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竜の一族の日本旅行

吸血鬼が日本に行く話です。

誤字脱字ありましたらすみません。

あと他国の人といきなり会話出来るのは、世界観がそうだからです。登場人物や世界観は別でまとめてますので気になる方は其方を見てください(*´▽`*)




それは世界を震撼させた。

まるで現世に『神』が降臨したかのような、そんな衝撃がとある場所から発されたのだ。


一体何が起こったのかと、吸血鬼の中でも真祖と直系の血を引くミフネは城の窓から身を乗り出しその場所を探る。


随分遠いが、なんとなく場所は分かった。


「日本か」


それを口に出す前に、ミフネの親であるウラドが音もなく背後から現れた。いつもの如く気配なく現れる父にミフネはもうっと怒りつつ、その視線は遥か彼方にある日本に向ける。


噂でしか聞いたことのない日本。あそこは魔の者らが蔓延る危険な国だと聞いている。仲間の吸血鬼が腕試しにと行ったらしいが、魔の者もだがハンターらも強く楽しかったと言っていた。


ミフネは別に戦闘狂ではないので、そういうのには興味はないが…色んな種族が集まる日本には興味がある。行ってみたいなぁなんて気持ちが沸くが、果たしてウラドが許可をくれるかどうか。


ちらりと父を盗み見るが、やはり日本に余り興味はなさそうにただそこに突っ立っている。ハンターが城に入ろうが軽くいなし、毎日編物をしてるくらい引きこもりの父の事だ。祖父辺りが来なければ、今日もまたいつもの日課に戻るだろう。


元々魑魅魍魎が蔓延る日本ではあるが、今ので更に興味を持ち行く者が増えただろう。今なら知らない種族になんかも会えるかもしれない。やっぱり、行ってみたいなぁ。


なぁんて窓の外を眺めながら考えていたら、視界が真っ暗になり久々に見る顔が。


「元気にしていたか?ミフネ」


「おじいちゃん」


祖父の登場である。


まぁこんなビックイベントがあれば、流石の祖父も城に来るか。


ミフネが窓から退けば、祖父はよいしょと窓に手をかけながら部屋に入る。一気に部屋が狭くなるこの感覚、懐かしいなぁとミフネは祖父を見上げた。


吸血鬼はスラっとした長身が多いと思われているが、祖父は身長も体格もがっしりタイプの吸血鬼なのだ。だから部屋に一緒にいるだけで威圧感がすごい。元が竜の一族なだけある。


一応父と自分にもその血が流れているのだが、吸血鬼らしい長身タイプで祖父のような筋肉は付いていない。ちょっとだけ羨ましいなぁとも思いつつ、今日はどんな御用で?とミフネはベットに腰をかけた。


「お前達も感じただろう、あれを。ちょっくら見に行かんか?」


やはり日本が気になるらしい。ミフネ的には行きたかった場所なので、口がニヤけそうになるのを耐えながら「父が良いなら!」とウラドを見る。


ウラドは暫く黙っていたが、仕方がないとばかりに片目を抉りだし血で自身と全く同じ見える『人形』を作り出した。


「…城を留守には出来ん」


日本へ行こうという略である。


ミフネは嬉しさの余りありがとう父様!!!と抱きつくが、ウラドの表情は変わらない。しかしその手はちゃんとミフネの頭を優しく撫でており、不器用ながらも息子が孫を愛しているその様子に祖父ドラクルも微笑ましそうに眺めた。


「誘ったのは儂だしな。どれ、儂も少し残しておこう」


ウラドが吸血鬼の道に走ったのは、息子の為である。大事に守った息子の思い出がたっぷりと詰まったこの城を守るために、ドラクルも自身の腕を斬り落としウラドのように『人形』を作る。


これならば誰が攻めてきても対抗出来るだろう。


「いいのか?そんなに血を残して」


「竜の祖を舐めるでない」


吸血鬼としては真祖である息子のウラドに負けるかもしれないが、竜ならば負ける気など毛頭ない。


それに久しく息子と孫との旅行なのだ。誰にも邪魔はされたくないので、念には念を入れねば気が済まないのだ。


「ほら行くぞ」


そう言ってドラクルは窓を飛び出すが、今はまだ昼間で吸血鬼の活動時間ではない。普通の吸血鬼ならば燃えて灰となるのだが、最強と謳われる血を持つ彼等には関係ない。


太陽で焼かれようが再生能力の方が上回るので、人と変わらぬ生活が出来るのだ。まぁ焦げた匂いは隠せないので、すぐに吸血鬼だとバレるのだけど。


「待ってくださいおじいちゃん!」


置いてくぞーとばかりに先に飛んで行ってしまう祖父に続いて、ミフネとウラドも城を飛び出した。


城の外に出るのは久々だ。いつも腕試しにと城に入るハンターを追い払いつつその血を拝借していたので、もう何十年どころか何百年振りな気がする。


昔とは随分変わった街並みにですら、こんなにも心が踊るのだ。日本という知らない土地になんて行ったら、本当に踊ってしまうかもしれない!




「…なんて、思ってた時もありました」


「どうしたミフネ?そんなに落ち込んで」


真夜中のビルの屋上で光り輝く街中を見下ろしていたミフネは、随分と違う文化に疲れて肩を落としていた。


祖父はよく出掛けると言って世界を練り歩いていたので、こういうのには慣れているのだろう。ほれと差し出されたハンバーガーなる物を受けとったミフネは、なんだこれと紙に包まれたそれを眺め匂いを嗅ぐ。それは柔らかく色んな匂いがするが、その中でも一際ツンとした刺激臭が強い。


「ほらウラドも食え」


ウラドもミフネ同様、受け取りはするが初見のそれを持ったまま固まってしまった。


父様は得体の知れない物を見たり貰うと思考が停止してしまうのだ。何故そうなるのかは分からないから祖父に聞いたら、父とは息子の前ではカッコつけたくなる物なのだとよく分からない回答を貰った。


