十話◆その後のあれこれ
ありがとね
ダリルさんとカーティス兄様に病気の完治を伝えたあの日から、数ヶ月。
あの後すぐに、カーティス兄様と一緒に、両親にも病気のことやそれが治ったことなどの報告をした。
そうしたら連日のように、今まで治療を試みてくれたことのある教会の偉い人や治療師なんが来るようになって、やたらめったら検査や聞き取りなんかをされたりして……。
一週間くらいは怒涛のような目まぐるしさだった。
ある程度『回路奇形』についての調査が進んだところで、父上が調査協力への終了を宣言してくれて、ようやく僕は穏やかな日常を取り戻せた。
その大半が産まれてすぐに儚くなってしまうような、未知の難病についての詳細や治療法なんて、そりゃあ大騒ぎになるよね……。
クリスタ嬢の聖魔石は、今後の研究のためにもどうか譲って欲しいと王家から直々にお願いされてしまって、今は宮廷魔法師団の元にあるらしい。
もはや断るのが不可能に近かったから、兄様やダリルさんとも相談して『人から人へと渡ってきたもので出所は不明』ということで通したけど、もしかしたら彼女の今後の人生に大きな変化をもたらしてしまうかもしれない事態となってしまった。
「まぁた辛気臭い顔してるー」
「あ、J」
いつも通りどこからともなく現れたJは、僕の自室に人除けの結界を張る。
いつかの約束通りにJから遮音と人除けの結界を教えてもらった僕は、自室にいる時は常に遮音の結界を張っていた。
独り言とか寝言が多いみたいだから、ね……。
「病気も治って魔法も使えるようになって、もっと"サイコー!"って顔してて良いんじゃねぇの?」
「それはそうなんだけどさぁ……やっぱり人ひとりの人生変えちゃうかもって思ったら気になるよ」
「アシュ坊ってさ、わりと損な性分だよね」
僕の眉間を人差し指でつん、とつついてJが言う。
眉間にしわが寄ってたのかな。
「原作?ってやつでもその子そのうち聖女候補になるんだろ?それがちょっと早まるかもってだけじゃん」
「ちょっと、って……七年近くも早まったらそれはもうちょっとじゃないでしょ」
反論する僕に、Jはやれやれとでも言いたげに肩をすくめたあと、天気の話でもするような気軽さで事も無げに告げた。
「今のとこ、魔石に込められてた魔力が歴代聖女固有の《完全治癒》の残滓に近いって解析されただけで、魔石で変質した残りちょっとの魔力だけじゃ個人の特定なんて出来そうにないって話だよ?」
「それって……」
不意にもたらされた情報に目を丸くする。
「つーわけだから、そんな悩む必要ないかもな?」
ニヤリとちょっと悪そうな顔で笑うJ。
「もしかして、わざわざ調べてくれたの?」
「あー?まあ、話聞けそうなとこ、ちょっとうろついたりはしたかな?」
やっぱり調べてくれたんだ……。
なんだかんだ、Jって優しいんだよね。
「Jくん!ありがとう!」
「うおっ」
がばっと抱き付くと、身長差のせいで腰回りにしがみついた感じになっちゃったけど、気にしない。
「へへっ、やっぱりJくんって頼り甲斐あるよね」
ぎゅっとしがみつきながら見上げると、なぜかJは片手で顔を覆って天を仰いでいた。
どうしたんだろう?
「………………アシュ坊ってそゆとこあるよね……」
「どういうこと?」
「いんや、別に」
そう言うとJは、僕を掴むとぺいっと剥がしてそのままカウチに座らせる。
J自身も慣れたように向かいに座ると、さっきよりも悪そうな顔で笑った。
なに?怖いんだけど……。
「しばらく大丈夫そうなヒロインちゃんは置いといてさあ。最近どうなの?ダリルさんと!」
「えぇっ!?なん、なんで!?僕まだJに話してないよね?うそでしょバレバレなの?え?もしかしてみんな知ってたりする?」
ビックリしすぎてカウチから転げ落ちそうになったところを、一瞬で背後に移動したJに支えられて事なきを得る。
「みんなってのが誰を指してんのか分からんけど、少なくともこの家の中ではオニイサマくらいしか気付いてないんじゃない?」
「そう、なの……?」
「お嬢はダリルさんとやらとが来た時にはあんまし一緒に居ないし、Kはお嬢以外の感情には死ぬほど鈍感だからな?」
……確かに?
