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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第二章◆進行中】  作者: かみながあき
第二章◆初等部編

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【2/22 番外if】にゃんにゃんの夢

猫の日なのでお約束な感じの特別番外を書きました!

特別番外ifは時空が歪んでいるので、本編とは一味違ったお気楽なムードでお楽しみください。

※安定の夢オチです

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

「どうしてこうなった?」

 

 僕は自室の鏡の前で、状況を飲み込めずにぼんやりと自分の姿を眺めていた。

 そこに映し出されているのは、紫がかった銀髪、アメジストの瞳、自分で言うのもなんだけど『見目の良い良家の子息』としてのアシェル・ガルブレイスの姿。

 

――ぴこぴこ

 

 不自然に頭から生えた白いネコミミと、背後にちらちらと映り込むこの細長いシッポさえ無ければ。

 きっと今日も、僕は『異常ナシ』のありふれた日常を過ごすことが出来たというのに……。

 

「いやいやいや……どう考えてもおかしいでしょ!?昨日まで普通だったじゃん……!」

 

 声を荒げると、それに呼応して動くネコミミとシッポ。

 駄目だ……これは本当に『生えている』……。

 僕だけに起こった異常なのか、それとも世界が改変でもされたというのか。

 確かめてみるために、僕は部屋を飛び出した。

 

 

「アシュ…………なんなのそれ……かわいい……!どうして!?何があったの?」

 

 驚きながらもテンション高めに寄ってきて、躊躇いもなく僕の頭に手を伸ばすアリシア。

 

「僕が聞きたいんだけどね?」

 

 ひたすらに撫で回されながら、遠い目をする。

 アリシア程じゃないにしろ、控えめな手つきで同じように僕を撫で始めたカーティス兄様が、やけにのんびりとした口調で話し始めた。

 

「そうだね……。何かの文献で読んだことがあるんだけれど、これはおそらく『女神の悪戯』の一つだろうね。毎年この時期になると、選ばれた数名にのみ『猫の耳と尻尾』が現れるそうだよ」

 

「えぇ……。女神のイタズラ、ですか……?」

 

「うん。なんでも、耳と尻尾が生える以外では身体に不調もないし、次の日には消えてしまうそうだよ。今年はアシェルが選ばれたんだねぇ」

 

 普段の兄様と比べると、ちょっと考えられないくらいにのほほんとした様子に、察してしまう。

 

(兄様、もしかして猫好きなんじゃ……?)

 

「じゃあ僕、今日はずっとこのままなんですか?いやだぁあ……!学校やすみたい……」

 

 せめてみんなに生えているなら恥ずかしくもないかもしれないけど、世界で数人なんて、学園で僕一人だけが猫化している可能性の方が高いじゃないか。

 こんなの晒して過ごしたくないと、ついズル休みしたい気持ちが口からこぼれた。

 

「まあ、一日くらい休んでも問題はないと思うけれど。……でも、良いのかい?ダリルが見たら、喜ぶと思うよ」

 

「っ……!に、兄様…………それは……」

 

 兄様の言葉は、僕にとって究極の二択だった。

 好きな人にこんな恥ずかしい姿を見られたくないという強い気持ちはもちろんあるんだけど。

 もしズル休みをして、あとからダリルさんが僕の状況を知った時の反応を考えると……。

 

『どうして教えてくれなかったの……?わたしも見たかったのに……』

 

 悲しそうに瞳を潤ませるダリルさんの姿が余裕で想像できてしまって、プルプルと拳が震える。

 ついでにネコミミとシッポもしゅんと垂れ下がる。

 

「彼、隠しているつもりみたいだけど、可愛いものに目が無いからね。今のアシェルを見たら…………ふふっ、膝から崩れ落ちるかもしれないね?」

 

 完全に楽しんでいる兄様と、無心で僕を撫で続けるアリシア。

 どうやら『悪戯のターゲット』に選ばれてしまった時点で、僕には味方なんていないようだった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 馬車の中でもずっとアリシアに撫でられ続けて、だんだんと諦めモードに入ってきた僕。

 友人たちにどれだけ笑われるのか、考えただけでも気が滅入るけど、仕方ない。

 

(これも、ダリルさんを悲しませないため……。くっそぉ……女神のくせに悪戯なんてしないでほしいよ……!)