思考停止=ミフネの存在なのだとしたら、私が父の弱点みたいではないか。そりゃ城に閉じ込めるわけだとミフネは勘違いのようで勘違いではない結論に至るわけだが、それを指摘する相手が何処にもいないので結局城にずっと籠っていた。父様の事は大大大好きだし、祖父やハンターがよく城に来るお陰で話し相手にも困っていない。今回みたいな事がない限り、城から出る理由がないので仕方がないとも言える。


祖父がミフネの隣に座り、ハンバーガーを包む紙を剥いて中身にかぶりついた。ミフネもそれを真似して、パンに肉が挟まれたハンバーガーなるものにかぶりつく。


「美味しいっ!」


「はははっ!そりゃあ良かった」


城ではいつも少量の血か、父様がいつの間にか用意するパンや城で育てた野菜で作ったサンドイッチを食べて過ごしていた。


こんな刺激的な味の食べ物、初めてだ。ニンニクが入っているのが少し残念ではあるが、酸味の強い野菜?のようなものと赤いソースのお陰でミフネでも食べれてしまう。


ミフネは大きな口を開けてまたかぶりつく。


ウラドもいつの間にかミフネの隣に座り、ハンバーガーにかぶりついていた。ニンニクを感じたのか少し顔を顰めるが、すぐに慣れたのかまたかじる。


その姿はただ外でご飯を食べているだけというのに、様になっている。流石は父様である。


「久々ですね。3人で食べるのは」


祖父に渡されたコーラという飲み物に驚きつつ、ミフネはこれだけでも来たかいがあったと顔を緩ませる。


祖父はよく城に来てくれるが、すぐに何処かへ行ってしまう。こうして3人で食事をとるのも出掛けるのも、それこそ何百年前所の話ではない。


同胞は確かに増えたが、ミフネにとっての家族は祖父とウラドの3人なのだ。この3人で過ごす時間こそがミフネにとって一番の宝物であり思い出だ。


「…口にソースが付いている」


もうミフネは立派な大人だというのに、父様は口に付いたソースを拭こうとしてくる。自分で拭けますよと祖父から貰った紙ナプキンで拭けば、眉毛を八の字にしてしまった。


そこまで落ち込まなくてもいいだろうに。


「父様こそ付いてますよ」


「儂は?儂は付いとらんか?」


「おじいちゃんのそれはわざと付けたでしょう!」


ほらここにっと自分の顔に指を指し教えてあげれば、そこに祖父が乱入してくる。もうとっくに食べ終わったハンバーガーを包んでいた紙に付いていたのでろうソースを、自分の口の端に付けたのだろう。


自分で拭いてくださいと紙ナプキンを渡せば、孫が冷たいとほざきしくしくと泣き真似をはじめてしまった。


「あ〜もう、ほら拭きますから!その嘘泣きをやめてください!!」


全く、父様も祖父も自分に甘すぎる。だから未だにミフネの容姿は青年のまま成長しないのだ。まぁ、自分もそれを望んでいるから、というのもあるのだけれど。


祖父が痛い!やめて!!と言うまで綺麗に拭いてあげたミフネは、残りのハンバーガーとポテトを口に放り込み最後にコーラを流し込む。


人界の食べ物は娯楽であって、吸血鬼本来の食事とは『新鮮な血』だ。先程から良い香りの血の匂いがし、ミフネのお腹が鳴って仕方がない。


「いつまでそこに隠れてるつもりなんですか?狩人さん」


流石は魑魅魍魎の蔓延る日本。質のいい狩人達が揃っているようだ。


吸血鬼の祖とその血統を前に、彼等は見つかったのなら仕方がないとその姿を現した。


「仲慎ましく食事してるもんだから、出るタイミングを失ったんだよ…」


「ひんっ!でも絶対これヤバイですって!!もうビンビンに伝わるじゃないですかこれ!!!逃げましょうよ〜!!!」


「そんなヤバ気な感じなんですか?僕、そっち関連は知らないんで、先に帰ってもいいですかね???」


なんとも不思議な3人組である。


最初に出てきた男は獣臭く、背中に自身の等身と変わらぬ巨大な斧を背負っていた。2人目は女で、同胞の香りがするが人の匂いもする。ダンピールと呼ばれる半吸血鬼に違いない。


3人目がよく分からない。嗅ぎなれない匂いだ。人の匂いもするが、薄らと獣以外にもなんとも言い難い不思議な香り…それと吸血鬼の食欲を唆る、魅力的な甘い香りがする。


「お名前を伺っても?」


「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀ではないんですか?」


ミフネの問いに、3人目の男が言葉を返した。


あ、これヤバイと思った時には既に遅く、地面から血の棘が飛び出し男を襲うがそれを祖父が手で掴んで止める。


「短気は損気だぞウラド」


「…」


ドラクルがコラと注意するが、ウラドは知らん顔である。まるでミフネの問いに答えないコイツらが悪いとばかりに、無言で3人を見つめている。


しかしその3人はそれどころではない。ドラクルの口から発されたその名前に、目を丸くしている。


「いや、ウラドってもしかして…あの『竜の一族』じゃない?!!」


「あ、ご存知なのですか?僕はウラド父様の息子ミフネです!以後お見知りおきを」


知っているのなら話が早い。ミフネははいはーいと手を上げならが自分の名を教え、最後は優雅にお辞儀をする。


「てことは此方の方が…」


「儂か?ドラクルだ」


「「「ですよねー!!!!!」」」


おお息ぴったりとミフネが拍手を送るが、3人は手にかけていた武器をしまい先程は失礼しましたと何故か謝られる。


寧ろ攻撃したのはミフネ達なので、謝るならば此方な気もするのだが事情を説明されてすぐに納得した。


「かれこれ数十年も昔の話なのですが、ドラクル様が来た時に『竜の一族』のみ休戦協定を結ばれたのです。私達はまだ産まれていない頃の話なので、眉唾物だったのですが…本当に会えるなんて」


「そんな事があったのですね、『おじい様』?」


ってことはこれ、おじいちゃんが最初に名乗れば良かったのでは?そもそも、最初からその組織に挨拶に行かなかったのが悪いのでは??


