輪郭
いつもの席に着き、
画面を開くと、昨日の続きがそのまま残っていた。
消えてもいないし、増えてもいない。
指が動いた。
気づいたときには画面が一段下に進んでいた。
周囲の音は一定で、
誰かの咳も、キーボードを弾く音も、
紙の上を走るペンの音もいつも通りで、
すべて同じ距離にあった。
名前を呼ばれた気がして顔を上げたが、
誰もこちらを見ていなかった。
無表情な顔で、
それぞれの世界を生きていた。
もう一度、画面に視線を戻す。
文字はちゃんと並んでいる。
意味も、多分、合っている。
それで十分な気がした。
隣の席のいつもの彼から、
資料が一枚、音もなく回ってきた。
何も言われなかったが、
何を求められているのかは分かった。
「了解です」
それだけ言って、画面を見る。
正解だったのかどうかはわからなった。
それでも、時間だけは進んでいた。
正午を知らせる聞き慣れた音につられて、
人が立ち上がる。
僕も立ち上がる。
どこへ行くかは決めていなかったが、
足は勝手に動いた。
廊下のガラスに映った自分は、
少しだけ平べったく見えた。
厚みがない、というほどではなかった。
コンビニに着き、
カレーライスと必要のないものを一つ買った。
お釣りを財布に戻すのが面倒で、
そのまま募金箱に入れた。
「ありがとうございます」
誰かの代弁みたいな声が、背中に届いた。
外に出ると、
すれ違う人の影が、床に落ちていなかった。
立ち止まって空を見上げると、
空には雲が広がっていた。
何かの形をしている気がしたし、
何の形でもない気がした。
立ち止まる僕を避けるように、
人の流れが、静かに分かれていく。
席に戻り、
容器のふたを開ける。
中に入っていたのは、
スプーンじゃなくて、箸だった。
透明な容器の中で、
箸は、少しだけ斜めにズレていた。
取り出そうとして、
手が一瞬、とまった。
そのまま、ふたを閉じた。




