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一つだけの言葉

作者: 月兎

 ……ここはどこだろう?目が覚めたら知らない場所にいた。動いてみて気がついた。私は鎖で手足を繋がれている。動かすたびにチャリチャリと金属の擦れる音がする。特にできることもないので、部屋の様子をぐるっと見回してみた。窓はなく、家具の類もない。が、とりあえずは清潔に保たれている。いったいここは何なんだろうか。


 どれくらい時間が断ったかは分らないけど、しばらくして扉が開いた。白衣を着た、如何にも研究者ですといった男達が部屋に入ってきた。その時、私は愕然とした。私には彼らの話している言葉がわからなかったのだ。これでは今いる場所を知る事もできない。逃げられないではないか!


 その後、男達は私を一瞥して何かを話して去っていった。なぜだろうか、彼らが私を見た瞬間、背筋が薄ら寒く感じた。彼らの目はとても温度なんて感じられるようなものではなかった。




 あれから(たぶん)3日経った。いつでも照明が付いているから時間の経過が分らない。でも、とりあえず寝て起きた数から3日ということにしておく。


 食事は粗末ながらもきちんと出されている。この3日間のうちで私がここに連れてこられた理由がわかった。実験台だ。といっても人体実験というほどではない(まだ私が受けていないだけかもしれないが)。この3日のうちに薬をたくさん飲まされた。飲んだら頭が痛くなり、次の薬を飲んだらその頭痛はすっかりなくなった。効き目が(たぶん)でてないものもあった。




 今日、初めて人体実験のようなものがあった。といっても麻酔で眠らされていたから目覚めてから気がついた。私の爪が、凄く鋭くなっていた。とりあえず壁に爪を立ててみたら、凄く深い傷が付いた。……コンクリート製なんだけど、この壁。




 初めの日から大体1ヶ月経った。私の体はあちこち弄繰り回されたようだ。なんか視力が格段に上がった。ちょっと自慢だった黒髪は真っ白になってしまった。


 私は、このままどんどんバケモノになってしまうのだろうか……。怖い。元に戻りたい。



 ここはどこ?また知らない場所で目が覚めた。でも、今度は前と違って暖かい普通の部屋だ。家具もきちんとある。本棚とか机とか、コップとかが生活観を感じさせる。窓からは久しぶりに見る暖かい日差しが差し込んでしている。


 やわらかいベッドから起き上がると、一人の男が部屋に入ってきた。長い金髪が印象的な男だった。体を起こしている私に驚いて、なにやら話しかけてきた。でも、やっぱり何を言っているのか分らない。私が言葉を理解していないと気づくと、私を安心させるかのように優しく微笑んで私の頭をぐしゃぐしゃと掻き撫でた。……久しぶりに人に触れた気がする。




 彼はとても暖かかった。見ず知らずの私にとても暖かく接してくれている。でも、なぜ私じゃここにいるのだろうか。


 鏡を見せてもらって初めて自分がどうなっているかを知った。こんな化け物じみた姿をしているのに、なぜ彼は私に普通に接してくれるのだろうか?




 今日、私は一つ言葉を覚えた。きっとあれは"おはよう"という意味の言葉だ。だけど、まだ私はその言葉を口にしていない。なぜなら、それよりも先に言いたい言葉があるからだ。出来るなら一番に彼に言うのはその言葉にしたい。心配してくれている彼には悪いけど。


 今日、また言葉を覚えた。でも多分あの言葉じゃない。なんか雰囲気が違うもん。


 ついにそれっぽい言葉を聴いた!一度しか聴いていないしから発音もよくわからない。そもそもその言葉で本当にあっているのかわから無い。もう一度、もう一度聞きたい。




 2週間。長かった。ついにやっと確信を持っていえる。私はあの言葉を覚えたのだ!


 心配してくれている彼を騙しているのは罪悪感を感じたけど、それも今日で終わりだ。早く帰ってこないかなぁ。




 大変だ!彼が傷だらけで運ばれてきた。運んできたのは時々この家に遊びに来る人だった。その人が彼に手当てしているのを、私はただ見ているだけしか出来なかった。こんな時に私は何も出来ない。


 あのあと、結局彼のそばを離れる事ができないわたしは、彼のそばに毛布をもってきて寝た。手当ての甲斐があってか、彼の容態はどうやら落ち着いたようだった。今は穏やかに眠っている。あの人も帰った。




 彼が目を覚ました。あれっ?前が霞んで見えない。頬を涙が伝うのを感じる。涙なんてもう枯れたかと思ってた。いきなり泣き出した私に彼がうろたえている。でもそんなもの知ったものか。心配させた罰だ。あぁ、そうだずっといいたかった言葉を言わなければ。


 「ありがとう」


 あれ?発音がおかしかった?なんか彼が固まっている。


 び、びっくりした!次の瞬間、私は彼の腕の中にいた。でも、びっくりしたけど、なんか、とってもあったかい。


 あ、急に起き上がったせいか傷口を押さえてる。


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