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【第二章開幕】乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった  作者: かみながあき
第二章◆初等部編

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【01/23 番外】にいさまのひ (誕生日・特別過去話)

『1月23日はカーティス兄様のお誕生日!』ということで、特別番外を書いてみました。

大変長くなりましたので、お時間のある時にどうぞ……。

※読まなくてもストーリーに支障のない、本編開始より過去のおはなしとなります。

 

 

  

 僕の名はカーティス・ガルブレイス。

 ゆくゆくはガルブレイス侯爵家を担い立つ長男だ。


 あと数日で九歳の誕生日を迎え、今年には貴族学園の初等部へ入学することとなる。

 それは大変によろこばしいことだし、望むところではあるんだけれど。


「……さみしい、な」


 音に乗せてみると、より一層のこと重く感じる。

 僕にとって、大切な弟妹であるアシェルとアリシアと離れることは、他に何を差し出されたって埋めることの出来ない空虚を感じるものだった。

 

 高位貴族の嫡男ともあろう者が、高々そんなことで。

 仮にそんなことを言われたとすれば、その正論を否定するつもりは無いけれどね。

 胸を裂くような痛みを知らない人に、僕の心の内を分かってもらいたいだなんて、はなから思っていないのだから。

 

 そもそも、だ。

 そんな無粋な事を言わせるほど、表になんて出すつもりもない。

 こんな「弱さ」を知られるようじゃいけないと、僕自身が一番理解していた。

 

(自邸で心の中で思うだけなら、誰に咎められるいわれもないさ。それに……)

 

 残りわずかな、学園入学までの期間。

 それを愛しい双子との交流に充てたって、責任の放棄にはならないはずだ。

 初等部レベルの知識なら、寝ながらだって答えられる。


(……いや、僕は寝言は言わないはずだけど。今のは言葉の綾だから、本気にしないでくれよ?)

 

 誰に聞かれるわけでもない心の中でさえも、常に"完璧であること"を追い求める僕は、見えない偶像(いつかの自分)に言い訳を重ねる。

 こんな自分が、おそらく可愛げとはかけ離れた「少々面倒くさい人種」に当てはまることは、とうに自覚していた。

 

 こんな僕にも、屈託のない笑顔と全幅の信頼を寄せてくれる、二対の宝石。

 二人のアメジストの瞳が僕を見つけて輝く瞬間が。

 堅苦しい枠組みにさえも自ら進んで嵌ってしまいたくなるほどに、愛おしく、守りたい宝物だった。

 

 

 薄い紫の溶けたまばゆい銀髪が、庭の片隅で揺れている。

 ドレスが汚れることもいとわずに、あんな所にしゃがみ込んで。

 二人して一体なにをしているのやら。

 

「アシェル、アリシア。こんなところに居たんだね」

 

 僕が声をかけると、二人は勢いよく振り返って――

 

 

「えっ!にいさま……!?どっどうしよう……」

「やだ!わたしに聞かないでよ…………。えっと、その……」

 

 僕の期待とは違って、二対のアメジストは、その色を困惑に染めていた。

 

「どうして…………。僕が来ちゃ、いけなかった……?」

 

 僕自身も酷く動揺して、口に出すつもりのない心の声が、そのままこぼれてしまっていた。

 まるで叱られたかのようにビクリと肩を震わせた二人は、泣き出しそうな顔で僕を仰ぎ見た。

 

「に……にいさま、ちがうんです……」

 

「今はちょっと、アシュとふたりで…………ナイショのおはなしをしてたところだったから……」

 

 僕を見て輝かなかった瞳も、その言葉も。

 思わず漏れてしまった本音が大事な弟妹を泣かせてしまいそうになっていることも。

 全てが痛くて、胸のどこかが抉れていく。


「そう、だったんだね……。お邪魔をしてしまったみたいで、ごめんね?僕はもう行くから、気にせずお話を続けるといいよ」


 無理に笑顔を作って取り繕うと、僕はそのまま少し足早にその場を後にした。

 

「あっにいさま……!まって……」

「だめよアシュ……いまは、だめ」

 

 背後からそんな声が聞こえたけれど、振り切るようにして足を進めた。

 二人だけで内緒の話をするほどに、幼いながらに成長を遂げている。

 兄として「自立心の芽生え」を喜ぶべきなのに、どうして、出来ないのか。

 

(分かってるよ。二人だって、いつか僕を必要としなくなる日が来ることも)

 

