見知らぬあなたへ【SIDE Christa】
(上手にかけたはず……!)
はじめまして、こんにちは。こんばんはかな?
わたしの名前は、クリスタといいます。フローレス伯爵家の長女です。長女だとなんだかわたしがいちばんお姉さんみたいだけど、わたしには四才年上のとってもすてきなお兄さまがいます。なのにどうして長女って言うんだろう?
ええと、おはなししたいことがずれちゃいました。
わたしは明日になったら学校に入学する、もうすぐ九才になる女の子です。学校に入る前だけど、もう字を習っているので、こうしてお手紙を書くことだってできちゃいます。貴族はみんな先におうちでお勉強するんだよって、お父さまも言っていました。
お勉強といえば、わたしはダリルお兄さまが通っている貴族学園とはちがう女子学習院というところでお勉強をするみたいです。女の子らしく、りっぱなしゅくじょになるためのお勉強をするところなんだって。お母さまみたいなすてきなレディになりたいから、お兄さまとちがう学校なのはさみしいけど、いっしょうけんめい頑張ろうと思っています。
このお手紙を読んでいるあなたは、どんな学校に通うのかな?それとももう通っているのかな……もしかして、もっとずっと大人の人だったりして!
そんなことを考えながら書くお手紙は、とってもワクワクして楽しいです。だれにも読んでもらえないかもしれないけれど、もしあなたの所に届いたのならお返事を書いてくれたらうれしいな。
ちゃんとお手紙を読んでくれたあなただと分かるように、合言葉を決めたいと思います。どんなのがいいかなあ?
たくさん悩んだけど、わたしの大好きなものに決めました!
わたしたちの合言葉は『いちごのタルトとホットミルク』です。思い出したら食べたくなってきちゃったなぁ。あなたの好きなものは何ですか?
もしも、もしもいつか出会えたら、たくさんいろんなおはなしをして仲良くなりたいです。男の子だったらお友だちに、女の子だったら親友にだってなれちゃうかもしれないあなたに届くと信じて。
クリスタより愛を込めて。
追伸。ふうとうにわたしの作ったお守りも入れておくので、持っていてください。きっとあなたを守ってくれるはずです。
◇ ◇ ◇
お気に入りのレターセットにお手紙を書いたわたしは、最後にお守りの小さな石を入れてしっかりとふうをしました。
このお守りの石は、初めはとうめいな魔石っていうものだったけど、毎日寝る前にしているお祈りの時に握っていてごらんとお兄さまに言われて。
ずっと続けていたら、いつの間にかわたしとお兄さまの瞳とおんなじ色になったふしぎな石です。
そういえば、わたしが知らないだれかにお手紙を書いてみたいと言った時に『それじゃあ手紙と一緒にお守りの石も一緒に贈ってあげたらどうかな』と言ってくれたのもお兄さまだったなぁ。
でもでも、今はそんなことよりも!
お手紙はしっかり書けたので、あとはこれを風の魔法でずっと遠くの知らないところまで飛ばすだけです。
ダリルお兄さまがしてくれるって言ってたから、お手紙書き終わったよって言いに行かなきゃ。
ちょっぴりドキドキしながらダリルお兄さまのお部屋の扉をノックすると、お兄さまの優しい声が返ってきました。
「はぁい。クリスタかな?」
笑顔で扉をあけてくれたお兄さまに、わたしもにっこり笑顔でこたえます。
「お兄さま、お手紙書けました!」
「ふふっ。クリスタは今日も元気いっぱいだね」
そう言って頭をなでてくれるダリルお兄さま。
前はすぐにほっぺをぷにぷにしてきたけれど、もうしゅくじょのお勉強をはじめているわたしは小さくてもレディなので、お兄さまになでられるのは好きだけどほっぺは禁止なのです。
「ねえお兄さま。はやくお手紙を飛ばすところを見たいわ」
「そうだね。じゃあこの部屋の窓から送ろうか」
おいでと手招きされて、お兄さまのお部屋におじゃまします。
しっかりとふうをしたお手紙をお兄さまに渡したら、なぜかお兄さまがふうとうをじっと見つめて言いました。
「前に言ってた通り……手紙と、お守りが入ってるんだよね?」
「そうだよ?ひみつのお手紙だから、お兄さまでも中は見ちゃダメだよ」
「そうだったね。……じゃあ、今からクリスタのお手紙を遠くに送るよ?」
「…………はいっ」
ドキドキする胸をぎゅっとおさえて見ていると……。
小さく呪文をとなえるお兄さまの手から、ぽわりと光るなにかが出てきて、それはだんだんと形を作っていきました。
まぶしくなって目をつむったら、次に目をあけた時にはそこに半分とうめいな鳥さんがいました。
「わあ…………この子がお手紙を運んでくれるの?」
「そうだよ。風魔法で鳥の形を作ったものなんだ」
どういうこと?鳥さんだけど鳥さんじゃないの?