 

 どうして僕が選ばれてしまったのか。

 どうせならダリルさんのネコミミが見たかった。

 

 そんな届くはずもない願望と女神への恨みを募らせながら、ついに学園に到着してしまった。

 

「フード付きのパーカーでもあれば良かったのに……」

 

「訳のわからないことを言ってないで、早く行くわよ」

 

 チラチラと横目で見られたり、露骨に振り返って三度見くらいされたり、教室に着くまでのあいだにも僕のHPはゴリゴリ削れていった。

 

 極力視線を気にしないように努めながら、コソコソと入室するものの。

 

「うわっ!?アシェル、お前もか!」

 

 バカでかいクロードの声のせいで、一気に注目を集めてしまう。

 

「ふざけんな!こっちはできるだけ目立ちたくないっていうのに、大きな声出さないでよ……!」

 

「すでに見られているとはいえ、あなたの声も大概よ。あと、お口が悪いわ」

「……っ」

 

 呆れた声でそう言うと、アリシアは僕のつま先を踏んづけてから、するりと席に着いてしまった。

 

「……っていうかクロード、お前もって……」

 

「ああ、それな。良かったっすね殿下!殿下だけじゃなかったっすよ!」

 

「うむ」

 

 驚いてそちらを見ると。

 言葉通り、フェリクスの輝く金髪の隙間から、黒いネコミミがぴょっこりと生えていた。

 

「フェリクスっ……!きみも仲間だったんだね……!」

 

 感極まって抱きつくと、フェリクスは動じた様子もなく淡々と口を開いた。

 

「不本意ながらそのようだな。いまのところ、ぼくとお前以外には見かけていないが」

 

「ずいぶん落ち着いてるね……。僕なんかズル休みしようとしたくらいなのに……」

 

「まあな。"女神の悪戯"の件は聞き及んでいるし、世界で数人というのに選ばれるのは…………光栄と言えなくもないだろう」

 

 あまりにも堂々とした王子の風格に、僕は少し気圧されながらも感心する。

 

(そうか……。恥ずかしがるから余計に恥ずかしいんだな…………って、フェリクスちょっとだけ耳赤いじゃん)

 

 とにもかくにも、自分だけじゃなかった安心感と。

 おそらくフェリクスを露骨にイジることが出来ないため、見てみないフリをしてくれるクラスメイトたちのお陰で、なんとか今日一日は乗り越えられそうだと安堵した僕だった。

 

 座席に着くと、前の席でアリシアがフェリクスに小声で話しかけていた。

 

「フェリクス様……その、お昼休みにでも、撫でさせては頂けませんか?」

 

「…………好きにしろ」

 

 あれだけ僕のことを撫で回しておいてまだ撫で足りないのか、それともフェリクス(黒猫)も愛でたいだけなのか。

 なんにせよ、ふたりが仲睦まじそうでお兄ちゃんは安心だよ……。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 休み時間のたびに、フェリクス以外の友人たちに絡まれながら、僕は長い一日を乗り切った。

 

『アシェルさま、かわいいですよ。ふふ、今日はボクが撫でる番ですね!』

 

 ニコニコと日頃の仕返しのように撫で続けるニールくんと。

 

『なあ、これどうなってんの?マジで生えてんのか?』

 

 そう言って、白い耳や尻尾をグイグイと引っ張ってくるクロード。

 

『痛いっ!やめてよクロード!ほんとに痛いから!』

 

 涙目で手を叩き落としたけど、それだけじゃ気が済まなかったところ。

 アリシアをはじめとしたクラスメイトほぼ全員からじっとりと睨みつけられるクロードに、さらに追い打ちをかけるようにシャロン嬢からのお叱りが入って。

 針のむしろの状態のクロードから「ごめんなさい」という幼児のような謝罪をもらって、なんとか溜飲を下げたりなんかもした。

 

 無言で、どこから引っこ抜いてきたのか分からない草を僕の目の前で揺らしてみせるヒューゴや、「肉球は無いんスねぇ〜」と言いながら僕の手をふにふに触るブレインくん。

 今日は本当に、『みんなのオモチャ』状態でひどく疲れた……。

 