ミフネがふふふと笑みを浮かべながら祖父の顔を覗けば、そんな事もあったような?とミフネから必死に視線を逸らし口笛まで吹く始末。父様ですら何やっているのだとばかりに祖父に視線を向けているので、祖父は挨拶しに行けばいいんだろう!といじけて3人を両脇に掴んだ。


「あ」


3人の絶叫と共に祖父の姿が消える。これ、追わないともっとややこしくなるやつだ。


「父様僕らも行きましょう!」


「ん」


ミフネも急いで祖父を追おうとするが、何故か身体が軽くなり自分には出せない速さで移動が行われる。見上げれば父様の顔。多分今の自分は祖父があの3人にしたように掴まれ運ばれているのだろう。


確かにそうする方が手っ取り早いが、せめて一言…と言いかけその言葉を飲み込む。普段無口の父様が一言でも反応したのだ。表情には出ていないがきっとこの状況が刺激的で楽しんでいるのかもしれない。ならば自分はその邪魔をしないように徹底しなければ。


だってそうすれば、いつかまた父様の笑顔が見れるかもしれないから。


「父様その意気です!そのままおじい様を越しちゃえ!!」


それに案外自分もこの状況が楽しかったりする。父様の移動速度は目に追えない程速いが、吸血鬼の自分ならば見ようと思えばゆっくりこの輝かしい日本の景色を堪能出来るのだ。


その日の夜、少年の無邪気な笑い声と3人の絶叫が辺りに響き渡る。日本では昼夜そういう事件が多発しているので、新手の怪異かと人々が噂する程度でこの騒動は終わった。


まぁ、僕達が組織に着いたらまた話は変わって来るんだけどね。





ミフネがまだ城にいた時の事だ。


暫く修行をしに行くと言って、一時期姿を消したヴァンパイアハンターがいた。


数年経ってその人間は帰ってきたのだが、並の吸血鬼ならば一瞬で終わらせる程度の実力を付けていた。ミフネ達はそこらの吸血鬼とは違うのでいつも通りのしたのだが、彼はその時こう言った。


まだまだ日本で修行するべきだった、と。


「その修行してた場所がここなんだ」


怪異対策連合 通称『オーダー』


連合やオーダーなど、人外の僕らの中ではそう呼ばれている。ミフネ達のような魔に属する者やその土地特有の怪異を対策する為に作られた組織である。


特に日本は土地柄的に色んな怪異を引き寄せるので、それに合わせて色んな部署があるんだとか。そしてどんなトラブルにも対応できるように、種族や国も関係なくチームを組み問題を解決するらしい。場合によっては海外出張もあり、噂では大怪獣バトルのような大きな事件なども取り扱ってるそうだ。


なにそれ見てみたい。


「お邪魔するぞ」


目を回した3人を抱えた状態の祖父に続き、テンションMAXのミフネとウラドも中へと入る。


本来説明すべき筈の3人が目を回しているので、また戦闘が始まるかと思っていたのだがそういうことはなく。まるで友達のように祖父が受付と会話をし、そのまま吸血鬼対策本部へ案内される。


ミフネ達は大人しくそれに従うのだが、あら不思議。吸血鬼はあらゆる能力が人よりも飛び抜けているので、小言など全てが筒抜けになるわけなのだが…防音されてはいるものの色んなところで罵倒やら爆発やら起きている。


自分達に向けてではないので良いのだが、あれ?ここって色んな人とチームを組むって聞いたような。もしかして気のせいだったのかな?


ミフネの中で不思議が増えた。


他にもエレベーターに乗ったら重量オーバーでブーブー音がなったので、祖父をエレベーターから追い出そうとしたら駄々をこねはじめ、吸血鬼だから僕ら飛べるじゃんと閃いたはいい物のぎゅうぎゅう状態で無理やり乗ったり。


エレベーターを利用しようとしてた多分連合の人が驚いて腰抜かしたり、祖父の担いでいた3人が目覚めたはいいものの産まれたての子鹿のように足腰が震え年寄りのように歩いてたり。


ハプニングは多々あったが、僕らは無事に吸血鬼対策本部に着いた。


「お邪魔しまーす」


祖父が遠慮なく入るので一応一言入れてからミフネも入るが、中は思ったよりも普通。デスクと椅子が沢山並んでいて、四角くて薄い何かと睨めっこするひ弱そうな人達がいた。


戦闘員はこの隣の部屋にいるのだろう。ガチャガチャと金属の擦れる音や息遣いがするので、そうに違いない。


「ドラクルが来たぞ〜」


「そんな軽いノリで言わないで下さいよ!…はぁ、この後の始末書どうしてくれるんですかドラクルさん」


ガチャリと戦闘員がいるであろう隣の部屋の扉が開き、そこから白髪混じりの髪を結んだ眼鏡の男の人が現れる。


彼の名前は上原(うえはら) (みなと)さんと言いうらしく、吸血鬼対策本部の室長だそうだ。


「随分大きくなったなぁ」


「そりゃあ貴方と会ったのは子供の頃ですもの。3〜40年経てば私も立派なおじさんになりますよ」


祖父とは昔、出会った事があるようだ。


子供扱いするドラクルに湊はやめてくださいとその頭に置かれた手をなんとか退かすが、それだけで息切れを起こしている。


人は脆く儚い。ミフネも城にいた時、あっという間に代替りしていくハンター達に寂しく思うことがあった。祖父もあの時のミフネと同じような心境なのだろう。ただ祖父はミフネのおじいちゃんである。少しだけ嫉妬してしまう。


「そろそろ本題に入りましょうよおじいちゃん」


「ん?おぉそうだな」


自分達は元々、日本で感じた気配が気になりここに来たのだ。遠い国にいる自分達が気付くなら、日本が故郷の彼等は絶対に知っている筈。


祖父を促し湊との戯れを止め、ミフネは彼等に問う。


「つい先日、大きな気配を感じたんです。何かご存知ではないですか?」


純粋な好奇心から聞いたわけだが、彼等にとってはそうも言ってられない状況になってしまったようだ。この部屋だけでなく、隣の部屋に待機している戦闘員達の空気までもが張り詰める。


