二話◆入学式と小動物な彼
あの時の子だ
その後の、僕らの入学式なんだけど。
兄様はそのまま中等部でのオリエンテーションやクラス分けがあるので、両親だけが参列してくれた。
新入生代表でフェリクスが壇上で挨拶をしている姿に、つい先ほどの進学式でのフレディ殿下を思い出す。
あらためて見比べてみると、やっぱり顔の造りはよく似ているなぁと思う。
フェリクスは勝ち気で堂々とした感じで、フレディ殿下は温和で利発な雰囲気だから、パッと見だと全然似ていない気もするんだけど。
話し方の雰囲気だって、全然違っていて。
あえて違いを探しながら見ると、カリスマ性について言えばフェリクスの方が人を強く惹きつけるものを持っているのかもしれない。
だけど、肝心のフェリクス自身には兄であるフレディ殿下を追い落とす気なんて毛程も無いし。
王位よりも兄のサポートを出来るようになりたがっているのは、少し本人と話せば分かることのはずなんだけどなあ……。
そんな風に余計なことばかり考えているうちに、早々に式は終わりを迎えていた。
そして、新入生たちの学園案内を兼ねた簡易的なオリエンテーションが始まった。
事細かな説明はまた必要に応じて行うとのことで、今回はざっくりとした施設の案内や注意事項などを聞いていき、最終的にそれぞれのクラスへと分けられて教室へと向かうようだった。
一応事前の学力調査をしているので成績順なんだけど、例年ほとんど家格順に近い結果になるらしい。
案の定、僕、アリシア、フェリクス、クロード、シャロン嬢は全員Aクラスだった。
伯爵家くらいになると半数程はBクラスに入ることになるから、きっとシャロン嬢は絶対にクロードと同じクラスになりたいと勉強も頑張ったんだろうな。
何となく覚えている顔もちらほらあって、たぶん交流会で話した子達だろうと思う。
今は挨拶よりも先に席に着くべきだから声はかけないけど。
二人用の少し横長の机に椅子が二つずつ。
これを一セットとして、通路用の間隔をあけて横に三列、縦に四列並んでいるので、全部で二十四人分の席がある。
座席は決まってないっぽいんだけど、なんかやっぱり高位の人から座らないとみんな選び辛そうだから。
「フェリクスはどの辺に座りたい?」
普段通りに声をかけると、近くに居た子たちがギョッとした顔になった。
その反応に、学園での呼び捨てはまずかったかな……と思ったけれど。
「場所自体はどこでもいいが、とにかくお前たちの隣か近くに座るぞ」
と、フェリクスは全く気にしていないようだった。
クロードは後ろの方に座りたそうにしていたけど。
シャロン嬢が「私、ちゃんとAクラスのお勉強についていくためにお話がよく聞こえる前方の席に座りたいですわ」と呟いた瞬間――
サッと最前列真ん中の机の右側の席に座ったクロードは、シャロン嬢をその左隣に座らせていた。
そのあとこちらを振り返ったクロードが、目線だけでアリシアに何か伝えたような気がしたけど……何だったんだろう?
「では、わたくしはこちらの席を選ばせて頂こうかしら?ふふっ、シャロン様のお近くで嬉しいわ」
そう言ってアリシアはシャロン嬢の後ろの席に腰を下ろした。
この場合、クロードの後ろというかアリシアの隣には、僕とフェリクスのどっちが座るべきなんだろうか?
