四話◇魔法の基礎を学びました
ぼくのたのしみ
ふたりしてハウスメイドに起こされると、時刻はもう昼食前だった。
思ったよりもぐっすり寝ていたみたいだ。
どうせ午後からしか授業がないので良いと言えば良いんだけど、図書室で本を読む時間がつぶれてしまった。
寝て起きたらスッキリしたのかだいぶ落ち着いていたアリシアだけど、大泣きしたのが恥ずかしかったらしくぷんすこ怒るのをなだめるのには苦労した。
……バレてなくてこれなんだから、お父様とお母様に見られていたことは絶対に話せないな。
誠心誠意、力を尽くしてドレスを選ぶ約束をしてなんとかお許しをもらえた。
朝食後はほとんど寝ていただけなのであまりお腹も空かず、ふたりだけで軽い昼食を済ませた後は授業のための部屋へと向かう。
「ごきげんよう、クルス先生。今日もよろしくお願いします」
時間前でもいつも僕らより先に来ている先生に、ユニゾンで挨拶をする。
「ご機嫌よう、アリシアさん。アシェルくん。今日は前の続きからだけど、覚えていますか?」
銀の丸縁メガネの奥、アクアマリンの瞳が穏やかに細められた。
少し長めのふんわりウェーブがかった茶髪も先生の温かい人柄にとってもよく似合っていて、僕もアリシアもこの魔法授業のクルス先生が大好きだった。
「属性の種類と、特性?についてのおはなしですよね」
「そう。どんな種類の魔法があるのか、魔法によってどんなことが出来るのか……というおはなしの続きですね」
よく覚えていましたね、とアリシアを褒めながら教材を広げる先生。
分厚い絵本のような装丁のそれは、学園に入る前の子息子女向けのたくさん絵が載っている教科書だ。
ちなみに僕らもいずれ通うことになるだろう学園は完全に貴族向けの学び舎で、ほとんどの貴族子息子女が通っている。
九歳になる年から四年間を初等部、十三歳から三年間を中等部、十六歳から三年間を高等部として通うことになっていて、それまではそれぞれに家庭教師をつけるなどして基礎の教養を学ぶ。
カーティス兄様は去年初等部に入学していて、あと二ヶ月もすれば二年生になる。
寮も完備されていて、王都やその付近のタウンハウスから通える者以外は寮生活を送ることになるようだ。
この貴族学園以外にも、裕福な平民や、勉学よりも実技のみを重視したい子息子女などが通う女子学習院や騎士養成学校なども存在しているらしい。
……と、学園については今は置いておいて。
この世界には魔法が存在し、全ての人は大なり小なり魔力を有している。
基本的には血筋の良い王族や高位貴族などがたくさんの魔力を持って産まれやすいが、必ずしもそうと決まったわけでもないこと。
大きく分類すると『光・闇・火・水・土・風』の六つの属性があり、得意な属性はあってもまったく使えない属性というものはないらしいということ。
それに加えて聖属性を使える人が、全体の約二割くらいは存在すること。
もっと稀に、属性かどうかは分からないけど時間や空間に作用する魔法を使える人が存在するらしいことなどを、先生の優しく穏やかな声が教えてくれる。
あと、それぞれの属性で使えるオーソドックスな魔法の例もいくつか聞かせてくれた。
「ここまでで分からなかったところや難しく感じたところはないですか?」
「うーん、たぶん大丈夫です」
本から視線を上げて答えるけど、アリシアはじっとなにかを考え込んでいるようだった。
「アリシアさんはどうですか?気になることがありましたか?」
柔らかくたずねる先生に、アリシアもようやく視線を上げる。
「先生……水魔法のちゆと、聖魔法のちゆはなにがちがうの?」
「ああ、それは……たしかに気になりますよね」
アリシアの問いに少し考える素振りをしたあと、先生はにっこりと微笑んだ。
んー!言われてみるとたしかに気になる!
全部、なるほど!すごい!と受け止めていたから自分で考えることをしていなかった……。
僕もアリシアみたいに『なぜ、なに、どうして』の疑問を、もっと持っていないといけないなぁ。
クルス先生が言うことには。
「水魔法での治癒は、切り傷や強くぶつけてしまった時などの、小さな怪我を治すことが出来ます」
ふむふむと僕らは真剣に聞き入る。
「そして聖魔法の治癒では、小さな怪我だけではなく骨折などの大きな怪我や、人によっては……足りなくなってしまった身体の一部……いわゆる欠損も治すことが出来るほどの使い手も歴史上には存在します」
なるほどすごい!
……でも……そんな大きなケガなんて想像したら怖くなっちゃうから、知識としてだけ受け止めなきゃ!きっと僕もいま、隣のアリシアとおんなじように青い顔をしているに違いない……。
「さらに最も大きな違いは、複雑な呪いを解いたり、あらゆる病や毒を完全に癒すことが出来るのは、聖属性の魔法だけだと言われています。単純な呪いを解いたり症状の緩和だけなら、こちらは光魔法での代用が可能です」
丁寧に、でもゆっくり過ぎない速度で紡がれる言葉を頭の中で整理する。完全に水魔法の治癒と光魔法の癒しの光の上位互換じゃん。
「聖魔法ってほんとにすごいんだなあ……。ねぇ先生、どこかで聞いたことがあるんですけど、教会のえらい人になるには聖魔法が使えないとダメっていうのはそのためですか?」
「おや、それは一般教養の範囲ですね。その通りですよアシェルくん。中級職――教会での下から二番目の階級職である『副助祭』までなら誰にでもなれますが、それより上位の聖職者になるためには聖魔法を使えなくてはならないんです」
担当教科じゃない内容の何気ない疑問にも優しく答えてくれるクルス先生は、本当に優しくて素晴らしい先生だ。
……ふくじょさい?なんて聞いたこともなくて、ちっとも想像つかないけれども?
アリシアも頭の上にハテナが五個くらい浮かんでそうな顔してる。
「うーん。今のは中等部一年生あたりの範囲なので、まだ難しかったかもしれませんね?」
ハテナまみれの僕らにフォローを入れてくれた先生は、堪えきれずに笑いをこぼした。
その後も、いくつかの質問をしたり今日聞いたお話を覚えているかのおさらいをしたり。
習った範囲の教科書(やっぱり絵本か?)を音読したり、最後にちょっとだけ『体内魔力の感じ方』について教わって授業を終えた。
僕はどうしても体内魔力を感知してみたくて、つい訓練に夢中になっていた。
そうしたら。さっきお父様に魔力を抜いてもらって、ほぼ透明になったばかりの腕輪の魔石の色が、ほんのり赤く色づき始めて……。
結局、僕の訓練はそこで強制終了させられてしまった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(クルス先生、わたしも好き……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
※次話からは一話ずつの更新になります。
⭐︎乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。




