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【第二章開幕】乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった  作者: かみながあき
第一章◇幼少期編

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一話◇どんな世界でも妹はかわいい

はじめまして、作者のかみながあきです。

この度『乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の~』を公開しました。


本作は

「転生 × 双子兄妹 × 愛の形 × 原作改変」

などをテーマにしているように見せかけた、

ボーイズラブ(BL)作品です。

溺愛、執着、クソデカ感情をお求めの方へ……。

序盤は家族愛中心ですが、

成長と共に「とんでもない矢印」が動き始めます。


初回は 一話~四話まで連続公開 していますので、

続けて読んでいただけたら嬉しいです。


感想やブックマークが励みになります。

どうぞよろしくお願いいたします。


★表紙イラスト★

挿絵(By みてみん)

 

 物心ついた時には、僕はうっすらと前世の記憶というものを思い出し始めていた。

 

 ただそれは、物語を読んだ後のような……あるいは映画を見て主人公の人生をそのまま生きたような気になっているみたいな感覚に近くて。

 

 前世の世界をどれだけ近しく感じたとしても、そのままの人格が引き継がれている訳でもなく……。

 今世で育まれた僕自身をちゃんと自己として認識しているし、今いるこの場所が自分の生きている現実であるという意識は決して揺らぐことはなかった。

 まあ、前世について自覚してからはかなり影響を受けて引きずられているなぁと思う部分もあるけど。

 

  

 今日も朝から鏡の前で数人のメイドさんに身支度を整えられ、妹が迎えに来るまではぼんやりと過ごす。

 まだ小さな手のひらを添えた鏡に映るのは、日々手入れされた艶のある紫がかった銀髪と、紫の瞳。

 仕立ての良い華美な衣服に身を包んだ姿は、六歳の誕生日を間近に控えた幼児ではあるものの、侯爵家の子息としてそこそこサマになって……いるんじゃないかなと思う。

 

  

  妹、かぁ。

 まだらな記憶を探り、こことは違う世界でも妹がいたなぁと思い出す。

 

  

 ――にぃちゃんだったら、このヒロインとサポートキャラと悪役令嬢のどの子がタイプ?――

 

  

 なんて言いながら、ゲームの画面を見せてきて勝手にペラペラと話を進めていくようなかしましい妹だった。

 あの時は答えなかったけど、提示された三人の中ならヒロインの見た目が好みに近いかなと思った。

 

  

 ――わたしはねぇ……コモハナの中だったら、攻略対象じゃないけどフレディ様がいっちばんすき!――

 

  

 ――なぜにっ!どうして!なんで攻略対象じゃないのよぉおおお!――

 

  

 うるさすぎてよく怒ったりもしたけど、なんだかんだ言いつつも結局のところ血を分けた妹なんていうものは仕方なくも可愛く思ってしまうもので。

 あらゆる乙女ゲームについて熱く語る妹に付き合ってやっては、度々スチル集めの協力なんてことまでさせられていた。

 

  

「あいつだったら、こんなきらきらした美系揃いの世界に生まれたら……それはもう大喜びだっただろうな……。っと!」

 独りごちてから慌てて口元を押さえる。前世というものに浸っていると、口調が乱れてしまってどうもいけない。

  

 小声だったからおそらく扉の前に控えている使用人には聞こえていないだろうけど、訳の分からない独り言なんか聞かれた日には気が触れたかと騒がれてしまうかもしれない……。

 僕はガルブレイス侯爵家の次男として、立派に日々の研鑽に励まないといけないんだから言動には気を付けないと!

 

 

 ――んなああああっ!またアリシアがガルブレイスの権力に物言わせてエグいことやってきたああぁっ!――

「おはようアシェル!早く食堂に行きましょ!」

 

  

 ノックもせずにガチャリと開けられた扉の音と、頭に響いた前世の妹の悲痛な叫び声。

 そして、髪の長さ以外は僕とそっくり同じ顔をした双子の妹の幼い声。

  

 全ての音が同時に飛び込んできて、処理落ちしたかのように固まってしまう。

 

  

「……………………え?」

 

  

 たっぷり二十秒は固まっていただろうか。

 ようやく絞り出せた音はたったの一音だった。

 

 

「……なによアシェル、まだ寝ぼけてるの?」

 少し顔をしかめたアリシアが、視点の定まらない僕の顔の前にひらひらと手をかざす。

 

「アリ……シア……?」


「……えっ、なに、アシェルほんとにどうしちゃったの?熱でもあるの?」

 

 途端に慌てたように両肩を掴まれ、おでこをこつんと合わせられる。

 同じ顔、同じ色の瞳が視界いっぱい広がる。

 