心当たりはあるが、そう簡単に言えるような物ではないのだろう。『竜の一族』と休戦協定をしときながら、それすらを破棄せんばかりに向けられる殺気にミフネは自然と口角が上がる。


吸血鬼は生きようと思えば永遠に生きれる。特にミフネ達『竜の一族』は、まだ神と竜と人がよく交流していた頃から生きている古き一族。遥か昔から生きているからこそ、娯楽というものに飢えている。ミフネは城に籠っていたから、尚更そういうものに飢えていた。


父様は例外だけど。


「すみません。それについてはぶっちゃけここは対策外なので何も言えないんです」


「ふむ。そうなのか」


流石は室長とでも言うべきか。


さらりとそれは言えないと断言した。なんなら他へ言っても同じ答えを貰うだろうと、教えるつもりもないという意思表示さえされてしまう。


「出来れば武力行使は避けて頂きたく。私達も貴方々と全面抗争はしたくないのです。催眠といった能力もダメですよ」


「むっ。言うようになったの湊」


むっと言っているが、祖父は催眠といった能力は苦手でどちらかと言えば物理で殴るタイプの吸血鬼だ。全く吸血鬼らしくない戦い方をするので、前者は祖父へと向けて後者はウラドやミフネに向けて言ったのだろう。


最悪、それで聞き出そうと思っていたので残念である。


だがその程度で諦める程、ミフネの心は柔くないし好奇心も更に膨れ上がった。人もあるだろう?ダメと言われればやりたくなる気持ちが。あれと同じである。


「街を歩いていて、たまたま見つけたら不可抗力ですよね!」


「あぁ〜、そう来ますか…」


目を輝かせるミフネに、湊は困ったように笑う。


隣の部屋から何時でも行けるぞとばかりに戦闘員達が目を爛々と光らせているが、そう簡単に倒せる…というか、そもそも倒せるかも分からない相手なのだ。それは出来ないよと、戦闘員達に向かって首を横に振る。


怪異大国日本という荒波に揉まれた彼等は、湊が信用に値すると思っているほど強い。しかし今相手にしているのは『次元』が違うのだ。元々噂程度にしか吸血鬼の中でも語られていなかった『竜の一族』が、自分の家に訪れた当時の記憶は今も残っている。


ドラクルを初めて目にした湊は、当時子供だからこそその得体の知れない存在に恐怖した。


父がヴァンパイアハンターだったので、恨みから日頃狙われる事が良くあった湊は吸血鬼を何度もその目で見ていた。しかしその度に父や仲間がいつも助けてくれるので、なんとなく雰囲気で吸血鬼の力量という物が分かるようになっていたのだ。


だからだろう。今まで見たどの吸血鬼よりも底知れぬこの吸血鬼に、湊は父に縋り付き震えることしか出来なかった。


しかしドラクルは大の子供好き。余りにも自分が怯えるもんだから、逆に嫌われてしまった!と落ち込み泣き出す始末。いや、怖いのは自分なんだけど?!と当時の湊はビビりながら、父に言われるがままドラクルと交流していた。


結局交流してみれば本当に子供大好きな親戚のおじいちゃんみたいな人だったので、すぐに打ち解ける事は出来たが…ドラクルの連れてきた孫はともかく、息子と打ち明けるには相当根気が要りそうだ。


先程からずっと無表情で何も喋らないのだ。


ただ初任務に運悪くこの『竜の一族』と出会ってしまった彼等から、孫関連は何がトリガーになるのか分からないので要注意と、彼等の耳に悟られぬよう式神によって直接脳に伝えられている。だからこそミフネのこのキラキラした笑顔を見て、あ、これ断ったらヤバい奴と理解し言葉に困っているのだ。


「…ドラクルさん。本当に後で恨みますからね」


「まぁ、なんだ。孫がすまんのう!」


がははと大笑いするドラクルに湊は全くと額の汗を拭い、改めてミフネと向き合う。そして今も尚にっこにこなミフネに「その時は仕方がありませんね!」ともう何もかも諦め笑った。


隣から戦闘員達のズッコケる音がするが、仕方がないだろう。この3人が暴れたら、幾ら神々が多く集まりやすい日本だろうが大変な事になる。


「せっかくですし、日本にいる間は僕の家に泊まってはどうですか?僕の父も暇だと言っているので、喜ぶと思います」


「それはありがたい!来たはいいものの寝床を悩んでいたのだ。棺桶はあるので野外でも寝れなくはないが、昔それをして玄弥(げんや)に怒られたからな!」


「見つかったのが私の父で良かったですね。他の方なら問答無用で即破壊されてますよ…。今それをやると僕達の案件になってしまうので、絶対にやらないでくださいね」


これ以上仕事を増やされてはたまったものでない。誘って良かったと湊は安堵しつつ、いつ行きますか?と3人に聞く。


「今行って大丈夫なのですか?人は僕らと違って夜寝るでしょう?」


「私の家系は代々ヴァンパイアハンターなので、寧ろ夜の方が騒がしいですよ。息子達は学校があるので、それに合わせて生活リズムを変えていますからお気になさらずに」


ミフネの様子的に、今行ってもついてきてくれそうな雰囲気である。ならばこれ以上仕事を増やされる前に我が家に連れていくのみ。


後は任せましたよー!と湊は必要な物をまとめ、3人を我が家に車で送る。始末書は自分がやらねばいけないが、その他の仕事は仲間達に任せても何とかなるはずだ。というか何とかしろ。


自分はこの自由な3人を丸め込み、如何に被害を最小に抑えるかという重要な任務がある。最悪何かあっても湊に式神を寄越した(じん)か事務の仲間が連絡を寄越す筈だ。


さぁさぁと湊は家に着くなり3人を部屋に案内する。案の定父である玄弥が起きており、ドラクルは父と再会するなり酒盛りをはじめてしまった。母の幸子(さちこ)はその様子に懐かしいわねぇと微笑むが、妻の(めぐみ)はひっきりなしに湊へ視線を送る。


