチェックをクリアしな
いと入れない。もちろん地下室の入口も隠されている。もちろんこの地下室はパパが
業者(もちろん地球人じゃないわよ)に頼んで作ったものである。
フロンティア99の支店から通信が入った。支店長から。
「・・・というわけですぐにこっちに向かってほしい」
「わかりました」
なんと支店に私の妹だという女の子が突然現れたのだそうだ。
会わせてくれの一点張りだという。医学的に確認するためにすでに、ドクター・バ
ーゼル(フロンティア99常駐の特級総合医師で変人)が検査を始めているという。
「というわけで行ってくるから、留守番お願いね、メリー」
「それは却下。私も見てみたいから一緒に行くわ。本物だろうとにせものだろうと」
「本音はなんとなく面白そうだから、でしょ」
「そうよ」
「・・・というわけで、行ってくるから、あとお願いね、真希」
私は真希に電話した。そろそろ地球軌道を離れるところ。
「わかったわ。それにしても・・・妹とはねえ」
「場合によっては、すぐに帰れないかもしれないから。学校のほうはひどい風邪をひ
いたとかなんとか言っといてね」
「はいはい。それじゃいってらっしゃい」
ドクター・バーゼルのオフィスはいつも通り散らかっていた。
ドクター・バーゼルは地球的感覚でいうと、壮年の男性に見える。
「やあきたな。久しぶりだのう、エリナ」
「確かに久しぶりね。・・・それで結果はどうなの」
「間違いなく、彼女は君の妹だよ」
「どのくらいの確率かしら」
「地球風にいうと120パーセントってとこじゃな」
「・・・ドクター。確率は100パーセントが最大よ。120パーセントってどっか
ら出てくんのよ」
「ははははは。まあそういうわけだから。それからこれ請求書ね」
「はぁ・・・結構お金かかるのねえ」
「ぼくは特級総合医師だからね。組合との取り決めとかうるさくてねえ。ちなみにこ
れは最低限の金額だけどね」
「検査ありがとうね」
「いやあ。ただ単にかわいい女の子を調べられるからつい・・・ね」
「あんたねえ~」
「こちらが、マリア・リーザ・セレイバーン。フロンティア11の出身」
支店長室。支店長の横に茶色い髪の女の子。私より少し背が低いわね。
目は2つだし、手も足も2本だし、地球人とそんなにかわらなく見えるわね。
「そしてこちらが、君のお姉さんの、エリナ・ル・アートブルク」
「はじめまして」とマリア。
「こちらこそ、はじめまして。まさか妹がいたとは今まで知らなかったわ」
「それは仕方ないです。私も姉がいるなんて知らなかったですから」
「なんというか・・・こうしてみてるとなんかヘンですよね、これって」
「こらこら。なんてこというのよ、メリー。せっかく感動的なシーンなのに」
「はぁい。ごめんなさい」
マリアの話によると、私のパパがマリアのママであるエレイン・セレイバーンに会
ったのは、約20地球年前ということになる。パパは仕事で短期間だけフロンティア
11にいてその間に関係を持ったらしい。その後、パパはフロンティア11から去っ
ていった。ここまでならよくある話なんだけど、エレインは約3地球年後に子供を産
んでしまった。それがマリア。エレインの種族、アルバトーラク族は妊娠期間がかな
り長いのである。エレインは私のパパに子供が出来たことをなぜか知らせなかった。
そしてマリアにはパパのことについて教えなかった。
まぁ・・・確かにこれじゃ互いに知りようもないわね。
マリアがパパのことについて聞かされたのはエレインが病死する直前だった。
「わたしが亡くなったら、パパを頼りなさい」
エレインは借金をかなり抱えていて、エレインの生命保険等はその返済にほとんど
が消えた。そして、マリアはフロンティア11を出発した。フロンティア11からフ
ロンティア99までいろんな船を乗り継いで約二ヶ月かかったそうだ。
フロンティア11は銀河系西部のはじっこだからほとんど銀河横断よね。
そしてようやくたどりついたのである。
「通信で連絡いれてもよかったんじゃないかしら」
「お金がぎりぎりだったからとても通信はできなかったの」
「ぎりぎり・・・」
