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【第二章開幕】乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった  作者: かみながあき
第一章◇幼少期編

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二話◇ギャン泣きパニック

泣かないで

 

「おはようアシェル、アリシア」

 

 たどり着いた大きな食卓には、すでにカーティス兄様が席に着いていた。

 カーティス兄様は僕らの四つ上の十歳だ。(誕生日の兼ね合いで、あと二ヶ月ほどは五歳差だけど)

 

 僕とアリシアよりも色素の濃い紫がかった銀髪で、お母様と同じ色をしたガーネットのような赤紫の瞳を柔らかく細めて迎えてくれる。

 

「おはようございます、カーティス兄様」

 

 揃えた声で挨拶を返し、それぞれ席に着く。

 

「今日もお父様とお母様はいらっしゃらないの……?」

 

 アリシアが少し沈んだ声でたずねると、兄様は困ったように笑いながら答える。

 

「父上も母上も、忙しくしているからね。でもアリシアが淋しがっているんだ、きっと明日にでも一緒に朝食を摂れるさ」

 

「……そうかしら。おふたりともお仕事お仕事ばっかりで、いつもしつむしつでお食事してるっていうじゃない……」

 

 ぷくりと頬をふくらませるアリシアは、折角さっき装備した淑女の仮面が外れてしまっていた。

 

「アリシア、可愛いほっぺがさらに可愛くなっちゃってるよ」

 

 からかい半分に告げると、あわてて元のおすまし顔に戻る。

 

 そうこうしているうちに食事が並べられ、お行儀が悪くならない程度に会話をしながらも朝食を食べ終えた。

 兄様と違ってまだまだテーブルマナーが完璧とは言えない僕とアリシアだけど、この歳でここまで出来るのはすごいって先生や兄様が褒めてくれるから今はこれで満足なんだ。

 

 日々、精進!

 

 むん!と気合を入れていると、いつの間にか向かいに座っていたはずの兄様が傍まで来ていた。

 大きなテーブルに隣り合って座っていた僕とアリシアの席の間に。

 

「アシェル、なんだかやる気がみなぎってるみたいだね?今日は魔法の授業があるからかなぁ」

 でも無理はいけないよ、と優しく言いながら兄様はナフキンで僕の口元を拭ってくれる。

 うわ……なんかついてた?

 

「ありがとうございます……でも無理なんてしないので大丈夫ですよ?」

 恥ずかしさから顔に熱がこもるのを感じながらも椅子から立ち上がってお礼を言う。

 

「カーティス兄様、わたくしがちゃぁんとみはっていますので大丈夫ですわ」

 

 得意げに片手を胸に当てて少し身をそらすアリシアは安定の可愛さだ。

 ちびっ子がドヤってるのって可愛いよね。

 

「ふふっ、よろしく頼むよ」

 そう言ってアリシアの頭を撫で、ついでに僕の頭を撫でてから兄様は食堂を後にした。

 兄様は今日もこれから学園に向かうのだろう。

 

 

「さてアシェル……さっきわたくしが話していたことだけど……」

「あれ?まだ淑女仮面なの?」

「…………もしかしたらお母様が遅れていらっしゃるかもしれないでしょ!」

 

 なるほど。理解はしたけど、そこまで猫をかぶる必要があるのか今度はそっちが疑問だ。

 今度こそまじめに怒られそうだから聞かないけど。

 

「今日のティータイムのあと、わたくしの部屋に来ていっしょにドレスをえらんでくださらない?」

 

 無理やりエスコートの形を取らされて歩きはじめたところでそんなことを言われた。

 

「かまわないけど、どうしてドレスを?」

 

 朝食後に向かうのが日課になっている図書室へ向かいながらたずねる。

 

「三日後に、わたくしたち王宮にお呼ばれしているじゃない?アシェルはそっきん?で、わたくしは婚約者候補としてフェリクス殿下にお会いするのに、一番すてきなドレスを」

 

「えっ?」

 

 ……王宮?

 

「えって、まさか忘れてたの?アシェルったらほんっと抜けてるんだから……」

 

 フェリクス殿下???