一応先に連絡は入れといたのだが、やはり心の準備時間が足りなかったのだろう。子供の頃の自分を思い出し笑いそうになってしまうが、今ここで笑ってしまえば後で雷をくらいかねない。湊は安心してと妻を落ち着かせつつ、ウラドとミフネは何をしたいか聞く。


息子の和樹(かずき)と娘の穂花(ほのか)は丁度夜の学校でいないので、今夜は騒ごうと思えば騒げる。家さえ壊さなければなんでもやってもらって構わないと伝えるが、ミフネは先日の正体の方が気になるらしく夜にも関わらず寝ると宣言されてしまった。


客間に案内すれば、ウラドもミフネについてきたので寝るのだろう。2人は身体から愛用の棺桶を取り出し、そのまま「おやすみなさい」と言って寝てしまった。


自分の身体よりも大きな棺桶を取り出すあれは、永く生きたこそ成せる業なのか。それとも『竜の一族』だからこそ成せる業なのか。もしかしたらその両方なのかもしれない。どちらにせよ全てが規格外の吸血鬼を放っておくことは出来ないので、湊は客間から出て真っ直ぐ自室へと籠る。


これからやる事が沢山ある。始末書然りこれからのプラン然り。とりあえず今日の初任務の3人には生贄になってもらおうと、湊は3人に連絡を入れる。


どうせはしゃがれたら、誰を彼等に付けたって追いつけやしない。なら新人研修も兼ねて鼻の効く狼男のアドルフと式神使いの仁が最適だ。


ダンピールのアリーナはその体質上昼間は出歩けないので待機してもらう事になるが、ドラクル達が来たという事は他の吸血鬼も来るかもしれない。先輩方のチームに混ぜて、吸血鬼との戦闘に慣れて貰おう。


あとやる事は…とリストをまとめ上げていればあっという間に朝になってしまった。一応他の部署にも連絡は入れといたが、果たしてどうなる事やら。オーダーとは名乗ってはいるものの、他部署によっては血気盛んだったり仲が悪かったりする。下手に衝突すると事態がややこしくなりかねないが、マジで気をつけて貰わなければ湊の仕事が増えかねない。


そして湊は気づいてしまった。


「私は一体いつ寝ればいいんだろう」


夜はドラクルが、昼間はウラドとミフネが観光感覚で出歩く筈だ。彼等がいつ日本を出るかも聞いていない。場合によってはその存在と会うまでここに居かねない。


暫くオール決定だ…!


その後資料を撒き散らし泣きながら笑う湊の姿が確認される事になるが仕方の無いことだろう。人間寝不足になるとどんなに堅物だろうが聖人だろうが、正常な判断など出来やしないのだから。




「おーい待ってくれ!!」


これまでになく上機嫌なミフネが建て並ぶ家々の屋根伝いに渡っていれば、ミフネの付き人として付けられた男…アドルフという名の狼男とその背に式神使いの平井(ひらい) (じん)がしがみつきながら必死にミフネの後ろをついてきていた。


自分なりにゆっくり歩いてたつもりなのだが、彼等には違ったらしい。


「むう、仕方がないですねぇ」


ミフネは彼等を待つ為に、日傘を差して人気のない道に降りた。屋根伝いならば匂いなど気にせずに移動出来るのだが、人が通る場所はそうもいかない。人の焼ける匂いを周囲に振りまく事になるので、こうして日傘を差さねばいけないのだ。


「狼男にしてはまだまだ未熟ですね」


「一応元一般市民だからな俺は」


「それは失礼しました」


足は遅いが息切れはしていない。能力的には他の狼男よりもポテンシャルは高いが、吸血鬼と同じ夜の眷属にしてはその力を上手く扱えていないというのがここ数日彼と過ごして分かった事だ。


それを指摘すればアドルフはあっさりその理由を言うが、それがどんな苦痛を伴うかを知っているミフネはすぐに謝った。


狼男や狼女といった眷属は、吸血鬼と同じく大体の者が『感染』もしくは『血の摂取』で人から同族に変化させることが出来る。ただそれらの眷族は特に満月の夜だと理性を失う者が多く、人を生かす事は殆どないのだ。


吸血鬼もそうだが会ったら死を覚悟しろ、と言われている存在なだけある。しかしそれでも尚生き残ったこのアドルフというこの青年は、きっとその時に受けた傷か血を浴び感染、そして全身多大な苦痛を伴って狼男となった筈だ。


特に初めての変身は痛いと聞く。その痛みで毎回理性を失いただの獣に成り下がる者もいるなかで、こうして理性を持ち共に行動できるのは凄い事なのだ。


「君の事見直しました」


「ありがとう…って言ったほうがいいのか、これは」


「僕的には言った方がいいと思うよ。多分これ、褒めてる」


アドルフの背から降りた仁は、疲れたとばかりに背伸びをした。それもそうだろう。ここ数日ずっとアドルフの背にしがみつき、何時間も移動しているのだから。


仁もアドルフと同じく一般家庭生まれであるが、陰陽師としての才能がある事が分かり今は式神使いとして研修中の身である。


体力面ではアドルフやダンピールのアリーナに叶うはずもなく、この移動は仁にとって過酷な筋トレや最早処罰を受けてるようなもの。ここ数日筋肉痛で腕を上げるのも辛いが、それを式神によって無理やり動かしている。湊に特別手当が欲しいと言いたいところだが、寝不足の湊によるあの踊りを目にしたら言う気が失せた。


自分はミフネだけを相手にしこの程度で済んでいるが、湊は四六時中誰かを相手にしなければいけないのだ。本来ならば今もウラドはミフネについていく予定だったのだが、たまには遊ばせてこいというドラクルの言葉でウラドはお留守番をしている。


つまり湊は寝ずにウラドの相手をしているのだ。今、この時も。


そんな上司に詰める程、自分は悪魔ではない。寧ろそのまま止めていてくれと上司を生贄にしてる部分があるので、この騒動が終わったらまだ新人だけど労わってあげようという気持ちが湧いているところだ。