「銀河系西部から東部の果てだから、ものすごくお金かかるわね」とメリー。
「マリア・・・今どのくらい持ってるの」
「800クレジットくらいかな」
「たった800・・・」
「そう800」
「マリア。あなたはちゃんとここにたどりついた。姉と再会もした。でも・・・それ
でどうやって故郷に帰るつもりなの」
「・・・実は考えてなかった」
「いきあたりばったりすぎるわよ、それって」
「うん・・・でも」
「でもじゃなああい」
「すまんがのう、実はさらに問題があってな」とドクター・バーゼル。
「どんな問題よ」
「ギャラクシーネットでみたんじゃが、実はフロンティア11はイラカバイネ社に買
収されてしまったんじゃ。今後はそこの専用ステーションになるのでな、以前に住ん
でた住人はみんな立ち退きになってな」
イラカバイネは西部大手の通運業者だったかしらね。
「ほんとなのそれ・・・」とマリア。
「いつそんなことになったの」と私。
「ちょっと前じゃよ」
「そんな・・・」
がっくりとするマリア。
支店長室の端末で、ネットに。そしてフロンティア11の現状を確認した。
イラカバイネの買収は完全に合法的だわ。
「それでどうするの、これから」とメリー。
「家もない、お金もさっぱりない、故郷もない・・・わけよね」とマリア。
「そうよ」と私。
「エリナ、妹と一緒に暮らしたらどうかしら」
「メリー・・・あんたねえ」
「あの、エリナさん、それでいいですか」
ああ、メリー、あんたなんてこというのよ。でも・・・目をうるうるされてそんな
風にみつめられたら・・・
「・・・そうね、わかったわ。それじゃやってみましょうか。経緯はどうあれ、あな
たは私の妹なんだし、ね」
「本当にいいんですか」
「いいわよ。幸い私には多少はお金があるし、家もあるし」
「でも私の住むスペースの確保は・・・その」
「だいじょぶよ。ステーションじゃないんだから。50億人がすんでる惑星にもう一
人くらい増えたってたいして違わないわ」
「50億・・・ってなんかすごいですね」
「まあね。・・・それからこんなことを提案したメリーはもちろん賛成よね。私とメ
リーと3人で暮らすこと。選択肢はYESとYESよ、さあどっち」
「・・・YESよもちろん」
「じゃ決まりね」
マリアが私に抱きついた。
マリアと地球で暮らす前にいろいろと手続きが必要だった。
特にフロンティア11がイラカバイネ社のものになっていたため、手続きは結構や
やこしかった。住民票の移動、荷物の移動の手配、移住手続き、などなど。
地球は汎銀河連盟未加盟なので、そこに移住するとなると、実は特別の許可が必要
になる。この許可は連盟辺境局が出すのだけど、審査とかあったりするのだ。
私はもともと地球生まれだし、パパがちゃんと手続きをやっていた。許可ずみよ。
しかも私にはちゃんと連盟市民権があるんだけど、マリアの場合それがないのでます
ます面倒だったのよね。まあこのさいなのでどはどばっとまとめて手続きした。
当然のことながらこの「作業」の間、私とメリーとマリアはフロンティア99にず
っと滞在することになった。
なにしろ地球からだとネットの通信費がかさむからねえ。
手続きの合間に、マリアに地球の文化を教えたりとかもしたんだけどね。
言葉についてもマリアはアメリカ人という「設定」にしたから、英語とそれから日
本語をニコニコ社のテープで学習させた。
そして10日でなんとかマリアの地球移住許可が下りた。3人で地球へ。
私の学校の欠席日数がかなり加算されたけど、まっしかたないわね。
「転校生を紹介しよう。アメリカ合衆国カリフォルニア州ブラック・ヴァレーから
やってきた、マリア・リーザ・セレイバーンさんだ」
ブラック・ヴァレーは実は宇宙人ばかりが住んでる村で、身分の偽装とかによく使
われるところ。汎銀河連盟人地球連絡会の本部もここにあるの。
「はじめまして。マリア・リーザ・セレイバーンです。よろしくお願いします。えっ
と、私のことはマリアって呼んでくださいね」
ペコリと頭を下げた。それから黒板に向かってチョークを走らせた。
"Maria Leeza Celaybarn."