 今はまだその時ではなく、これからもしばらくは頼ってくれるはずだということも。

 今回は、たまたまタイミングが悪かっただけだ。

 全て分かっている。

 

 それでも傷付いてしまう僕を、今だけは誰かに笑って欲しかった。

 

 

 ◇    ◇    ◇

 

「カーティス」

 

「はい」


 誕生日の当日。

 僕は今、父上の執務室へと呼ばれていた。

 

「今日でお前も九歳という一つの節目を迎えた訳だが。何か思う所はあるか?」

 

 まるで刺すような視線だけれど、これで威圧しているつもりは微塵もないのだから、なおのこと恐ろしい。

 慣れた僕でも、たまに喉が干上がりそうになってしまう。


「……いえ、特には。これからも変わらず嫡子として励むまでです」


「そうか」


 それらしいことを返す僕と、いつも通りに短く答える父上。

 用件はこれで終わりだろうかと思っていれば、再び父上が口を開いた。

 

「カーティス」

 

「はい」

 

「誕生祝いだ。これからも励むように」

 

 平坦な口調で差し出されたものは、それほど大きくはない細長い箱だった。

 おそらくこれは万年筆だ。

 以前、父上の執務を見学している時に、僕も欲しいと漏らしてしまったことがあるから。

 

「っ、ありがとうございます……!」

 

「……と言いたい所だが」

 

 受け取りながらお礼を言った僕と、まだ話の途中だったらしい父上の声とが重なった。


「え?」


 思わず聞き返してしまったけれど。

 我が事ながら、今の"間の抜けた声"はどうにもいただけない……。

 

「お前は十分過ぎるほどによくやっている。たまには休め」

 

 自省しているところに降ってきた父上の話の続きとは、普段の努力を認めてくれているという評価でもあり、また、労いの言葉だった。

 

「…………父上に言われましても」


「そうか」

 

 嬉しくもあるけれど、どことなく気恥ずかしくて、僕は些細な皮肉でもって返してしまった。

 対する父上は、案の定、いつも通りの返事だった。

 

「誕生祝い、ありがたく頂戴いたします。それでは失礼します」

 

「ああ」

 

 流石にこれ以上、話を続けることもないだろうと。

 照れもあって、僕はそそくさと退室の挨拶をして部屋を後にした。

 

 閉じた扉を背もたれに、ふう、とひとつ溜め息を吐く。

 疲労からではないそれは、なんだか肺がいっぱいな気がして、ただ空気を逃しただけのものだった。

 

「カーティス……」


 自室に戻ろうと歩き出したとき、後ろから声をかけられて振り返る。

 控えめな吐息のような声は、出来る限り恐怖を与えないようにと心を砕いている母上のものだった。

 

「母上……どうされましたか?」

 

「お誕生日おめでとう」

 

 振り返って顔を向き合わせると、母上は眼光鋭く目を細めて微笑んだ。

 弟妹に向ければたちまち泣き出してしまうだろうその笑顔は、僕には正しく慈愛の表情として届いていた。


「ふふ、ありがとうございます」

 

 微笑み返すと、母上はちょうど腹部のあたりの高さにある僕の頭をそっと抱き込んで、優しい手つきで僕の髪を撫でた。

 もう学園に通い始めるのも目前の今では、嬉しさと同じくらいにくすぐったくもあるけれど……。


「ねぇカーティス。愛しているわ」

 

 子供たちとの触れ合いに飢えている母上は、いつだって寂しさを抱えているのだから。

 せめて僕だけは、その愛を正面から受け止めて、また、同じ熱量を返して差し上げなくては。


「…………改めて言われると、照れますね……。僕も、愛していますよ」

 

「…………どうしてあなたは、わたくしが怖くのないのかしら……」

 

「さあ。何故でしょうね?僕にしてみれば、アシェルやアリシアが母上の顔を見ただけで青ざめる方が、よっぽど不思議ですが」

 

「よその子もみんな泣くわ……」

 

 母上のかすかな強張りが、触れ合ったままの僕には全て筒抜けになってしまう。

 こんなにも繊細な人なのに、見目だけで誤解されてしまうなんて、世の中にはなんとバカな人たちの多いことか――なんて毒付いてしまいたい気持ちだ。

 

「失礼な話ですね……。まあ、言いたい者には好きに言わせておきましょう。少なくとも、父上と僕は母上の本当の優しさを知っていますから」

 