でもそれってつまり、現場を見てさえいれば丸分かりってことじゃないの?安心出来なくない?
「いや、オニイサマがやたらと敏感なだけで、普通ならよくある子供の憧れくらいにしか見えないんじゃね?俺はアシュ坊の中身に前世の大人も混じってるって知ってるから」
普通に返事を返されて、また心の声が口から出てたことに気付いてますます不安になる。
「………………思ってることが全部口から出ないようにするような魔法ってない?」
「え。やだよ、おもろいからアシュ坊はそのままでいて。それにそんな魔法聞いたことねぇし」
「ひどい……」
「はは!そう拗ねんなってー。そこもアシュ坊の良いとこじゃん?」
いじける僕の頭をちょっぴり乱雑にわしゃわしゃ撫でると、Jはあらためて向かいに腰掛けた。
「ほらアシュ坊。今なら交代までの時間、全部くれてやるからさ。機嫌直せよ」
しばらくジト目で無言を貫いていた僕だったけど、その言葉には反応せざるを得なかった。
「うそ!Jくん大サービス過ぎない?」
いつもJはふらりと気紛れに姿を現しては基本的にそこまで長居はせずに去ってしまうから。
今から交代までの時間だと二時間くらいかな?
僕はちょっと怒ってたのもどこかへ飛んで、すっかり嬉しくなってしまった。
「僕さぁ、Jに聞いてみたいこととか話したいこととか、いっぱいあるんだよね」
「ん?早まったか?…………まぁ、お手柔らかにな」
そう言ったJの声は、なんとなくいつもより優しく聞こえた気がした。
その後の僕とJの会話は、多岐にわたった。
あまり過去に踏み込んだような質問はしなかったけど、Jは意外と聞けば大体のことには答えてくれて、お陰で色々と知ることが出来た。
逆に気になることが増えたりもしたけど……。
元々は火属性が得意だったけど、影になってからは闇属性が一番扱いやすくなった話とかは特にそう。めちゃくちゃ気になる。
アリシアの警護にあたっていない時間にも色々とやる事があるそうで。
王家やガルブレイスに叛意を起こしそうな家門がないかとか、直接フェリクスやアリシアと接する機会の多いAクラスの生徒や学園の教師陣についてを調査している別の影と情報交換したりもしているらしい。
それとは別に警護や監視の定期報告もあるらしくて、特に異変はなくても週に一度は必ずKとJが個別に呼び出されてるんだって。
影って大変なんだなぁと思って、お給料って結構もらえるの?と聞いてみたところ。
「給料?報酬はあるっちゃあるけど……生きてる事自体が給料みたいなもんなんだよなあ……」
と、久々に死んだ魚のような目になってしまったので慌てて話題を変えた僕だった。
逆にJからも質問されたけど、面白半分なそれは、ほとんどがダリルさんについてだった。
自覚したきっかけだったこともあり、なし崩し的に例の夢のアレについてもバレてしまって……。
「は!?ませ過ぎじゃね?……いや、中身混ざってんだからそうでもないのか…………っつーかマジで難儀だなアシュ坊!」
そう言った後、Jはお腹を抱えて『うはは!』と独特な笑い声でしばらく笑い続けていた。
存分に……涙目になるくらい笑うJに、怒れば良いのか楽しそうで何よりと思えばいいのか分からず微妙な気持ちになったりもした。
そこからはもう開き直ってひたすらダリルさんについて話していたら、いつの間にかJのダリルさんの呼び方が『女神さん』になっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(Jの過去編もメモ書きしてます……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。
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追伸*
本日の活動報告には【猫の日番外if】の
アリシア×フェリクスのミニトークがあります♪