特訓したかいがあったわね、マリア。正確にかけてるわよ。
「セレイバーンさんは、日本に住むお姉さんのところに住むことになってこの学校に
転入してきた。仲良くしてやってくれ」
「先生、質問」
「なんだ森田、いってみろ」
学校一軽い男といわれていて、かたっぱしから女の子に声をかける男が手を上げ、
「そのお姉さんもマリアさんのようにかわいいんでしょうか」
「・・・そっそれは主観の問題だな。ははは」
「ヘンな反応だなあ。はっきりいえないんですか」
「先生、私も聞きたいんですけど~」
「ああ早川・・・お前がそれをいうなあああ」
あらあら上向いちゃったわね。
「なんで早川がそれをいうんだよ。まさかマリアの姉さんがお前でもあるまいに」
「おおあたりよ。だからそういうわけでマリアに手を出したら私が許さないわよ」
「ががああんんん。そんなあ。なんでなんで姉妹なんだ」
マリアの誕生日は地球暦換算だと、1982年3月31日生になる。
そう、同い年なのよね。でもまさか同じクラスになるとは・・・わははは。
さて。それからマリアはすぐにクラスにとけこんでいった。マリアにいわせると、
地球はヒューマノイドばかりだからコミュニケーションしやすい、とのこと。
フロンティア11ていったいどういうとこなんだか。
マリアはいわゆる「フリフリでかわいい」系の服が大好きなようでそういう服ばか
り着ている。私はわりとあっさりした動きやすい格好が好みだから二人並ぶと姉妹に
はちょっと見えないわね、とメリーは言ったものだ。
「こんにちは、えりなさん」
学校そばのマクレナードでアイスコーヒーをすすっていると、声をかけられた。
私は真希とマリアと一緒。フロンティア11のファストフードよりもマクレナード
の方がおいしいそうでマリアもすっかり気に入ってる。
あれから一ヶ月が過ぎた。今ではマリアがいるのにも慣れたわ。
「こんにちは、真由」
「なにしてるの・・・ってみりゃわかるか」
「午後の昼下がりにのんびりアイスコーヒーをすすっているところよ」
「そちらの女の子は誰なの」
「はじめまして、マリア・リーザ・セレイバーンです。えりなの妹です」
「はぅっ・・・妹・・・」
「そう妹よ。なかなか素直でかわいいわよ」
真由、なんか固まってるみたい。
「ほら、自己紹介しなさいってば」と真希。
「あ・・・。はじめまして。松川真由ですよろしく。真希の妹です」
「何じっとみつめんてのよ、失礼でしょ、真由」
「ははい。そうだよね。それにしても・・・なんというか・・・似てないですね」
「そりゃしょうがないわよ。母親が違うし、育ちも違うしね」と私。
「それじゃそのこれで」
真由はたったったっと去っていった。
「真由、だいじょぶなのかしら」
「・・・多分あの子、はにゃーんてなってたのね」と真希。
「はにゃーん・・・て女同士でしょ」
ちなみにはにゃーんというのは、テレビアニメ「チップコレクターさゆり」のヒロ
イン、上諏訪さゆりの口癖・・・って真希に教えてもらったわね。
「ここだけの話だけど私もあの子もかわいい女の子大好きですもの」
「まきぃぃぃぃ、あんたねぇぇぇぇ」
「ああヘンな意味じゃないから誤解しないでね。私はやさしい男の人もすきだし、か
わいい女の子も大好きっていうだけのことよ。私自身は自分のことかわいいって思っ
てないから・・・そのあこがれっていうかなんていうか」
「あこがれかあ・・・。私もマリアみたいなふりふりな服って似合わないようだし」
「なにいってんのよ。今度そういうのをさくさくっと着せたげるわよ」
「あんたねえ・・・」
「さてそれはともかく。妹っていればいたで結構大変だってそろそろ気づいたでしょ」
「・・・それはそうかもしんないわね」
「そんなあああ」とマリア。
「でも、いればいたで結構楽しいわね」
「辺境駐在」Report.3 あとあがき
というわけで予定通り「シスター」です。意味は単純に「妹」です。
突然えりなに妹が出来ました(笑)
普通妹って後につくるわけなんだけど、それだと設定と矛盾するのでどうしようか
と思って、でまあこうしました。
えりなのパパはママとらぶらぶだったから、浮気なんてしてないという設定だった
ので^^;
ああ舞台が宇宙でよかった(爆)
フロンティア11もフロンティア99同様、もちろん連盟建設のステーションなん
ですが、途中で民間会社に売却されてたんですね。
そんな人口過密で手狭なところで育ったのがマリアなわけです。
マリアは50億人という数字に驚いてますけど、連盟の惑星で50億も住んでると
ころはありません。中央星系でもせいぜい10億くらいです。
いかに地球が珍しいかおわかりいただけたかな^^;
マクレナード(McLeonard)はマクドナルドとかヤクドナルド(笑)とかああいうお店
です。バリューセットとかももちろんあったりします。
作者の住む町は田舎なので97年までマクドナルドがありませんでした(とおいめ)
「チップコレクターさゆり」(爆笑)Chip Collector SAYURI
精霊とポーカーの勝負をして勝つと精霊がチップになります。そういう話。
もちろんポーカーに負けてもだだをこねてあばれる精霊もたまにいます。
#封印するとチェスのコマになるのは「ジャンヌ」がやってるしなあ。
ヒロインの友人はもちろんビデオで撮影とかするわけです。
・・・それじゃ次回もエリナといっしょにれりーずっ(^^;)
1999/4/10
p.s.この話をかいたあとも地球の人口は増加し続けています。
なんとかならんもかのう。
作者が住んでいたのは岐阜県の田舎なので1997年までマクドナルドがなく、
たまに名古屋に行った時ぐらいでした。もちろん今は2店舗ありますが。
その後作者は移住して現在は某海外県に住んでいます。もちろんマクドナルド
が近くにありますよ。
チップコレクターさゆりは、執筆当時人気だった某アニメが元ネタです。
カードを集める小学生の話です。空戦魔導師じゃないのに堂々と空を飛んで
いましたねえ。今にして思えば。
2012/3/22 by BLUESTAR