(ダリルさんに会いたい、けど……やっぱり見せるの恥ずかしい……)

 

 そんなことを思いながらも、足は勝手に中等部の図書室へと向かってしまう。

 ダリルさんは、放課後にはよく図書室で自習してから帰っていると聞いてるから、たぶん今日もいるはず。

 居なかったら居なかったで、それが運命なんだよ……。

 

(見せたくないけど、会いたい。会いたいけど、見せたくない……)

 

 複雑な気持ちを抱えながら、もうすぐ着いてしまうというところで。

 少し先の図書室の扉から、ダリルさんが、出てきた。

 

「……っ!」

 

 まだ心の準備が……と息を飲む僕と、僕を見つけて蜂蜜色を見開いて固まるダリルさん。

 

 次の瞬間。

 バサリと音を立てて、ダリルさんの抱えていた本が床に散らばった。

 

「……あっ…………うっ…………!」

 

「ダリルさんっ!?」

 

 突然胸を押さえて倒れ込むダリルさんに驚いて、僕は急いで彼のそばへと駆け寄った。

 

 膝をついて苦しげに俯くダリルさんは、まるで何かの発作が起こったような状態で。

 恐る恐る顔を覗き込もうとすると、うわごとのように小さな呟きが耳に入った。

 

「……なの…………きゃ、…………ダメ……」

 

「ダリルさん……?大丈夫ですか?」

 

「いますぐっ、保護しなきゃ、ダメ!!」

「うわっ!?」

 

 ガバリと勢いよく顔を上げたダリルさんにびっくりして、咄嗟に一歩後ずさる。

 

「ダメだよアシェルくん!尊いが過ぎる罪で捕まっちゃう!早く逃げなきゃ……!」

 

「えっ!?あの、ダリルさ、わっ!?」

 

 熱に浮かされたような瞳で、僕の腕を掴んで走り始めるダリルさんに連れられて。

 どこへ向かうのかも、これから何が起こるのかも分からないまま、ただ僕たちは校舎を走り抜けていた。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

 

「はぁ……はぁっ……ケホッ……よかった、確保できた……」

 

「は、はぁ……。ダリルさん……ふぅ…………ここは?」

 

 呼吸を整えながら尋ねる。

 今まで来たことがない中等部の奥の方のエリアに、ちょっと戸惑ってしまう。

 

「だい…………ふぅ、第二書庫だよ。ここなら、人も来ないから……」

 

 第二書庫、かぁ。

 見たところかなり古い文献ばかりが置いてある感じの、忘れ去られた書庫って感じだな。

 なにそれ、かっこいい……。

 

「ダリルさんはよく来るんですか?」

 

「まぁ、わりと…………って!そうじゃないよアシェルくんっ!なんなのその致死量レベルに可愛いの……!」

 

「えっ……」

 

「そんな姿でウロウロしてたら、(わたしみたいな)危ない人に捕まっちゃうんだからね……!?」

 

「ええぇ……?」

 

 今なにか、聞こえちゃいけない言葉が聞こえた気がするけど、気のせいだろうか。

 それにしたって、『危ない人に捕まる』だなんて、ダリルさんも大げさだなぁ。

 学園内にそんな人が外部から入って来られるわけないのに。

 

「……だめ、もう我慢できない……。アシェルくん……」

 

「わっ、わっ、わっ!なに、なんですかダリルさん!?」

 

 とろりとした瞳で両手をワキワキさせながらにじり寄ってくるダリルさんに、僕は困惑とほんの少しの恐怖を覚える。

 ダリルさんに『怖い』なんて感情を抱くのは初めてのことで、思わず喉が鳴る。

 

「吸わせて……モフらせて……。見てるだけなんて、もう耐えられない……」

 

「吸っ……!?まって、ダリルさんっ落ち着いて……!」


「ダメかな?いいよね、アシェルくん……」

 

