十一話◆男でも四人も寄ればかしましい
目ざといんだよなぁ
学園の夏季休暇が近付いてきたある日。
僕はまたヒューゴとブレインくんの寮の部屋へとお呼ばれしていた。
ちなみに今日は、ニールくんも自室で着替えてから合流する予定だ。
あれから何度か遊びに来てるけど、前回見た時よりもなんとなく部屋の中がスッキリしているように見える。
元々ヒューゴは必要以上に物を置いておかないから、主にブレインくんのスペースが、だけど。
もしかして、帰省の準備でも始めてるのかな?
定位置になりつつあるヒューゴの椅子に座って、二人に質問してみる。
「そういえばさ。ふたりって、休暇中は家に帰るの?」
「そっスねー。オレは帰んなくても良いかなと思ってるんスけど、やっぱそういうわけにもいかないみたいなんで…………寮には早めに戻ってくるつもりっス」
ブレインくんはそう言うと、少しだけヒューゴを見てから僕に視線を戻した。
「そうなんだ。ヒューゴは?」
「…………俺は帰らない」
相変わらず几帳面というか、ヒューゴは脱いだ制服をきっちりとワードローブに掛けながら、こちらも見ずに端的に答える。
「そうなの?」
「……辺境までの往復にかかる日程を押してまで帰りたいとは思わない。それに、煩わしい兄達から離れて過ごす寮の方が快適だ」
「な、なるほど……」
そういえば前にもそんなこと言ってたなぁ。
「でもさ、僕らの年齢で夏季休暇にも親元に帰らないなんて、よく許してもらえたね?」
僕の言葉に、なぜか隣でブレインくんが「ぶふっ」と吹き出した。
「聞いて欲しいっスよアシェル様っ!ヒューゴってば、『許可申請書を出さないつもりなら髪を全部削ぎ落としてやる』って、手紙で脅したんスよ!しかも一房の髪の毛まで添えて……!」
「…………家族に脅迫状って……」
ソレはヒューゴを溺愛してるらしい親族たちには効果覿面だったわけだ。
やってることはあまりにも過激だけど、愛されてる自覚が無いと出来ない方法だよね……。
「ブレイン。流石に笑い過ぎだ」
「いてっ」
ツボに入ったように笑い続けていたブレインくんは、軽く頭にチョップをされてようやく笑うのをやめた。
ちょうどその時、控えめなノックの音がして。
「あっ、あの……ニールです」
幼さの残る高くて澄んだ声が扉越しに聞こえると。
僕ら三人の中で唯一立っていたヒューゴが、一番に行動した。
「ニールか。待っていた」
そう言いながら、ヒューゴは自ら扉を開けてニールくんを迎え入れる。
おずおずと部屋に入ってくるニールくんは、やっぱり小動物みがある。
「ニール君いらっしゃいっスー」
「お、おじゃまします」
僕の隣に寄せていた椅子から立ち上がり、ブレインくんがニールくんの手を取り部屋の奥へと誘導する。
「椅子とベッド、どっち座るっスか?」
「えと、じゃあ…………ベッドかな。ありがと、ブレインさま」
ブレインくんのベッドの縁にちょこんと座るニールくんに、ヒューゴがお決まりの言葉をかけるけど。
「ニール、たまにはこっちに座らないか?」
「だっ、大丈夫でひゅ……!お気遣いありがとうございます……!」
「そうか」
いつも通り断られていた。
…………お気付きだろうか?
なんとあのニールくんが、ブレインくん限定で敬語が外れていることに……!
ブレインくんの、人懐っこいのに気配り上手で気さくな性格が、ニールくんの緊張を溶かしたんだろう。
これはブレインくんだからこそ成せる技なんだと分かっている。
分かってはいるけどうらやましい……!
ふと見ると、ヒューゴも似たようなことを思っていそうな顔をしていた。
その後の話題で、ニールくんは休暇中に帰省はしないけど逆に家族が王都まで来て、しばらく共に観光する予定なんだと聞いた。
それも休暇中ずっとという訳じゃないから、ブレインくんと同じように休暇の後半には寮に戻ってくるんだって。
そしてヒューゴは。
なんと、休暇中にフェリクスやクロードと一緒に、定期的に王宮で剣術の指南を受ける約束を取り付けているらしい。
もともとはクロードが、父である王宮騎士団長のランドルフ卿に『もっと鍛えたいから休暇中だけでも騎士団の訓練生に混ざりたい』と頼み込んでいたのが始まりで、二人はそれに便乗したというわけだ。
みんなそれぞれ予定があるんだなぁなんてぼんやり考えていたら。
「そういえばアシェル様、最近は例の年上の人とはどんな感じなんスか?」
「ぅえっ!?なに……えっ、どんな感じって……」
突然に話をふられて慌ててしまう。
「しばらくずっと、なんか悩んでたっスよね?でもちょっと前からなんか、元気なアシェル様に戻ってたから。聞くなら今かなーって」
確かに、クリスタ嬢のことで悩んでたもんね……。
「それで、進展あったんスか?アピール作戦は?」
うっ…………。キラキラした目を向けられても、大して話せることなんてないんだよ……。
「進展は……………………ない」
「うっそだあ!アシェル様のカフスの色が変わったのも、オレちゃんと気づいてるんスからねー?何かあったから突然変わったんでしょー」
目敏いっ。目敏すぎるよブレインくんっ……。
確かに今、僕とダリルさんはお互いの瞳の色のカフスを付けているけど。だけどもさ?