 今だけ、嫡男としてのプライドには、そっと目隠しをして。

 母上を抱き返す腕に力を込めて、額を擦り付ける。

 

「…………あなたは強いのね」


「そうでも、ありませんよ」

 

 少しのあいだ話をして。

 最後に額に口付けをもらい、母上と別れて、今度こそ自室へと戻った。

 

 もうこれだけで、十分な誕生日だったんじゃないだろうか。

 父上から頂いた箱を机の上に置いて、ぼんやりと眺める。

 そろそろ夕食の時間だけれど、少しだけ気が重かった。


 あの日からアシェルもアリシアも、普段通りに接してくれてはいるけれど。

 時折り気まずそうな素振りをしていたり、僕の顔色を窺っているような気配が見られたりと、「全くの元通り」という訳ではなかったから。

 

 ◇    ◇    ◇

 

 いつもよりシェフの気合の入った、僕の好物たちが並んだ食卓で。

 申し訳ないけれど、あまり感動できないまま、どこか味気ない食事を口へ運んでいた。

 

「にいさま、げんきないですか……?」


 ぽつりと、アシェルの悲しそうな声が聞こえた。

 ハッとして視線を向けると、アシェルもアリシアも、不安そうに瞳を揺らしていた。


「そんなことはないよ?せっかくの誕生祝いのご馳走だから、味わって食べていただけさ」

 

 ここに大人でも居たら、見え透いた嘘だと分かっただろうけど。

 幼い天使たちは、僕の言葉をそのまま信じてくれたようで、見る間にその表情を綻ばせた。

 

「そうなんですか?なんだかしんどいお顔だったから、どこか苦しいのかなって、思っちゃった……よかったぁ」

「おにいさま、げんきでよかった…………ねぇアシュ、もういいんじゃない?」

 

 アリシアが、アシェルに何かを伝えようと目配せをしてそんなこと言う。

 "もういい"とは、なんの事なのだろうか

  

「えぇ……そうかなぁ。まだごはんのとちゅうじゃないの?」


「……いいのよ!だってわたし、今すぐにおにいさまの、もっともっとすてきないつもの笑顔が見たくなっちゃったんだもの……!」


「え……もしかして、やっぱりにいさま、げんきないの……?」


 ……訂正。どうやらアリシアには、僕の言い訳と作った笑みは通じ切らなかったようだ。

 二人はひそひそと言葉を交わし合っているけど、残念ながら君たちの声はよく通るし、知らないかもしれないけれど、僕の耳はそれを聞くことに特化しているんだよ。


 居た堪れなさを感じながらも、二人がこれから何を始めようとしているのか、期待してしまう自分もいる。

 カトラリーを手放して、大人しく先の展開を待つ姿勢だ。

 

 ふんわりとしたドレスの裾を少しだけ引きずって、二人が僕の元へと近付いてくる。

 今さらだけど、あの日も今日も、「二人とも」ドレスを着ているんだ。

 何故かというのは今は割愛するけれど、別に"誰かの趣味"とかそういう事じゃないとだけ。


「あの、にいさま」

「  おにいさま」

 

 二人の僕を呼ぶ声が重なる。

 こんなにも胸を温める斉唱を、僕は他に知らない。

 

「うん。なあに?」

 

 首を傾げて尋ねてみせると、薄く頬を染めて、もじもじと恥じらいながら。

 アシェルが何かを包み込むようにした両手を僕の方へと差し出して、そこへアリシアもそっと手を添えた。

 

 そして、アシェルが息を吸いこむ音が聞こえて……。


「「おたんじょうびおめでとうございます」」

 

 予想通りの言葉だったというのに、予想以上に胸にくるものがあって。

 僕は「ありがとう」を言うタイミングを逃してしまった。

 

「これ、僕たちから、にいさまに……」

「おにいさまへのプレゼントです」

 

 キラキラと星屑の散ったような瞳から、開かれた小さな手のほうへ目線を移すと。

 そこには、吹けば飛んでしまいそうな幸福のかけらが乗っていた。


「これを、僕に……?」

 

 どうして声が震えているんだろう。

 分からないけれど、アシェルとアリシアがくれた新しい宝物を指先で大切につまみ取る。

 

「こないだは、ごめんなさい。僕たち、あのときこれを探してて…………そうしたらにいさまが来たから、びっくりしちゃって……」


「わたしたち、おにいさまのためになにかしたかったの……」

 

「……そうだったんだね。ごめんね、驚いたよね……」

 

