要求
目の前に現れた結花は、二年前に時間が止まったにも関わらず、ちゃんと二年分成長していた。
ぼくを、映しているからか。
服もぼくと同じ。パーカーにジーンズ。男っぽい服装。
外見もぼくと一緒。それは生まれた時からそうなのだが。
だが纏う雰囲気も、作る表情も、何もかもが異なっている。確かに別人。そうとしか言いようが無かった。
しかしそれは、二年前のあの頃のままだった。
結花は、何一つ変わっていなかった。
「ひっ……!!」
その事実に気付いたぼくは、恐怖と驚愕のあまり後ずさった。
底なし沼に突っ込んだみたいに足が上手く動かない。よろけてぼくは尻餅をついてしまった。
その様子を見て、あらあらと結花が柔らかい笑みを漏らす。
鏡が蛍光灯の光を反射している所為か、彼女は所々がてらてらと光っている。
蛞蝓が這った後を思わせた。
――絶望が主催した舞台の真ん中で、主役としてスポットライトを浴びているみたいだ。
観客はぼく。そして、――――化け物。
「相変わらず貴女、お転婆ね。うふふ、可愛い可愛い。本当に」
くすくすと口に手を軽く当て、とても女らしく結花は嗤う。その仕草が酷く似合う。ならぼくにも似合う筈なのだが、ぼくにはそんな事到底出来そうにもなかった。
いや。
似合う似合わない以前に、こいつと同じ動作などしたくも無かった。
「な、何であんたが……っ!」
ぼくは尻餅をついたままで、必死で声を押し出した。掠れて震えたみっともない音しか作れない。
完全に、ぼくは結花の気配と存在に呑み込まれていた。
道端で幽霊に遭遇しても、殺人犯にナイフを突き付けられても、こんなに怯えない気がする。死んでいるかどうかなど関係なく、ただ相手が結花であるから問題なのだ。
そんなぼくの気持ちを知ってか知らずか、結花は気軽にああ、と小さく手を打つ。ぽん、と場違いな可愛らしい音が弾け出た。
「あのね、今日は貴女にお願いがあって、ここに来たの」
ぼくはそんな嬉々とした表情で笑う結花に、何も言えない。
――死人が『お願い』だと? ぼくに向かって、何を?
この異形である姉が、死んだ身となった今、ぼくに何を要求する事があるのか。
そもそも何故死んだ人間が一体鏡の中から現れたりするのか。
幾つもの疑問が水泡のように浮かんできた。
だがそんな事は、結花の前では些細な疑問となってしまう。呆気なく弾けて無くなった。
こいつならこの程度の事、至極簡単にやるに決まっている。現実に、そうなっているのだから。
結花の世界に呑まれたぼくの喉はあっという間にからからに渇いて、声が正確に流れない。砂漠に放り込まれたのではないかと錯覚する。ただ微かに、空気が漏れるだけだった。まるで、判決を待つ囚人だ。
ぼくと同じ顔の姉は、相変わらずの楽しそうな顔のまま、両手を胸の前で組んで、言った。
「貴女の体、ワタシに頂戴?」




