七話◇幼なじみの過去(未来)
やってやる
婚約話をうやむやにした後は。
フェリクスによる『石の投げ方講座』が開かれて、僕らはしばらく水切りに興じた。
それぞれの最高記録はフェリクスが七回で、アリシアが十二回、僕は……。
なぜか何度やってもボチャンと沈む石は、一度も跳ねる事はなかった。
どうして……。
それ以上に悲しい事件などは起こらず。
最後は「近いうちにまた呼ぶ」とフェリクスに言われて帰路に着いた。
そういえば完全に余談だけど、『第二王子殿下』という呼称が嫌いだと言う話について。
フェリクスに聞いてみたところ……。
「お前も自分がアリシア嬢の兄君やらカーティス公子の弟君、それかガルブレイス家の次男殿、などとばかり呼ばれたら嫌になると思わないか?」
「……要らない場でまでいちいち第二王子と付けられるのは、相手にそのつもりがなかったとしても、"第一王子のオマケ"とでも言われている気分になってなんだか気に食わないんだ」
そんなふうに返ってきて、確かにそうかもしれないと妙に得心がいった。
帰りの馬車で、両親に「フェリクス殿下と仲良くなれました」と報告をした。
お父様はいつも通りにそうかと呟き、お母様は(ニヤリと)笑って良かったわねと言ってくれた。
それを見たアリシアは、またヒュッと喉を鳴らしていた。
◇ ◇ ◇
それから数日後。
一日の終わりの時間に、部屋でまったり読書をしていたときに。
ふと僕は、そういえば明日は、オルドリッジ夫人とその子息のクロードが我が家に遊びに来る日だったなと思い出した。
クロード・オルドリッジは、僕とアリシアにとって幼なじみといえる存在で。
三歳くらいの頃から、定期的にお互いの家に訪問している仲だった。
まぁつまり……物心ついた時にはすでに一緒に遊んでいて。
初めて会った時の事は小さ過ぎて覚えていないけど、共に過ごすのが当たり前な友達?という感じだ。
クロードが来たら何しようかなぁ。
また剣術でも教えてもらおうかな?
……というのも、僕は例の体質のせいで虚弱扱いされていて、うちでは剣術や体術の類を一切やらせてもらえないんだ……。
軽い護身術だけは教わってるけど。
それに引き換え。
クロードは父親が騎士団長で、幼いながらもすでに英才教育を受け始めている。
……正直すっごくうらやましい。
僕だって格好良く剣を振るってみたい!
ので!クロードに会えた時には、こっそり特訓をしてもらっているのだ。
うん、明日もお願いしよう!そうと決まれば今日は早めに寝て明日に備えないと。
なんてワクワクしながら読みかけの本を閉じ、僕は明かりを消してベッドに潜り込んだ。
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
気がつくと俺はリビングのソファに座り、隣でゲームに興じる妹をぼんやり眺めていた。
妹はテレビ画面から目を逸らすこともなく、楽しそうにコントローラーを操っている。
『……クソッ、誰も来ない場所だと思ってたのに……とんだ邪魔が入っちまったな……』
聞こえてきた音声に、何気なくそちらを見遣る。画面には不機嫌そうな茶髪の男キャラが映っていた。
カチカチとボタンの音がして、ボイスの無いテキストの文字が次々と流れていく。
『なぁアンタ……悪いんだけどここにはもう来ないでくれねぇか?そんで今見たことは忘れて、二度と俺にも構うな』
再び男のキャラボイスが再生される。
不機嫌を通り越して威嚇するようなキャラグラフィックと、冷たい声色。
なんだコイツ、敵対キャラか?
いつもの乙女ゲームやってたんじゃないのか?
「はーっ、マジ初期クロード塩すぎ!まあここから一気にデレるのが堪んないんだけどー」
あっ、やっぱ乙女ゲーなのか。
コレが攻略対象って……この出会いイベ?第一印象お互いに最悪過ぎるんじゃないか?
