十五話◇秋の夜長に昔話を
お話ししよっか
「…………お嬢様……挨拶もしない内からお見苦しい物をお見せしてしまい申し訳ありません」
アリシアの前で片膝をつくK。
「良いのよ、K。聴取お疲れさま」
大人しくJとKの言い合いを聞いていたアリシアは、この影の女性が自身を特別に思っている事を知れて嬉しかったのだろう。
にこにこと機嫌良さそうにKに笑いかけていたアリシアは、僕に向き直り口を開いた。
「アシェル、こちらがKよ。王家に伝わる恐れはなくなったし、そろそろ秘密のお話を始めましょうか」
アリシアの一言で室内の空気が少し張り詰める。
順序が逆になってしまったけど、アリシアの秘密(というか王家の機密?)に触れてしまった僕は大人しくアリシアが知りたがっている事を話すべきだろう……。
「それで、僕の隠し事って……アリシアは何が知りたいの?」
「話してくれる気になった?それじゃあ聞かせて。アシェル、あなたは未来を知っているの?」
「それは…………どうしてそんな事を?」
確かに僕は、未来……というかゲームのストーリーや設定をある程度知っている。
でもアリシアは一体どうやってそう思うに至ったのだろう。
「坊ちゃんさ、寝ながらうなされてる時寝言多いんだよね。そんでお嬢が夜中に様子見に行くと結構うなされてんだ」
「寝言?それに夜中に様子って……」
Jに言われて、可能性に思い至る。
アリシアはいまだに僕の発作を気にして夜中に無事を確かめに来ていたのか……。
その時に、前世やイベントシーンの夢を見てうなされている僕の寝言を聞いてしまった、と。
「断片的なアシェルの寝言を繋ぎ合わせていく内に、アシェルが未来に起こり得る出来事を夢に見ているんじゃないかと思うようになったの。だから今日、クロードとシャロン嬢を守ろうとしていたのも知ってたわ」
「そうだったんだ……」
繋ぎ合わせてほぼ正解に近い答えを導き出せる程なんて……自分がどれだけ寝言を言ってたのかものすごく不安になるけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないね……。
「お嬢の思ってた通りに、坊ちゃんが夢に見てた出来事が実際に起こったんだろ?やっぱり未来視だったって事だよな」
「アシェル、どうなの?」
このまま"夢で未来視をした"という話で通してもいいけど、ここまで知られてるんだからもう話してしまってもそんなに変わらないんじゃないだろうか。
「実は…………」
アメジストのような瞳を見つめながらそんな事を思い、僕は誰にも話すことは無いだろうと思っていた前世の記憶について打ち明けることに決めた。
◇ ◇ ◇
「つまりここは……アシュの言う前世の物語の中だということ?」
掻い摘んである程度の事を話し終えた僕に、アリシアが問う。
JとKは話している間もあまり表情が変わらないままだったので、どう感じているかは分からなかった。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「どういうこと?」
「僕としては……ここが完全に物語の中と言うより、この世界はちゃんと存在していて、それを何かの形で……それこそ未来視みたいに誰かが知った情報を物語として脚色したものを読んだんじゃないかって。そう、思いたいんだよね」
黙ったままのアリシアに、僕は言葉を続ける。
「ただ、やっぱり話の中で見た出来事は、あえて変えようとしない限り現実でも起こるんじゃないかって気がしてるんだ。実際に今日のお茶会でクリムゾンウルフが出たように……」
何度だって言うけど今の僕にとってはここが生きるべき現実だ。
誰もが個人の意志を持っていて、決してゲームのプログラム通りに動いている訳なんかじゃないと思ってる。
それでも、確実に"ゲームの世界じゃない"という保証も無いし、どちらとも断言することは出来なかった。
「そうね……わたしだって自分が物語の中の人物でしか無いなんて思いたくないわ。しかも悪役だなんて……」
「そうだよね…………っていうか、そもそも全てが筋書き通りに進むんだとしたら、僕ってほんとは存在しないはずだし」
「………………え……?」
あれ。大まかなストーリーの話だけして、僕自身が存在しないキャラだったって話はまだしてなかったんだっけ。
アリシアが衝撃を受けたようで固まってしまった。
「もともと悪役令嬢が双子だったって設定も出て来なかったし、物語の中では産まれてなかったのかもね」
そう思うとやっぱり似て非なる世界なのかもしれないと、ちょっと楽観的思考が芽生える。が、アリシアはなんだか深刻な顔をしていた。
「いえ……きっと、物語の中でも双子だったんだわ。自身の半分を失ったわたしは、それで悪役と呼ばれるまでに壊れてしまったのね……」
そういうこと!?今まで思いも寄らなかったけど、アリシア自身が言うなら本当にそうだったのかもしれない……。
ということは。
この世界でもアリシアは、僕がもっと昔に発作に耐えられずに死んでしまっていたとしたら、ゲームのように悪女化していたかもしれないということだろうか……?
