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【第二章開幕】乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった  作者: かみながあき
第一章◇幼少期編

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三話◇僕が守るって決めたから

きみをまもる

 

 カーティス兄様。

 

 僕とアリシアは今、普段めったにお会い出来ないお父様の腕に抱かれて運ばれています。

 お母様もいます。

 アリシアは泣き疲れて眠っています。

 何が何だか分からなくてこわいので、叶うのならば僕は今すぐ優しい笑顔の兄様にお会いしたいです。まる。

 

  

  

「どこへ運ぶ?」

 

「へぁッ!?…………えと、僕の部屋でおねがいします」

 

 無言の気まずさに思わず現実逃避してたら、急に声をかけられてびっくりしちゃった!

 そうか……と言うお父様の短い返事のあと、再び沈黙が訪れる。

 

 

 輝く銀髪に、切れ長の暗い赤の瞳。

 一部では『冷酷無比の彫像侯爵』などと呼ばれているという、視線だけで人を凍らせてしまえそうな黒幕顔のイケメンこそ僕らの父であるレイモンド・ガルブレイス侯爵だ。

 

  

 そしてその隣を歩くのが、母であるヴァイオレッタ・ガルブレイス侯爵夫人。

 兄様と同じ色の瞳は平時でもキツく吊り上がっていて、濃い紫のエレガントな巻き髪も相まって……妖艶美女なのは間違いないんだけど、やはりこちらも悪役系なオーラに満ちていた。どうして。

 

 

 事の経緯はどうあれ、このダブル抱っこである。きっと今なら仲睦まじい親子に見え……なくもない、んじゃないか?

 両親揃ってクールな無表情が標準装備だから、今どんな感情なのかまったく読めないけど!

 

 そんでもってお父様ってば、知性(INT)教養(EDU)にパラメータ全振りしたような細身に見えて実はめちゃんこ力持ちなんですね。あまりにも軽々抱き上げられてちょっとびっくり。

 

 

「……発作が起きたの?」


 心の中だけで騒がしくしていると、お母様の静かな声に問われる。

 

「いいえ、発作は起きていません」


 ちらりと様子をうかがうと、ほんの少し眉を寄せたお母様もこちらを見ていた。

 

 鋭い眼差しに怯みそうになるけど、なんとかこらえて笑みの形を作ってみる。

 

 

「…………そう……」

 

 ため息のような呟きをこぼすと、ひときわゆっくりとした瞬きのあとお母様はいつもの無表情へと戻った。

 もしかして……っていうのも変だけど、分かりにくいけど、無表情だけど(あと顔が怖いけど)。

 

 ……心配してくれてたのかな。

 

 

「ご心配おかけしてもうしわけ……」

 

「いい。()()は我々の勤めだ」

 

  

 謝罪を口にしようとすると、お父様の淡々とした声に遮られた。

 それって……『心配』のこと?

 お父様も心配してくれてた?ってこと?

 

 

 えっ?えっ?ええぇ?

 あのお父様が?

 

 

 呆然としているうちに部屋に着き、僕らは思いのほか優しくベッドに降ろされた。

 

 いつのまにか抱きしめられた体勢からは解放されていて、ベッドの上で座る僕の横にころりと転がるアリシア。

 眠っていても無意識に僕を探しているらしく、片手が落ち着きなく動き回りシーツの上を探っている……。

 

 その手を取り、腰の辺りに抱きつかせるようにして座り直すとおとなしくなった。

 

 

「今日の授業はお休みにしましょうか」

「え!?いえっ、午後からなのでだいじょうぶですっ」

 

 ふいに聞かれて反射のように答える。

 

 今はまだ一日の授業時間が短くて、各教科は週に一度ずつ午後の二〜三時間程度しかないんだ。

 (マナーレッスンならともかく)魔法の授業を休むなんてとんでもないっ。

 

 

 そのままお母様と少しの言葉を交わしている間、お父様は僕の左手に嵌められている腕輪の赤い石に触れていた。

 

 