「これがどうなればデレるのか想像つかないんだけど」
「おっ?にぃちゃーん興味持っちゃった?まあ聞いてくれたまえよ、このクロード・オルドリッジってキャラはねぇ」
妹の独り言につい反応してしまうと、そこから怒涛のマシンガントークが始まる。
うっかり虎の尾を踏んでしまった……。
仕方がないので適度に相槌を入れる作業に取り掛かる。
ほんの数年前まではあんなにアホ可愛い妹だったのに、まさかこんな事になるなんて。
時の流れってのは、なんて残酷なんだ……。
「騎士団長の息子で本人もちっちゃい時から騎士になりたくて頑張っててめちゃんこ将来有望だったんだけどー」
「うん」
「学園入学直前の……なんだっけな?そう、お茶会だ。事前交流の会場で何故かクリムゾンウルフっていう魔物が出てきて、婚約者のシャロンを庇って足を怪我しちゃうの!」
「なんでお茶会に魔物が出てくるんだよ……」
「そういうストーリーだからしょうがないじゃん!そんでぇ、ヤバイ毒にやられた上に、グロ注意な抉られ方して、後遺症が残っちゃうんだよ。そこから騎士の道も閉ざされてやさぐれツンツンボーイになっちゃったのが、今のコレ」
なぜ製作陣はそんな悲惨な設定を盛り込むのか……。
イヤなやつに見えていた画面の不機嫌ボーイが、今は憐れに思えて仕方ない。
「魔法とかで治んないのかよ」
「いやぁ、それ治すのがヒロインの役目だからね?ヒロインが出てくるまではそこまで治せるほどの聖魔法の使い手は存在しないの!だからこそ治療後のクロードがデロッデロになるんじゃん。これ乙女ゲームだよ?」
それが普通、みたいに言われても……。
なんなの?乙女ゲームって登場キャラに悲惨な過去を背負わせないと気が済まないのか?
そういや前にやらされたゲームも悲惨な過去持ちのヤツが居た気がする……。
うわあ……と、ドン引きの構えで遠い目をする俺に構わず、妹の話はまだまだ続く。
『ねぇ、にぃちゃん。ちゃんと見ててよ?またスチル集めも手伝ってね?』
うんざりと聞き流しながら、だんだん意識が遠のいていって――
気付けば、視界が暗転していた。
◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
僕は、ふかふかのベッドで目を覚ました。
起き上がって辺りを見回したあと、自身に目を向ける。
小さな身体と、左腕に嵌められた腕輪。
それを確認して、細く、長い息を吐いた。
(いまの僕は、アシェル・ガルブレイスだよ……)
まだふわふわとした頭でも、どうやら僕は前世の夢を見ていたんだなと理解する。
……だけど。
だんだんと意識がはっきりしていくにつれて、ドクドクと心臓が嫌な音を立てて鼓動を速めた。
「クロードが、攻略対象……」
……いや。彼が攻略対象だとかそんなのはこの際どうだっていい。
問題なのは、僕の幼なじみが『物語の為に悲惨な過去を背負わされる存在』かもしれないという事だった。
そんなこと分かってて見過ごせる訳がない……。
まずは冷静に考えなきゃと、無意識に握っていた拳を緩めて思案する。
幸いにも、事件が起きるずっと前に思い出すことが出来たんだ。
時期も場所も、何が起きるかだって分かってる。きっと防げる、防いでみせる!
何度か深呼吸を繰り返して、ようやく少し落ち着いてきた頃に。
僕は引き出しからノートを取り出して、日本語で書かれたページを開く。
『アリシアの悪女化回避』という標題と、それについてまとめたメモの下。
そこに『事前交流会でクロードを守る』という決意を、文字として新たに書き足した。
ここがゲームの世界なのかよく似た別世界なのかは分からないままだけど、いつだって最悪の想定をして動く必要がある。
やらないで後悔するより、要らない苦労をしたと笑えればそれでいいんだから。
まだ見ぬヒロインには悪いけど、こちとらストーリーなんてくそくらえだ。
アリシアもクロードも、他にも救える何かがあるなら……僕の手が届く範囲で変えていってやる。
そもそも僕の存在そのものがイレギュラーなんだから何をしたって全部シナリオ外なんだよな!
鮮明な夢のせいか、言葉の乱れが少しばかり酷い気もするけど……。
妙に吹っ切れて開き直った僕は、とりあえず今日を楽しむことにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(前世の夢、きちゃった……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
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