反対側
僕はベッドの中で目を覚ました。
確か、昨夜は玄関で倒れたはずだった。
時計を見ると 12を指している。
昼なのか夜なのかわからない。
カーテンは閉まっていて、
部屋に光が入る隙間はなかった。
「それでも生きる?」
昨夜の問いだけが、
まだ雲のように頭の中に残っている気がした。
ただでさえ、
どうでもいいことを気にしてしまう僕にとって、
考えるのは とにかく面倒なこと だった。
起き上がり、
キャップが開いたまま置かれていた水を飲む。
味はよくわからなかった。
スマートフォンを手に取って、
通知がないことに安心した。
予定を思い出し、
急いで着替えると、
ポケットを何度か確認して家を出る。
空は見上げなかった。
外に出ると、
街はいつもと変わらず同じ色をしていた。
信号は赤。
誰もいない横断歩道の前で立ち止まる。
車は来ていなかった。
それでも信号は赤だった。
渡らなかった自分は、
あの瞬間何を優先していたのか…
考えるのは面倒だった。
駅前のコンビニで、
同じポスターを三枚見た。
「新発売!!」と大きく書かれてあったが、
多分昨日もここにあった。
改札を抜けて、ホームに降りると、
電車がちょうど来ていて、
小走りで乗り込んだ。
いつもの駅。
いつもの路線。
なのに、ドアが閉まってから、少しだけ違和感が走った。
『逆だ!』
間違えた、と思ったが、慌てるほどでもない気がした。
次の駅で降りられればいい。
『じゃあ、この時間は何なんだろ』
今この数分は、
目的地にも向かっていないし、戻ってもいない。
ただ、動いている。
アナウンスが流れて、
見慣れた駅名が表示される。
扉はもう開かない。
閉まったまま、電車は進む。
考え事をしていた、というほどではなかったし、
初めて使う駅でもなかった。
それなのに、気づいたら反対側にいた。
急にこみ上げてきた恥ずかしさで周囲を見渡すと、
みんなスマホに目を向けていた。
目的から外れた人間を、
この街は特に気にしないらしい。
それが、少しだけありがたかった。