いや……プラスに言い換えれば、僕が生きていればアリシアは悪女化しない…………で良いのかな?
「つーか、作られた世界だろうとそうじゃ無かろうと俺らが今ここに存在してる事は変わんねぇじゃないすか?そんな難しく考えなくて良いんじゃねぇの?」
うんうん唸っていたら、Jが悩みすらバッサリと切り捨てるように結論を出した。
ずっと表情も変わらず黙ってたけど、ちゃんと聞いてたんだな。
「確かにそうね……。もし物語の中だとしても、わたしたちの行動次第では決められた道筋から外れることだって出来るわ。今日の出来事を変えられたみたいに……」
「なんだか一気に視界が開けた気がするよ。一人で悩んでた時とは大違いだ。アリシア、J、ありがとう。Kは……さっきからひとことも喋ってないけど大丈夫?」
「問題ありません」
心配になって聞いてみると、ものすごく簡潔な返事が返ってきた。きっとKみたいな人が影らしい人なんだろうな。
いや、Jのキャラも全然嫌いじゃないけど。
「ねぇK。今の話を聞いてあなたはどう思ったかしら。それに、監視として王家に報告する必要はあると思う?」
僕に続けてアリシアがKに問いかける。
「どう、ですか…………特に何も。強いてお伝えするなら、仮に筋書き通りに婚約破棄がなされましたら恐らく今のままのお嬢様なら悪事など働かないので確実に相手方の有責の記録を余さず記録しますのでご安心を」
(おおう、寡黙キャラだと思ったらめっちゃ喋るじゃん!え、Kってもしかしてアリシアの強火担だったりする……?)
早口気味で捲し立てるKに、前世でいうところの"推しの限界オタク"の素質を感じる。
「王家には先程お嬢様ご自身が内密にしたいと仰っていましたので、お気持ちが変わられていないのなら報告の意思は有りません」
「そう。ありがとう、K」
そう言ったアリシアは、淑女仮面ではなく自然体のままにっこりと笑う。
対するKも、表情は変わらないはずなのにどこか嬉しそうに感じられた。
いつの間に『王家の影』を『自分を推す忠臣』に変えてしまったんだと、少しだけ空恐ろしいような気持ちも芽生えたけれど……。
この二人は本当に良い関係を築いてるんだなと、なんだか感心してしまう。
そんな二人を微笑ましく眺めていると、ボソボソと独り言が聞こえてきた。
「初めて間近に見たけど、やっぱもう落ちてんな……。あのKをこの短期間でねぇ?…………俺も気をつけないとあっという間にお嬢にタラされそう」
ま、それはそれで面白いかもな?と呟いたJは楽しげで。
それまでずっと深淵のようだった暗い焦茶の瞳に、ほんの僅かに光が宿ったように見えた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(アシェルくんは寝言に話しかけられると、寝ながら返事をしちゃうタイプ……)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
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