「それで?肝心の正体は掴めそうなんですか?」


懲りずに探し続けるミフネに、仁は聞いてみる。


ぶっちゃけ仁はその正体を隠している陣営側なので、状況的にも絶対見つかる事などないだろうと考えているのだが…ミフネはそうは思わないらしい。


たまにくんくんと周りの香りを嗅ぎ、まだ分からないでしょう?と不敵に笑うのだ。


「なんか匂いするの?アドルフ」


「んー。よく分からん」


ミフネと同じように辺りの匂いを嗅ぐアドルフは、うーんと首を傾げた。でも…とアドルフは何かを言いかけるが、難しい顔をしそこで言葉を止める。


「何?なんか感じる事でもあんの??」


途中まで言われて止められると気になるではないか。アドルフに教えてよと何度か言えば、渋々ながらも続きの言葉を紡ぐ。


「なんだか、腹が減るんだよなぁ。なんでだろ」


「あ、やっぱり君も?なんかここら一帯同じ匂いするよね」


不思議そうに腹をさするアドルフに、ミフネもそうだよねぇ!と同意する。


同じ夜の眷属だからこそ感じる何かがあるのだろうか?


仁は隠す側ではあるが、その正体も今どこにいるかも分からない。ただ『それ』は安全な場所にいるとしか伝えられていないのだ。その筆頭があの守りに特化した護守家(ごのかみけ)だったので、それなら安全だあと言われるがままに鵜呑みにしていたが…。


どうも嫌な予感がする。一応上司である湊と本部に式神を送るが、その間にミフネが何かを見つけてしまったようだ。


「彼処、なんか面白そうなの売ってる!僕ちょっと行ってくるね!!」


「あ、ちょっと!」


仁の制止も聞かずにミフネはすぐ近くの駄菓子屋へ走っていく。慌てて追いかけようとするが、アドルフによって腕を掴まれ止められた。


「何し…て…いや、アドルフ。君、どうした?」


フーフーと息を荒くし、その口からは涎がぽたぽたと落ちている。これはあれだ。狼男が内なる欲望に抗っている時の症状である。


「はや…く、ここ…離れ」


「分かった。分かったから一旦僕の腕は離して」


筋肉痛で式神を貼りつけていたからいいものの、それが無ければ掴まれた瞬間に骨が折れるか握り潰されていただろう。思ってもみなかった緊急事態に、仁の額から汗が垂れる。


喉から低い唸り声を上げ始めた同期を抱え、仁は追加の式神を放った。


『緊急事態発生。吸血鬼と対象が接触。吸血鬼警護に当たっていた隊員の1人が、現在原因不明の症状により行動不能。至急応援を頼む』


式神で連絡を取れるといっても、届いてから仁の所に返事と応援が来るまでタイムラグがある。それまでに問題を起こさなければいいが、ミフネの事だ。何かしらやらかすに決まっている。


しかしアドルフの事も放っておく事は出来ない。もし暴走状態に陥り人を傷つければ、アドルフは下手したらオーダー追放どころか処刑だ。


全く、新人になんて任務を寄越すんだ。やっぱり労るのはやめて、しっかり特別手当を貰おう。


仁は歩くこともままならなくなったアドルフを予備の式神でなんとか起こし、ゆっくりとその場から離れた。




そんな事露知らず、ミフネはというと本能に突き動かされるがままに小さな店を覗いていた。


辺り一帯に漂っていた甘美な香りは、この店を中心に香っていた。ならここにいるだろうと直感のまま来たのだが、香りの他にも気になる物が沢山置いてある。


祖父が一度持って帰ってきてくれた駄菓子というものだ。外にはケースもあり、中には冷たくて四角い袋や三角の入れ物に入った渦巻き状の物など色々入っている。


「何これ!初めて見た!!」


早速買ってもらおうとアドルフ達を呼ぼうとしたのだが、近くにいない。なんなら気配がどんどん遠ざかっている。


「あー。耐えられなかったか」


それなら仕方ないかぁとミフネは肩をすくめた。


この香りを嗅いでるだけで腹が減ると言っていたのだ。寧ろ狼男に成り立てでここまで来れたのは、彼が鋼の精神の持ち主である証拠である。後で盛大に称えてやらなければ。夜の眷属の抗い難いあの飢餓状態を耐え抜くアドルフを。