「……ごめん、アリシア……僕ちょっと、寝ぼけて……」

 真剣な表情で額で熱を測る妹に、まだ混乱した頭のままなんとか言い訳をする。

 

「熱は、ないし……ほんとに大丈夫なのね?」

「うん、平気……!」

 

 

 言いながらほっぺにおはようのキスを落とすと、ため息のあとアリシアも僕のほっぺにキスをして、ようやく掴んだ肩を離してくれた。

 

 

「……アシュはきょじゃく?なんだから心配させないでよね!」


 フン!と顔をそらして怒ってるんだからねのアピールをされても、うっかり愛称で呼んでくるしちょっぴり涙目にもなってる。

 こんなの可愛いだけだよなぁ。

 

「ごめんね?それと心配してくれてありがとうね、リシュ」


 お返しに僕も愛称で呼び返し、今度はうるんだ目元にチュッとする。

 

 

「…………はやく食堂に行かないと、お兄様にも心配かけちゃうんだからね!」


 じとりとした目をしながらも、手をつないで歩いてくれる愛らしい僕の片割れ。

 

「そうだね。でも廊下は走っちゃダメだから」


 ちょっぴり早歩きでね!とふたりの声が揃う。

 

 

 アリシア・ガルブレイス……ガルブレイス侯爵家の令嬢にして、僕の双子の妹。

 レイモンド・ガルブレイス侯爵とヴァイオレッタ・ガルブレイス侯爵夫人の間に産まれた、嫡男カーティス・ガルブレイスのたった一人の妹。

 

 そう。唯一の……。

 

 

 乙女ゲーム『こもれびの中で愛の花束を(略してコモハナ)』の中で、ヒロインであるクリスタをイジメ抜く悪役令嬢……。

 この、ちょっと生意気で心配性なアリシアが?

 

 

 ルートによっては婚約破棄され、それでも引き下がりもせず悪行を重ねて最後には修道院送りに……と見せかけて秘密裏に処理される苛烈な侯爵令嬢。

 僕の体調を気にして涙目になる女の子が……?

 

 

 手に負えないヒステリーと庇いきれない悪事の数々によって、両親からも、たった一人の兄からも見放されてしまう哀れな悪女。

 

 そんな、わけが。

 僕の片割れ(アリシア)とあの悪役令嬢(アリシア)がおんなじわけなんてない……!

 

 そもそも悪役令嬢アリシア・ガルブレイスに双子の兄なんていなかった。

 そうだよ!僕はアシェル・ガルブレイスとして確かにここにいる。

 

 

 だからここはあの乙女ゲームの世界なんかじゃないし、アリシアは悪役令嬢なんかじゃない……!

 

 

 ……ない、はずなんだ。

 

 

 

「……アシュ、わたしの話ちゃんと聞いてる?」

 食堂までの道すがら、機嫌よく今日の予定をおしゃべりしていたアリシアは、さすがに相槌がそぞろ過ぎた僕に気付いて繋いだ手にぎゅっと力を込めた。

 

「いててっ…………ごめんリシュ、魔法授業のあとティータイム……までしか聞いてなかった」


 正直まったく聞いてなかったけど、なんとなく聞こえていた部分だけ伝えてみる。

 

「もうっ。そこがいちばん大事なところよ!」

 

「ごめんね?なんか今日はぼんやりしちゃって」


 なぜかアリシアは普通にごめんと言うよりごめんね?と疑問系で謝るほうがすんなり許してくれるので、必殺技で謝罪する。

 

「……しかたないわね。もう着いちゃうからあとでもう一度はなしてあげる」


 うん。なぜなんだろう。

 分からないけど許してもらえたので、目的地の扉の前で繋いだ手を離して僕らは早歩きで崩れていないか身だしなみをチェックする。

 

 

「ごきげんよう、アシェル。今日もわたくしに似ているけど、りりしい表情がとっても素敵よ?」

 アリシアが少し気取って微笑む。

 

「ごきげんよう、アリシア。今日も僕に似ているけど、その笑顔は何倍も可憐で愛らしいね」

 僕も気取って微笑みながら、腕はエスコートの形を作る。

 

 そこへアリシアがそっと手を添えて、控えていた使用人がようやく扉をノックする。

 

 

「アシェル坊ちゃまとアリシアお嬢様が到着なさいました」

 

 

 よく通る声が厳かに響いたのち、食堂の扉が開かれて僕らはゆったりと歩を進めた。

 

 

 

 

 

読了ありがとうございます!

まだまだ兄妹の序章ですが、ここから物語がゆっくりと動き始めます。

第二話も読んでいただけたらうれしいです。


※初回のみ、一挙四話公開です。

⭐︎『乙兄』は週2回更新(火・土 20:00)予定です。

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