Report.1 ウェルカム・ホーム
辺境駐在 Written by BLUESTAR
Report.1 ウェルカム・ホーム
20世紀も終わりに近く、辺境の宇宙ステーションで私はメリーと出会った。
それがあのさわがしい日々の始まりだったのだ・・・
「エリナさん、支店長が呼んでますよ」
汎銀河連盟の宇宙ステーション、フロンティア99にあるレストラン「レッドム
ーン」にジャッドがやってきた。今は地球、いや日本時間でいえば1998年4月
12日日曜日の夕方だった。もっともここで普通使われるのは銀河標準暦なんだけど。
「わかったわ」
私はすっかり空っぽになったグラスをそのままにして立ち上がった。店の入口でカ
ードで支払うと、店を出る。
キャメロード・トレーディング、フロンティア99支店の支店長室までは歩いて3
分。呼び出された用事はとっくに見当がついていた。
「エリナ・ル・アートブルクです」
「入りたまえ」
「失礼します」
中に入ると、支店長の前に背の高い女性がいる。
「紹介しよう。こちらがエリナ・ル・アートブルクだ。そしてメリー・アニー・ロ
ーゼ・ライク・ミル・プラスコット。地球出張所の副所長ということになる」
「はじめまして」
あやうくおじぎしそうになるのをこらえる。銀河社会におじぎという習慣はない。
「こちらこそよろしく」
「あの、ところでそうすると所長は誰になるんですか」
あ・・・2人とも凍ってるみたい。私なんかまずいこといったかな。
「エリナ・・・いきなりぼけないでくれ。エリナが所長だよ」
「あややや。そうなの。今初めて聞いたけど」
「というわけで彼女はエリナの部下ということになる。がんばってくれたまえ」
「はぁい」
そのあと、すぐ隣にあるオフィスで、支店のみんなにメリーが紹介された。
あそうそういきなりメリーって呼んでるけど、自己紹介の時に本人がメリーって
呼んでくださいっていったからそうしてるのよ。私もアートブルクって呼ばれても
ピンとこないので、エリナって呼んでっていったけどね。
フロンティア99ははっきりいって辺境のど田舎なので、若い女性が配属される
というのはそれだけで大事件。みんなはこぞってメリーを歓迎して質問ぜめ。
そしてそのまま、「レッドムーン」で歓迎会に突入した。
歓迎会というと聞こえはいいがもちろんその実態はただの宴会ね。
飲めや歌えやの大騒ぎ。もちろん私も飲みまくって食いまくったわ。
メリーはというと・・・私以上に飲みっぷりがよくて、ぼこぼこ飲みまくるのよ
ねえ。はぁ・・・圧倒されちゃった。
「・・・オートパイロット・オン。さあこれでいいわ」
私の個人所有の小型宇宙船チェリーブラッサムは、永遠の夜の闇の中を地球へ向
かう。フロンティア99から地球までは約8時間。同じクラスの最新型だともう少
し早いんだけどね。何しろこの宇宙船はパパの遺品だからなあ。
「どう、楽しかったかしら」
「ええ。なかなかにぎやかだったです。はめをはずすってああいうことなんですね」
「あれでも今日は一応歓迎会だから少し押さえてたみたいね」
「本当ならここでいろいろ話でもしたいんだけど・・・ごめんなさいね。私眠くっ
て」
「それはみててわかりましたわ」
「だから地球につくまで眠らせてもらうわ」
「わかりました」
「それじゃおやすみなさい」
私はエリナ・ル・アートブルク。日本では早川えりなという名前を使っている。
異星人のパパと日本人のママの間に生まれて日本の東京都友角市で育った。
ママは幼い頃に亡くなり、パパも1地球年前に事故死したのでそれからはずっと
一人暮らし。地球の暦でいうと1971年7月11日生まれの16歳。
日頃は高校生として、友角市の私立桜台学園高等部に通っている。
もっとも地球の高校生で宇宙船を持ってるのは多分私くらいかしら。
そしてバイトとして、銀河系ナンバー2の貿易会社、キャメロード・トレーディ
ング、フロンティア99支店地球出張所所長として働いている。
もともと地球出張所はパパが開設したものでパパの亡くなったあとは私がその仕
事を引き継いでいる。といっても別にパパの娘だからこの仕事をやってるわけじゃ
ないのよ。
ある程度の頭脳と知識があって、なおかつ銀河社会と地球社会に詳しくないと
仕事にならないのよね。私は地球育ちだし、まあそういう意味では打ってつけ、と
いうわけでこの仕事をしているのよ。ちなみに高校に通うのが本業だと思っている
からバイトといってるだけでまあ実際のところは短期特殊契約社員とかになってる
けどね。
まあ辺境のど田舎の地球ではあんまり仕事がなかったりもするのが問題かな。
「おはようメリー」
「あ・・・おはようございます。もうすぐ地球ですか」
「確かにもうすぐ地球ね」
私はメリーにコーヒーを出していた。
「ところでこれ、地球のコーヒーですか」
「ええそうよ。ただのインスタントだけど」
「これなかなか・・・いい味ですね」
「ヘンならヘンって素直にいっていいわよ」
私はキーをたたいてコクピットのサブディスプレイに時間を表示させた。
上が銀河標準時、下が日本時間。
「下がもしかして日本時間ですか」
「そうよ。地球の時間については知ってるかしら」
「1時間が60分、1日が24時間、1年が365あるいは366日。惑星全体を
分割して時差設定があるんでしたね」
「そうよ。さあ日本は今、朝か昼か夜かわかるらしら」
「・・・朝ですね」
「はいご名答。ついたら私は学校に行かないといけないからそのまま学校へ向かい
ますのでそのつもりで」
「あの、地球のハイスクールってどんなところなんです」
「それこそいろいろいろいろいろいろ・・・ってとこかしら」
そしてメインディスプレイに地球がかなりくっきりと見えてきた。よし、今だ。
「ウェルカム・ホーム、メリー。ここが私の故郷よ。辺境のささやかな星だけどね」
ウェルカム・ホームっていうのは以前なにかの小説でみた言葉だ。いつか使えない
かってずっとおもってたのよね・・・
「これが地球なんですね。結構きれいな星ですね」
「ほめてくれてありがと。いつまでもきれいとはかぎらないけどね」
「それじゃさっそくで悪いけど、私学校に行くから、留守番しててね」
「はい。でも間に合うんですか」
「駅まで走ってぎりぎりだと思うわ。それじゃ」
メリーは私に手をふってくれた。私は駅へ向かって走りだした。
「辺境駐在」Report.1 あとあがき
おきらくなライトコメディのはずなので気が向いたらおつきあいくださいませ。
辺境の惑星ではたらく少女が活躍する(とは限らない^^;)話ということになります。
ちなみにタイトルの辺境というのはもちろん地球のことです。勘違いしないようにきをつけてくださいね。
最初はギャラクシーポリスにしようかと思ったですが、それだと結構ありがちなきがしたので、少しひねってはたらく少女にしてしまいまし
た^^;
一応全10回くらい(予定)ですが、大河ドラマじゃないんだし、多少長くなっても別にかまわないしなあ。どうせ一話完結だしね。
素敵な話は私にはちよっち無理だけど、今はこれがせいいっぱい。
・・・それじゃ次回もエリナといっしょにれりーずっ(^^;)
1998/8/1
p.s.
えっと、あとがきです(爆)。この話は最初草の根BBSに発表して、のちに自分のウェブサイトに転載しました。そして今回「小説家になろう」に参戦です。
当時の恥ずかしいあとあがきもほぼそのままお届けしました。
2012/3/15 by BLUESTAR