 

「なんとか言いなさいよ。ねぇ、ちょっと!聞こえてる?」

 

 

 ――フェリクスルートだとね、さすがに婚約者だからさぁ……他のルートの何倍もアリシアの妨害がすっっっっごいの!――

 

「アシュ?アシュ!アシュってば……!」

 

 婚約者?

 婚約者候補?

 

 ――ルート後半なんてマジエグすぎだから!ミスってヒロイン死亡バッドエンドなんて乙女ゲームでありえないでしょ普通!――

 

 

「今日のアシュすっごく変!ほんとのほんとに熱はない?苦しい?返事して、ねぇってば……!」

 

 やっぱりアリシアは……あの悪役令嬢(アリシア)だっていうのか?

 

 僕の存在がイレギュラーなだけで、ここはあの乙女ゲームの世界だって……ことなのか?

 

 

「アシュ……ッ…………アシュがへんなの……!だれか!だれかぁっ!アシュを……たすけてぇっ……!」

 

 

 

 肩を掴まれがくがくと揺さぶられていることに気付き、飛んでいた思考からようやく意識を現実に向けると。

 

 ボロボロと大粒の涙を溢し続けながら必死に僕を揺すっていたアリシアと目が合った。

 

 

「…………あしゅ……ッ」

 

 呼吸に引き攣れたような嗚咽が混じる。

 

「リシュ……ごめん。もう大丈夫だから……」

 

 安心させようと笑顔を向けてみたけど。

 

 

「ふえ…………うっ、うわああああん!」

 

 

 肩を掴んでいたアリシアの手は、そのまま縋り付くように僕を抱きしめ、安心して腰が抜けたのかへなへなと廊下にへたり込んでしまった。

 当然アリシアを支えるだけの筋力がない僕も、引きずられるように一緒にへたり込む。

 

 泣きじゃくりながら僕の肩口に顔を埋めるアリシアは、どんなに大人ぶっていたとしても、まだ六歳にも満たないもろくてか弱いふつうの女の子だった。

 

 さっきの叫びとアリシアの泣き声に、たくさんの家人たちが集まって来た。

 

「……アリシアお嬢様が、アシェル坊ちゃまをお救いする様に、と仰せの声が聞こえてまいりましたが……」

 

 うん……どう見ても僕よりアリシアのほうが大丈夫じゃなさそうで、みんな混乱してるよね。

 

「あー……ごめんね、みんな。僕はなんともないから心配しないで?アリシアは、その……」

 

 少し落ち着いたものの、まだアリシアはぐすぐす泣いたまま僕にしがみ付いている……。苦笑いで誤魔化そうにも、どうにもなんないよねぇ。

 かといって説明しようがないし、どうしようかな……。

 

 あれ?人垣の後ろにお父様とお母様まで居るじゃん!?

 ごめんアリシア……僕のせいで淑女仮面がこっぱみじんに弾け飛ぶほどの醜態を晒させちゃった……。

 

 本人は気付いてないけど、でも、しかし。

 ほんとごめん。

 

 あは、は……と更にごまかし笑いしながら、泣き止まない妹の背中をとん、とん、と優しく叩く。赤ちゃんの寝かしつけの時にやるアレだ。

 ぐすぐすが段々とくすん、くすん……になり、しばらく続けるとそのまま泣き疲れて寝てしまったけれど、がっちりしがみ付いた腕は剥がれなかった。

 

 

「…………だれか、僕らをまとめて運んでもらえない?」

 

 顔だけ振り返ってたずねると、ずいぶん人が減っていたけど残った数人の使用人はまだ心配そうな顔をしていた。

 

 さらに予想外にも父と母もまだその場に残っており、周りの者に仕事に戻るように促したあとこちらに歩いてきた父が僕らふたりをまるごと抱き上げ、母はそこに手を添えてサポートするような形で歩き始めたのだった。

 

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(アリシア、泣いちゃった……)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!


※一話〜四話までは同時公開ですが、通常は一話ずつの更新です。

⭐︎乙兄の更新は週2回(火・土 20:00)です。

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