 ややあって、お父様が退室するべく扉へ向かう。大きなベッドのふちに腰掛け眠るアリシアの赤い目元を撫でていたお母様も、それに続くように立ち上がった。

 ガチャリと扉を開きながら、最後に振り返ったお父様の唇が開かれる。

 

 

「何かあれば呼びなさい」

 

  

 無機質な冷たさを感じるような声色だけど、やっぱりこれって、あの……その。

 とにかく返事をしなくちゃと慌てて開いた僕の口からは、混乱した思考のまま平時にはあり得ないような言葉が飛び出した。

 

  

「なっ、なにかあった時にしか会えないんですか……!?」

 

 

「………………は……」

 

  

  

 時間にしてどれくらいだろうか。

 

  

 小さく息を呑む音は果たして誰から発された音だったのか。

 お父様は薄く唇を開いたまま驚愕といったふうに普段は細い切長の目を見開き、それはもう今までただの一度も見たことが無い顔をしていた。

 

 お母様に至っては、前世で見かけた『宇宙背景と猫を合わせた画像のアレ』のような表情で……って、きっと僕も似たような顔をしてるんだろうけど。

 

 

 みんなが目をまん丸にしたままフリーズしていたけど、最初に立ち直ったのはお父様だった。

 ンン……と喉だけで咳払いしていつもの無機質な表情を纏う。

 

「何もなくとも呼んで良い」

 

 短く告げてそのまま今度こそ振り返ることなく退室して行った。

 

「わたくしも……いつでもお呼びなさい」


 そう囁いてほんのり瞳を細めたお母様と少しの間見つめ合う。

 現実味がなくふわふわとした心地のまま「はい」と小さく頷くと、口角だけを微かに上げたお母様も静かに部屋を後にした。

 

 

 残された妹の顔を見ると、今はもう穏やかに寝息を立てている。

 ここが乙女ゲームの世界だってなんだって構わない。仮にそうでも、あんなストーリーの通りになんてさせなければいいんだ。

 

 

「アリシア……」

 

 

 どんな世界だったとしても、僕のやるべきことが変わるわけじゃなかった。

 この泣き虫でちょっと気の強い片割れの妹を守ってみせる。ただそれだけ。

 

「絶対にきみを悪女になんかさせない(まもってみせる)から」

 

 大泣きして体温が上がり張り付いた前髪をそっと払ってやると、腕輪の異変に気がついた。

 さっきまで濃い赤色をしていた石が、今はほんのり赤味がかったクリスタルのように透き通っていた。

 

 この腕輪は魔道具で、一見すると装飾の宝石に見えるそれは、じつは高純度の魔石だったりする。

 

 

 僕は産まれながらに魔力がうまく循環できない体質で(しかも原因不明)、時折り滞った魔力が溢れ出しては発熱し、呼吸も困難なほどの発作を起こしてしまうのだ。

 それを抑えるために、余剰な魔力を吸い取るこの魔道具の腕輪を常に装着していなければならない。

 

 透き通った石は魔力を溜め込むほどに赤く濃く色付き、吸引力がなくなる前に(っていうと掃除機みたいだけど)魔石から魔力を抜き取る必要があって、いつもは気が付いたら色が無くなっているから誰かが定期的に処理してくれてるんだなって思ってたんだけど。

 さっきはお父様が回収していってくれたんだな。

 

 

 この体質とたまに起きる発作のせいで、アリシアや兄様は僕に対して過保護なまでの心配と庇護欲を抱いているらしい。

 さっきのアリシアの大泣きもそのせいだ。

 最近は発作も起きてないし、そもそも虚弱体質ってわけじゃないんだけどなぁ……。

 

 

 まずはこの体質をなんとかしないと、守るはずのアリシアに心配ばかりかけてしまう。

 解決の糸口を見つけるためにもしっかりきっちり真面目に魔法の授業を受けないといけないんですよ僕は!

 

 

 早く魔法を使えるようになりたいっていうのももちろんあるけど……。

 

 

 触れているのが当たり前のような片割れの体温に、いつのまにか僕も眠ってしまった。

 

 

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(アシェルくんの決意、応援したい……)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


※初回のみ一話から四話までを同時に公開していますが、通常は一話更新です。

⭐︎乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。

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