「あの人に、他意なんてないよ…………」
僕は遠い目をして、あの時のことを思い出す。
◇ ◇ ◇
以前ダリルさんにプレゼントしようとしてカーティス兄様に叱られたあのカフス型の防護魔道具は、命の恩人へのお礼という形でようやく渡すことが出来た。
「御礼だなんて、そんなのいいのに……。ふふっ、でも嬉しい。ありがとうねアシェルくん」
そう言って、優しく笑ってくれた。
ちゃんと受け取って貰えたことにほっとしていると、ダリルさんが不意に僕の片手を取った。
「あ、これってアシェルくんとお揃いなんだね」
「っ!?えっ、えっと、お揃いと言いますかなんと言いますか、これって実は少しずつ売り出す予定の魔道具でして、いろんな色があって兄様や父上も色違い?お揃い?で持っている物で決して狙ってお揃いですねなんて言うつもりもなかったと言うかそもそもその発想は無かったんですけど気になるなら少しデザインを変えてもらって改めてお渡しすることも……」
お揃いという言葉にビックリしすぎて、僕はとっさに思いつく限りの弁明を重ねる。
捲し立てる僕に、ダリルさんは一瞬キョトンとした顔をしたけど、すぐにおかしそうにクスクスと笑った。
「アシェルくん、よく舌噛まないねぇ」
ほら落ち着いて、と頭を撫でられてしまった。
完全に子供扱いだけどうれしいので困る……。
「ところでアシェルくん。さっき言ってたの………………魔道具なんて、絶対高価なものでしょ?お礼にって言ってくれたけど、あまりにも釣り合って無さすぎて受け取れないよ…………だから」
「そっそんなことっ……」
わー!魔道具だって知られたら遠慮して受け取って貰えないかもって思ってたのに言っちゃってた!
僕のばか!ぽんこつ!
「アシェルくんが嫌じゃなかったら……いまアシェルくんが付けてるの、お下がりで貰えない?」
「…………へ?」
「新品は畏れ多くて貰えないし…………あっ。それに私、そっちの色の方が好きだし。だめかな?」
「だ、めじゃ、ないです……」
こてんと首を傾げたダリルさんに、僕は頷くことしかできなかった。
「ありがとう!ほんとにこれ、すっごく綺麗だよねぇ。アシェルくんの瞳の色にそっくり!」
こっちの気も知らないで無邪気に喜ぶダリルさん。
あのですね!?
このままだと僕はいま手元に返ってきた、あなたの瞳の色のカフスを付けることになるんですよ?
それってお互いの色を日常的に纏うことになるんですけど!?意味わかってます!?
…………とは言えなかった。
◇ ◇ ◇
そんな回想を、命の恩人うんぬんは言い辛いのでお礼ではなくプレゼントとして話したり、若干の情報操作をしながら語り終えると。
「うわ、やばいっスねそのひと……。ソレ、もしも狙ってやってたら相当な悪女っスよ?」
そんな感想が返ってきた。
「僕だってそう思うよ。でも………………」
「天然なんスね……」
「うん……。悪意とか裏表なんて言葉、一番縁がない人なんだよ」
なんとなく気不味い空気になりかけた時、ニールくんが口を開いた。
「あ、あのっアシェルさま!ボクはアシェルさまの恋を応援しますからっ……」
「よく分からんが、頑張れ」
「オレらで良ければいつでも話聞くっスから!」
ニールくんの言葉を皮切りに、ヒューゴとブレインくんもそれぞれ励ましの言葉をかけてくれた。
「…………みんな、ありがとう!」
いまだに『相手は同性なんだ』と打ち明けられていないことに、少しだけ罪悪感を覚えたけど。
僕はみんなの言葉を笑って受け止めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(寮組のチグハグなのに仲良いとこ、すきです……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。