よく分からなくて考えていると、お兄さまがくわしく教えてくれました。
「小さな物や手紙なんかを届ける配送の風魔法で、私がイメージしやすいから鳥の形になってるだけなんだけど……」
「……えぇと……?」
せっかくお兄さまが教えてくれたのに、なんだかもっと分からなくなっちゃった!
「うーん……まあ難しいし、魔法で出来た鳥さんだと思ってくれていいかな」
「やっぱり鳥さんなんだ!すごいね。鳥さん、お手紙よろしくね」
わたしが机でおとなしくしている鳥さんにお手紙のことをお願いしている間に、お兄さまはお部屋の窓を開けていました。
振り返ったお兄さまが鳥さんを手のひらに乗せるようにして窓の前まで連れて行ったので、わたしもとなりについて行きます。
「…………よし」
半分すけた鳥さんが、クチバシでふうとうをくわえるように持って。
そのままお兄さまが呪文のようなものをつぶやいたと思ったら、その鳥さんはぶわぁっと強い風だけをのこしてあっという間に窓から飛んでいってしまいました。
「…………アシェルくんの身体が治ります様に……」
なにかお祈りするように指を組んでつぶやいたお兄さまの言葉は、風の音でわたしには聞こえませんでした。
「お兄さま?なにかお祈りしてたの?」
「ん……?うん、ちょっとね」
なにをお祈りしていたのか気になるけれど、わたしはそれよりももっと気になることがあったので、お兄さまにたずねます。
「お兄さま。お手紙、ちゃんとだれかに読んでもらえるかしら……」
不安になって目がうるうるしてきたけれど、お兄さまはまた優しく頭をなでてくれました。
「大丈夫だよ。絶対にあの子に届けてみせるから」
「あの子?」
「ううん。誰かには絶対に届くから、心配しないで」
「うんっ、ありがとうお兄さま!」
お兄さまが絶対って言うなら大丈夫!
あの子、っていうのはちょっと分からなかったけど、ちゃんとだれかにお手紙が届くんだとうれしくなったわたしはにっこり笑顔になったのでした。
少しだけお話ししたあと、お兄さまとお別れしてお部屋を出た時に、小さくごめんねと聞こえた気がしたけど……あれはなんだったんだろう?
◇ ◇ ◇
あの日お兄様が『知らない誰か』ではなく、私と同じ歳のとある侯爵家の男の子にお守りを届けたくて鳥の行先を指定した事を、私は彼と話すまでずっと知らないまま過ごしていました。
正直に話してくれたとしても、きっと協力したのにな。
そんな風に考えながら、変なところで不器用なお兄様を思って……あれから数年経った私もやっぱり笑顔になったのでした。
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第二章は、なんと 「ゲームヒロイン・クリスタちゃん」の視点から始まりました!
……予想外だったでしょうか?
楽しんでいただけていたらうれしいです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(お手紙とどいたかな……?)
よければまた、次回はアシェルに会いに来てくださいね!
⭐︎乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)の予定です。




