六話◇婚約なんてまだ早い!
イヤじゃないよ
僕らがごにょごにょ自己紹介をしていた頃、大人たちも色々していたようで。
お父様は国王陛下に用事があるとその場を去り、お母様と王妃殿下はすでに席に着いて二人で静かに会話をしていた。
そういえばさっきも名前で呼び合っていたし、どうやらお母様と王妃殿下は仲が良いらしい。
それにしても……。
ふたりともクールな系統の迫力ある超絶美形なせいなのか?
おそらくきっと、楽しげに微笑み合っているはずなのに。
はたから見ると【悪女の集い(悪だくみを添えて)】という感じのヤバイ雰囲気なんだけど……。
はっきり言って、超!こわい!
「なんだ、母上たちは先にお茶会を始めてしまったのか。ミリー、ぼくたちにもお茶をたのむ。ウォーレン、レディから席に座らせてくれ」
軽く怯えてしまった僕とは違って、フェリクス王子は使用人たちに堂々と指示を出していく。
身近な使用人だけかもしれないけど、ちゃんと名前を覚えて呼び掛けている事に、彼の元来の人柄を垣間見た気がした。
「お茶会はつまらないが、今日は友人になれるかもしれないお前たちに会うのが楽しみでな?ぜひ食べさせたくてお気に入りの茶菓子を用意させたんだ。だからまあ、菓子にはぞんぶんに期待してくれ」
誇らしげに胸を張る王子は、あまりにも可愛い……って、これは不敬かな?
僕の中にひそんでいる『お兄ちゃん気質』がゴリゴリ刺激されてしまう。
なんなんだよ、良い子かよ……。
破滅フラグなのに……。
「失礼致します」
控えめに声をかけられて。
ウォーレンと呼ばれていた、青年って感じの騎士の人に軽々と抱き上げられて、椅子に座らせてもらう。
この椅子、僕らが自力で座るにはちょっと高過ぎるもんね。
少しして、僕らの前にティーカップと小さめに取り分けたスイーツが載ったお皿がそれぞれ並べられた。
「まあ……!とっても良い香りですわ」
サーブされたお茶に、アリシアが感嘆の声をもらす。
確かにすごくいい匂いだな。
甘くて、どこか爽やかで。
「……果物みたいかも?」
思ったままを口にすると、王子は「気付いたか」とうれしそうに笑って。
続けて、「今日は茶も特別なんだ。さぁ、なんの果物か当ててみろ」と……どこか挑戦的な顔で告げた。
それを皮切りに、お茶会の時間は終始和やかに過ぎていった。
今日のために厳選されたというスイーツはどれも本当に美味しくて。
何度も感動のため息が漏れたけど、その度に王子が得意げに説明してくれるのが、『お兄ちゃん』に刺さりまくって身悶えた。
お茶の謎は、僕が「もも」、アリシアが「りんご」と答えたところ。
まさかのピーチアップルティーだった。
たしかに混ざってないとは言われなかったけど……!
ちょっと悔しい。
全種類の味見を終えて、特に気に入ったものを追加で少しだけ頂いたところで、王子が王妃様に声をかけた。
「母上。ふたりを庭園に案内したいのですが、よろしいでしょうか?」
「……ええ、構いません。折角の機会です、使いをやるまでは遊んでいらっしゃいな」
「夫人も、それで良いだろうか」
「はい。殿下のお望みのままに」
お母様にも了承を得ると、僕らは王子に促されるままその背を追いかけた。
さっきの騎士さんだけが、微妙な距離をあけて付いて来ているようだった。
「良い場所に案内してやる、ついてこい」
そう告げた王子に付き従って、歩くこと数分。
僕らは、庭園を抜けた先の、池のほとりにたどり着いた。
ここは王子の休憩スポットのひとつなんだと教えてくれる。
「きれいなところですわね……素敵な場所を教えてくださってありがとうございます」
はにかんだような笑顔を見せるアリシアに、王子の頬に少し赤みが差した気がする。
……気のせいだよね?
今日会ってすぐ婚約とかないよね?