 断ることも出来ないまま、ダリルさんはすでに僕のネコミミに鼻先を埋めて、そっと抱きしめるように背中に腕を回す。

 爆上がりする心拍数にフラついて、よろけたはずが自分からダリルさんの胸の中に飛び込んでしまう形になった。

 

 ぎゅっと抱き止められて、敏感な猫の耳をスンスンと吸われて。

 強張る身体と、「ピーン!」と立つ白い耳と膨らんだ尻尾。

 身体反応が完全に猫化しているような気がする。

 

「しっ、死んじゃう!ダリルさんっ、僕こんなの死んじゃうよ……!」

 

「ごめんねアシェルくん……。お日様の匂いがわたしを呼んでる……」


「ニャッ!?」

 

 お互いに会話が通じないような状態で、身体だけはずっと密着したまま。

 混濁しても意識を飛ばすことは出来なくて、天国の顔をした地獄のモフモフタイムはしばらく続いたのだった。

 

「ふうぅぅう……!シッポはさわらニャいでくださいぃぃ……う、く……んんっ…………!」

 

「かわいいねアシェルくん、かわいいよ……」

 

「もうやだぁ……!このままじゃほんとに"ネコ"になっちゃうぅ……!っ、僕はそっち側じゃニャいはずニャのにぃいっ!(クソメタ発言)」

 

 甘ったるい声で泣き言をもらしながら、ヤケになって自分からダリルさんに強くしがみついた。

 散々好き勝手にされたんだから、これくらいなら許されるはずだよね?

 お返しに僕だって吸ってやるもんと、顔を埋めた胸元でスンスンリベンジを仕掛けたところで、ダリルさんの身体がびくりと揺れた。

 

「……あっ、アシェルくん……?」


「なんですか、猫信者のダリルさん……」

 

 胸元に顔をへばりつけたまま、少しだけダリルさんを見上げる。

 顔を真っ赤にしたダリルさんは、さっきまでの熱に浮かされた感じじゃなくて、もう正気の瞳に戻っているようだった。

 

「ごっ、ごめんっ!可愛すぎて!つい、理性が飛んじゃった……。おこ……怒ってる……?」

 

「…………少しだけ」

 

「本当にごめんね……。許してください、アシェルくん……!」

 

 そう言って、最後に一度だけ僕のことをギュッと抱きしめると、ダリルさんは僕を引き剥がしてその場に土下座した。

 

「ちょっ……!?な、なにもそこまでしなくても……!もういいですからっ、やめてくださいっ……」

 

 僕が慌ててそう言うと、ダリルさんは座ったまま頭だけを上げて、僕の顔を仰ぎ見た。

 眉を下げて困ったような笑顔で、そっと口を開くダリルさん。

 

 だったけど、視界がだんだんと白に染まっていき、ダリルさんの声も遠く霞んでいく。

 

「……もし来年の"悪戯"でわたしが選ばれちゃったら、その時は仕返ししてもいいから……。今日のことは許してね、アシェルくん……」

 

 なんとか聞き取れた言葉に、どんな返事をしようとしたのかも、もう分からない。

 ホワイトアウトしていく世界で最後に聞こえたのは。

 

 

――猫の日を恒例にするかは、まだ決めていません……

 

 

 そんな、あまり聞き覚えのないようなよく分からない声だった。



 ◇    ◇    ◇

 

 ◇    ◇    ◇

 

 いつも通りにベッドの中で目覚めた僕は。

 どんな夢かは忘れたけれど、なんだかハチャメチャな感じだった気がする……と、起きたばかりだというのに妙に疲れた気分で伸びをした。

 

 何が気になるのかは分からないけど、なんとなく気になって姿見へと向かい合い、いつもと変わらない僕が映っていることに安堵する。

 

 今日は帰りにダリルさんを探しに図書室に行ってみようかなぁ。

 そんなことを考えながら、なんの変哲もない穏やかな一日が始まった。

 

 

 

 

突然の暴走、失礼いたしました。

ねこがねこでにゃんにゃんしてしまいましたが、「ねこだからしかたないね」とお許しくだされば幸いです。

みなさまは、白猫アシェルと黒猫フェリクス、どちらを愛でてみたいですか?

(わたしは欲張りセットがいいです)


暴走番外の最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


☆乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。

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