そっと冷たいケースの蓋を閉じ、本来の目的を忘れとぼとぼとその場を離れようとしたその時「おい」と声を掛けられる。振り返れば少年が立っていた。


少年は自分が声を掛けたにも関わらずあーと何やら困ったように頭を掻き、ミフネに向け少年が買ったであろう駄菓子の入った袋を突きつけこう言った。


「食うか?」




何故か分からないがミフネは少年と共に、公園のベンチに座って駄菓子を食べていた。


勿論ミフネの食べたかったあの冷たい奴もだ。少年が袋から取り出すとそれには2つ棒がついており、パキリと半分から折って大きい方をくれる。


「ありがとう!」


わーいとミフネはそれを口に入れる。冷たくて甘いお菓子など初めて食べた。美味しい!!と目を輝かせれば、少年は大袈裟だなぁと自分の持っているアイスを齧った。


「お前、ここら辺の人じゃないだろ」


「うん、そうだよ」


隠す必要などない、本当の事だから。それに隠そうとしても、何もかもが知らないことだらけだからすぐにバレるだろう。


現に今もアイスを知らないなんて…と驚かれている。


「ずっと城に籠ってたから、外の事はさっぱり分からないんだよね」


「ふーん。って事は、人じゃなかったりすんの?」


「するよ」


ほら牙あるでしょ?と見せてあげれば、すげぇ?!と驚かれる。それこそ初めて見たみたいに。


「日本って僕らみたいなのがいっぱいいるんじゃないの?」


「そうらしいな。俺、見えるようになったの最近だし。だからお前と一緒で、毎日が知らない事だらけだよ」


少年は物鬱げにゆっくりとそう答えた。


その表情は何処かで見た時がある。そうだ。祖父が大昔に亡くなった竜の友を語る時と同じ、懐かしむような悲しむような…そんな顔。


「僕は吸血鬼のミフネ。君は?」


「俺は星永(ほしなが) (なお)だ」


これも食うか?と直から渡されたお菓子を受け取る。プンタンアメというらしい。


つい最近食べたハンバーガーも包みに入っていた。これも剥いて食べる物かと思い剥ごうとするが、直はそのまま食えるぞと口に放り込んでしまう。


ミフネも真似てみれば、口の中で周りを包んでいた物が溶け柔らかくて甘い味が口いっぱいに広がる。美味しい。


「これ、婆ちゃんが好きだったんだ」


「え、食べちゃった。お土産にしなくて大丈夫?」


「大丈夫。お供え用買ってるから」


やっぱり大好きな人を亡くしたんだ。やるよと渡された残りのプンタンアメの入った箱を、ミフネは食べること無く大事にしまう。


「食わねぇの?」


「父様とおじいちゃんにもあげたいから」


「そうか」


ふわりと優しい風が頬を撫でる。空には巨大な鳥が飛んでおり、すっごぉいと自然と出た言葉に直もそうだなと頷く。


「すんごいぶっ込んだ話するけどさ、もしかしてお婆ちゃん亡くなったの最近?」


「うん最近」


「理由聞いてもいい感じ?」


「重くなるぞ?」


「でもさ。話したいから僕にお婆ちゃんの話をしたんじゃないの?」


それは、まぁ…と直は俯く。


申し訳ないと思ったのか、駄菓子をまた渡されるがミフネはそんな事しなくても聞くよ?と言いつつ受け取る。だって知らない食べ物ばかりなんだもの。


紐の付いた甘い飴を口の中で転がしながら、ミフネはほら話しなよと急かす。


「これでも僕、君より年上だよ?詳しくは言えないけど、確実に1000歳は年上」


「それにしては精神年齢低くないか?」


「僕、喧嘩売られてる感じ?」


「ごめんって」


はははと笑った直は、何処か遠くを見つめた後にぽつりぽつりと話し始めた。


いきなり色んなものが見えるようになり、目の前で親代わりであったお婆ちゃんが化け物に殺された事。すぐに葬式が行われたが、お婆ちゃんの遺体が盗まれた事。化け物を追うことも倒す事も出来ず、今はただ守られるしかない自分が不甲斐ない事。


まぁ、なんとなく気づいてはいたが…この少年があの時感じた気配の正体なのだろう。普通の人間なら騙せるだろうが、鼻のいい相手には隠せはしない。だってこの少年からは甘美な香りと共に、何処か懐かしい香りもする。


僕は、だけど。


ミフネはふ〜んと、小さくなった飴をガリゴリと齧りながらその話を聞き続けた。


吸血鬼からしたら人の生なんてあっという間だ。ミフネ自身何度もお別れをした。悲しいけど、仕方のない事なのだと諦めていた。だからいつも表面の付き合いしかしない。だってすっごく仲良くなってしまったら、祖父のように辛くてたまらないって気持ちになってしまうから。


「僕は吸血鬼だからさ。生と死についてはあんまり考えないようにしてたんだよね」


「なんで?」


「だって君らすぐ死んじゃうもの」


「まぁ、そうか」


「でも、それは僕がただ逃げてただけなのかもね。君はちゃんと受け止めようとしてる、偉いよ」


「ミフネと比べられてもなぁ。だってミフネは何人所の話じゃないだろ?」


「そうだね」


あの城に籠ったのはいつからか。年なんて数えるのを辞めてしまったので、覚えてはいないがとても永い間あそこにいた気がする。その前から一応転々とはしていたが…数え切れない程の人達とお別れをした。


特にミフネが小さい頃は父様の気が立っていたので、襲ってくる者は誰彼構わず串刺しにされ殺された。祖父が来てからは少し落ち着いたが、それでも今の父様になるまで何百年とかかった。


…全部、ミフネが招いた結果だ。


そのせいで父様は吸血鬼になり、ミフネもそれに感化され同族となった。祖父は竜の一族の祖の1人としてケジメを付けるために自ら追放され、その身を僕らと同じ夜の眷族に堕とした。


悔やまなかった日など、1度もない。


だってミフネのせいで父様は串刺し公なんて呼ばれるようになってしまったし、本来ならば竜の祖として栄光な名であるドラクルも悪魔の名として広がってしまった。大分昔の話なのでもう殆ど覚えてる人なんていないが、『竜の一族』の過去は血生臭い。全部全部、ミフネのせいである。


「おいおい、なんでお前が泣いてんだよ」


「いやぁ、ちょっと。自己嫌悪」


すんと鼻を赤くするミフネに、直は慌てたようにラムネ食べるか?と別の駄菓子を渡してくる。吸血鬼を駄菓子で釣ろうとするな!と怒りつつ、コロコロと転がる白い玉を受け取った。