「……ぁ、ああ!アリシア嬢も気に入ったか?」
何かをごまかすように、小さくかぶりを振った王子。
彼は足下に積まれた(騎士の人がそっと置いていった)小石の山から一つを手に取ると、それを池に向かって横薙ぎに放り投げた。
その石はパチャンと小気味良い水音を五回鳴らしてから沈んだ。
王子様、水切り上手いな?
「フェリクス第二王子殿下も、こういった遊びをされるんですね……」
さっきまでの、王子然とした堂々たる振る舞いとのギャップに呆けてしまう。
僕の言葉の、何かが気に障ったのか。
王子は少しムッとした顔で次の石を放り投げた。
今度は三回跳ねた。
「……その呼ばれ方は好きじゃない。せめてフェリクス殿下とでも呼んでくれないか?」
「あ……申し訳ありません……」
「本当に固いなお前は……。アシェル公子、いや。アシェルと呼んでいいか?友になれるのなら、アシェルもフェリクスと呼んでくれて構わないというのに……」
むすりとした顔から、淋しげな表情に変わる王子に、ジクジクと罪悪感が湧いてくる。
どうやら僕は、アリシアの破滅を遠ざけなきゃと思うあまりに。
彼に対して、必要以上に線を引いてしまっていたのかもしれない……。
力無く投げられた石はそのまま沈んでいった。
「まあいい。友人なんて……無理矢理なるものじゃないしな、お前がイヤなら」
「ごめんっ、フェリクス!」
淋しげなまま笑う、物分かりの良い諦めた子供の顔に耐え切れなくなって……。
僕はつい不敬も忘れて遮ってしまった。
フェリクスはきょとんと、大きな瞳をさらに丸くしていた。
「そんな風に思わせてごめん。イヤだなんて思うわけない、僕もフェリクスと仲良くしたいよ」
そう言ってあらためて手を差し出すと、フェリクスはそれをしっかりと握り返した。
そして、なぜか肩を震わせて笑い始めた。
「……ふっ、ははっ。おま、お前っ……極端すぎるだろう?さっきまであんなにガチガチだったくせに……!」
いきなり様まで外して呼べるのか、と大笑いされて、やっと気付いた。
「うわっごめん、フェリクス様って呼ぶべきだった」
「今更だ、構わないからそのまま呼べ。本気でお前のことが気に入ってしまったぞ、アシェル」
かならず側近にするから覚悟しておけ……と言われて、ちょっと早まったかもしれないと思わなくもなかったけど。
好意を示してくれる子を理由もなく突き放すなんて出来るわけないし、これはもう仕方ない。
そんなことを考えていると。
「アシェルばっかりずるいですわ……!わたくしだってフェリクス殿下と仲良くなりたいのに……」
ぷくりと拗ねたアリシアから非難の声が上がった。
淑女の仮面は、かろうじて剥がれ切ってはいないけど、だいぶ素に近かった。
「レディを放っておくなんてどうかしていたな。すまないアリシア嬢……お前も友になってくれるのか?」
少し芝居じみた謝罪をするフェリクスだったけど、最後は真面目な声で問いかけた。
「もちろんですわ!」
にっこりと即答するアリシア。
またしても頬を赤らめた気がするフェリクスは、何か考えるように顎へ手をやった。
「しかしアリシア嬢は婚約者候補だったな……。呼び捨てにするのはちゃんと婚約を結んで――」
「だっ、だめです!」
不穏な単語に思わず叫ぶ。
また王子の言葉を遮ってしまった。
我ながら不敬が過ぎるけど、黙って聞いてなんていられなかった。
「アシェル?」
「こっ婚約なんてまだ早いよ!もっと……ほら、お互いをちゃんと知ってからでないと……!」
微妙に気まずい空気の中、己の言い分を主張をする。
「……それは、たしかにそうかもしれないが……」
驚いた顔のままフェリクスがつぶやく。
「なんだ、その……お前たちは本当に仲がいいんだな?」
そう続けたフェリクスの肩が震え出し、その場には再び大きな笑い声が響いたのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(水切り、むずかしいね……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
⭐︎乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。