僕が悩んでいる内に、先にフェリクスがアリシアの隣の席に座ってしまった。
ちょいちょいと指先で近くに寄るように促され何事かと顔を寄せると、耳元でフェリクスが囁いた。
「アシェルは、ぼくの後ろでも良いが……出来ればアリシア嬢の後ろの席を埋めてくれ」
「…………なるほど。了解」
どうやらフェリクスは、通路を挟んだ反対隣の席はそれほど危険視していないけど、かなりの至近距離になるアリシアの後ろの席は他の生徒に座ってほしくないようだった。
(あれ?もしかしてクロードもさっきアリシアにそれを伝えてたのか……?シャロン嬢の後ろに座ってくれって……)
うわぁ。仲の良い婚約者が居ると、そんな事まで気が回るようになるんだろうか。
……なんかすごいな。
僕らが席を決めたことで、他の子たちも座り始めて当たり障りない微妙な位置から少しずつ席が埋まっていった。
フェリクスの後ろになる僕の隣の席は、数人が牽制し合っていてなかなか決まらないようだった。
そんな中。睨み合いには参加せずに、どこに座って良いのか分からずオロオロしている男子生徒が目について。
「ニールくん?」
たしか交流会で少し話したニール・フリントという名の子爵家の令息だったと思い出し、声をかけてみる。
「がっ、ガルブレイス様……?ま……まさか覚えて頂けているなんて……」
こちらを振り返って目を丸くし、恐縮しきったようにプルプルと震え始めたニールくんに、もしかして悪いことをしちゃったかなという思いが芽生える。
そんなにビビらなくても……。
うーん。
ニールくんには悪いけど、なんとか僕らの近くに座ろうとギラついた目をしている子たちより、小動物のようなニールくんが隣に来てくれた方がこの先安心な気がする。
「ねえ、ニールくんさえ良ければこっちに座らない?」
そう言って隣の座席をポンと叩くと。
少しの騒めきと共に、周りを囲っていた生徒たちが捌けて通り道ができた。
「ぼっ、ボクが、ガルブレイス様のおと、お隣に……?」
開けた視界の先で、いっそ可哀想なくらいに狼狽えているニールくん。
断れないと分かっていてそんな提案する僕は、なんだかんだ高位貴族としての狡猾さを持っているのかもしれない。
「そう。嫌じゃなければ、おいで?」
「いっ?……いやだなんてっ!こっ、光栄でひゅっ……」
ガチガチと音がしそうなほどに緊張した様子で、恐る恐る隣に座るニールくん。
「なんだ、アシェルの知り合いか?」
そう言って振り返ったフェリクスに、小動物な彼はついに涙目になってしまった。
自分でやっておいてなんだけど、流石に不憫になってきちゃった……。
ほんとごめん。
「フリント子爵家のニールくんだよ。交流会で少し話したんだ」
「子爵家の子息なのか?それでAクラスに入るとは、かなりの有望株なんだな」
とりあえずフェリクスに紹介すると、ニールくんの優秀さに感心した様子だった。
「ぁ……あっ、う…………」
自国の王子にまじまじと見つめられ、もはや言葉らしい言葉も話せなくなってしまったニールくん……。
フェリクスだし別に返事しなかったくらいで不敬だとかは言わないと思うけど、なんとかフォローできないかと試みる。
「あのさフェリクス。彼、野心とかまるで無いタイプなのに強引にこんな所に座らせちゃったから、緊張し過ぎて喋れなくなっちゃったみたい……」
なんか、フォローっていうか、事実をそのまま話しただけになっちゃったけど。
「優秀な上に野心が無い?尚のこと良い人材じゃないか。なあアシェル、このニールを徐々にぼく達に慣らせば完璧なんじゃないか?」
しかもフェリクスが余計に興味持っちゃったし。
こうなったフェリクスはきっと止められないので、ニールくんは近い将来フェリクスの側近候補としての打診を受け取る事になるだろう……。
「……そう、かもね?じゃあまずは僕から慣らすから、ニールくん喋れなくなっちゃうしフェリクスは前向いててよ」
「ふっ。じゃあ頼んだぞ」
僕のぞんざいな物言いにも慣れ切っているフェリクスは、小さく笑うと大人しく前に向き直った。
ニールくんにとっては、かなり不穏な会話だっただろうに。
僕らが何を話しているのか理解できていなかったらしい彼は、フェリクスの顔が見えなくなった事で、少しだけ正気を取り戻したようだった。
そんなニールくんに改めて小声で話しかける。
「ごめんね、ニールくん……。もちろんフェリクスだって僕だって、誰も不敬とか絶対に言わないからさ。ちょっと諦めて、まずは友達になってくれないかな?」
「ひ、ひぇぇ……!がるぶれいすさまっ……あ、頭をおあげくだひゃ…………」
「アシェルって呼んでね。友達になってくれる?」
「は……はい、アシェルしゃま…………」
身分差のある彼には肯定しか出来ないような言い方を選んだ僕は、やっぱり狡猾としか言えないかもしれなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(ニールくんはルナリスに似ている……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
⭐︎乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。
________
***
【 SYSTEM MESSAGE 】
1. 学園の友人たち の unlock 申請を受諾。
2. 資料保管庫02 の unlock 申請を受諾。
ーー 現在解除処理中••• ーー
***