 だからあの日、あんな所にいたのか。

 ドレスを土で汚して、一生懸命に顔を近付けて、僕が声をかけたら戸惑っていたのも。


(全部、僕のためだった……)

 

「ありがとう、アシェル。ありがとう、アリシア。……二人とも、本当にありがとう。すごく嬉しいよ」

 

 僕の語彙はどこへ行ってしまったんだろう。

 ただ「ありがとう」と「うれしい」だけを繰り返しながら、そんなことを思う。


「ふふっ…………あは、あははっ……」

 

「にっ、にいさま……!?」

「そんな…………」

 

 色々と勝手に勘違いして、馬鹿みたいだ。

 ありとあらゆる感情が押し寄せてきて、何かが決壊したかのように笑いが止まらない。


「ふふふっ。あぁ、おかしい…………わっ、どうしたんだい二人とも……」

 

 笑い続ける僕を見て、どうしてだかアシェルとアリシアは、泣きそうな顔をして僕にしがみ付いてきた。


「ごめんなさいにいさまっ!こんなものしかあげられなくて……!」


「…………え……?」


 突然アシェルにそんなことを言われて、何が起こったのか理解が出来なかった。

 戸惑う僕に、アリシアまで悲しそうな声で謝罪をしてきた。


「やっぱり、おたんじょうびに四葉のクローバーだけだなんて…………ガッカリさせちゃってごめんなさい……」


「なにを言って…………あ」

 

 そこまで出かかって、ようやく気付いた。

 どうやら僕の目からは際限なく涙が流れ続けていたらしいということに。

 涙腺が崩壊してしまって僕を見て、二人は理由を勘違いしてしまったようだった。


「違う…………違うよ、二人とも。これはね、嬉しくて泣いているんだ」


「うれしくて……?」

「ほんとうに?わたしたちのプレゼント、すてきなものじゃなかったから、じゃ……ないの?」

 

「当たり前じゃないか。こんなに素敵な贈り物をもらって、ガッカリなんてするはずがないよ」

 

 宝物を胸元のポケットに仕舞ってから、二人をぎゅっと抱きしめる。

 もう笑いも涙もおさまっていた。

 

「もうすぐ学園へ入学するから、君達と過ごす時間が減ってしまう……。そのことが寂しくて、近頃は少し落ち込んでいたんだ。そこへこんなに素敵なプレゼントをもらったから、嬉しすぎて泣いてしまっただけなんだよ」

 

 不安を取り除いてあげたくて、僕はもういっそ、ありのままをさらけ出した。

 プライドを守って弟妹を泣かせたままにしておくなんて、それこそ長男の名折れだ。

 

「おにいさま……」

 

「僕も、さみしいです……。だから、はなれちゃっても僕たちのこと、思い出してほしくて……」

 

「うん……」

 

「あと、にいさまがいつも元気でいてくれたらと思って…………クローバーは『しあわせ』だから……」


 そう言ったアシェルは、知っているのだろうか。

 君自身の名前にも、その「幸福」という祈りが込められていることを。

 

 そのあとも、お日様の香りがする二人を存分に抱きしめて、幼い二人が眠る時間の少し前まで話をして。

 僕の誕生日という一日は、本当に特別な日として終わりを迎えた。

 

 ひとまず大切に箱に保管したクローバーは、押し花のしおりにしようと思う。

 

(今日はもう遅いから、明日にでも準備を……)


 そんな幸せな計画を立てながら。

 穏やかな気持ちに満たされていた僕は、いつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 

 突然『誕生日番外!』と言われてもびっくりしてしまったかと思いますが、

 実は主要キャラ(こどもたち)はそれぞれ誕生日や血液型などの細かい設定が決まっておりまして……。

 別邸に載せる予定すら無い自己満足なのですが、いざ日が近づくとお祝いしたくなってしまいました。

「二人ともドレス」問題についても、裏設定のお話で、4月1日に書く予定の【特別番外】にて説明予定です。


後書きまで長々と書いてしまいましたが、ここまで読んで下さった猛者の方ならばお許しくださるかと、甘えさせて頂きました。


※本編の定期更新は、明日(土曜日)の20時にありますので、ご安心ください!

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― 新着の感想 ―
カーティスおにいちゃん、おめでとうございます お兄ちゃんの幸せな気持ちを、勝手に少しお裾分けしていただいて、私も今日は、一日ウキウキで過ごせそうです。
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