口の中でシュワッと溶けるそれは、ミフネの過ごした日々と同じようにすぐに溶けてなくなる。あっという間に。


「でも嫌だね。僕ら吸血鬼は死ぬ時は灰になるけど、それを他の誰かに盗られるなんて…考えたくもない」


「すんげー嫌だ。でも良くあるんだってさ、そういうのが。力を持つ人の身体は、色んなのに使えるんだって」


「まぁ能力によるけど、貴重だものね。色んな媒介になるわけだし…って、あれ。これもしかして疑われてたりする?」


「最初は?でももう疑ってねぇよ」


それならいいやと、残りのラムネを口に放り込んだ。色んな甘いお菓子を貰ったが、全部違う甘い味。でも全部美味しいかった。


吸血鬼たるもの、この貰った分くらいはお礼をしなくては。


「ねぇ、空は好き??」


「え?まぁ好きっちゃあ好きだけど」


「なら一度、その狭い檻から抜け出させてあげる」


直は気付いていないが、ずっと此方を窺う何者かがいるのだ。きっとそれは直の言っていた、直を護る人達なのだろう。


しかしずっとそんな人に囲まれていたら、気が沈むというものだ。特に大事な人を亡くしているのなら尚更。


「ほら背中を掴んで!行くよ!」


「え?えぇ?!!」


バサリと巨大な翼を広げたミフネは、勢いよく空を駆ける。下から何やら叫び声やら怒鳴り声が聞こえるが、知ったものか。


彼等が見えなくなる程空高く飛び上がったミフネは、尻尾で直を落ちないように掴みながら下を見てごらんと促す。


「わっ、すっげぇな」


「ほら、さっきのでかい鳥もいる」


「こいつ、こんな顔してたのか…意外とブサイクだな」


街を見下ろし感嘆の声を上げていた直は、いつも見たいと思っていた鳥が意外とグロテスクな顔をしていた事に1人ショックを受けた。


鳥の方は知能はそこまでないものの、馬鹿にされたことだけは分かるらしくおぞましい声で鳴くと執拗に2人を追い始める。


「ちょっと!直が変なこと言うから怒ったじゃん!!」


「でもよ!周りは見えて俺にだけ見えなくて、ずっと見たいなぁって思ってたのにこの顔はねぇだろ!!」


もっとカッコイイと思ってた!


そう叫んだ直は、しがらみから解放されてるようにも見える。それが一時的なものだとしても、息抜きと考えれば上出来だろう。


「直、アイツらから逃げてたんでしょ?もう少しだけ鬼ごっこしよっか」


ガチンと大きな音を立てて真横で巨大な鳥の嘴が閉じる。懲りずにまた食べようと嘴を開く鳥の攻撃を避け、ミフネは鳥の頭のてっぺんスレスレ飛んだ。


そうすれば直が手を伸ばし、鳥の頭を撫でた。デカイので羽毛は硬いと思っていたのだが、思ったよりもフワフワだったらしく撫でる手が止まらない。


「それ、お前がやばくならない?」


「めっちゃヤバい!でも楽しいからいいじゃんか!」


「なんだよそれ!」


キレた鳥が宙返りをするが、ミフネの方が小回りが聞くのでそれを簡単に避けてしまう。その後も鳥は諦めずに飛んでいたが、疲れたのか覚えてろよとばかりにグアッとひと鳴きしてから山の方へと消えていく。


一見遊び相手がいなくなってしまったようにも見えるが、本番はこれからである。


箒に乗った魔女や魑魅魍魎の背に乗る術師達が、2人を逃がさんとばかりに追いかけ回す。飛んでくる炎や雷を避け、急上昇してから急降下。まるでジェットコースターに乗っているかのような激しさに、自分達が狙われているというのに2人は楽しそうに笑った。


「気分は?」


「最っ高」


もう憂鬱そうな少年はいない。ミフネの背に乗っているのは、不思議な雰囲気を持つ星永 直と呼ばれる1人の人間だ。


「流石に父様達には怒られたくないからね。そろそろ終わりにしようか」


「だな。俺も怒られ…るな絶対に」


「それは僕にはどうしようもないなぁ。大人しく怒られてきな」


「他人事だからってひでぇ」


2人は元々飛び立った場所である公園に戻る。


空ではミフネが華麗に躱すものだから味方に誤爆することがあり、それによって喧騒が始まっているが知らないフリだ。勝手に始めた彼等が悪い。


「ありがとうなミフネ」


「駄菓子のお礼だから気にしなくていいよ。すんごい美味しかったし楽しかった!」


「俺もだよ。また会えたら他の駄菓子も教えるよ」


じゃあな!と直は手を振りいなくなる。きっと彼等の元に戻ったのだろう。


しかし、ミフネはそうもいかない。少しばかし好き勝手しすぎたので、彼が居なくなった途端にオーダーの人達に囲まれていた。


「やれやれ、皆血気盛んだね。いいよ、相手してあげる」


その言葉と共に、ミフネの心臓に銀の杭を打たれた。休戦協定を結んでいるというのに、殺る気満々ではないか。


「ごめんね。僕らの生命力は特に桁外れなんだよ」


可哀想な人間達だ。相手がどんな化け物かも知らないまま、戦わないといけないのだから。


手が焼けるのも構わずに聖銀の杭を抜けば、胸にぽっかりと穴があく。しかしそれは一瞬で塞がり、次は?と言えばその首を落とされる。ミフネは切り落とされた首を拾ってつけ直し、その次は?とその後も彼等の攻撃を受け続けた。


確かに日本は様々な術師がいてなかなかに面白い。吸血鬼で血を操るのなら、その血を切り離せばいいと身体の一部を別の空間に閉じ込める術師がいた。しかしそんな端た血が無くともミフネは再生できる。


特殊な術によってミフネの身体にボコボコと穴が空き血を抜かれるが、体の再生は止まらない。ならばと今度は日本特有の術師であろう直と年の変わらなそうな少年が、ミフネ目掛けて錫杖を振り下ろす。


どんな攻撃だろうと、ミフネは受けの姿勢は変えない。しかしそれのせいで反応が遅れてしまった。


「ミフネ!!」


直の声と同時にミフネの身体は後ろに倒される。目の前にはミフネを庇おうと直が突っ立っており、その頭に錫杖が振り下ろされようとしている。


しかも運が悪いことに、ミフネの父も丁度来たようで『串刺し公』と呼ばれていた頃のように殺気を周囲に向けていた。完全に油断していたので、ミフネが止めるには間に合わない。


ミフネはせめて被害を抑えるために叫んだ。


「父様ダメ!!!」


一瞬で公園一帯から血の棘が突き出す。


が、それらは彼等を貫く事なく急所ギリギリで止まっていた。誰1人死なす事なく止めれた事にほっとするのも束の間、1人だけそれを不可抗力で避けれずに悲鳴を上げる者がいた。


直である。


ウラドの棘は、ミフネを庇ったと判断した直には地面から突き出たしたもののすぐに止まった。しかし錫杖は止まることなく直の頭を強打、それによって直の腰の重心が落ちウラドの棘が尻に刺さったのだ。


なんて言うんだっけかああいうの。あ、そうそう。ジャパニーズかんちょうである。


「お、お前ら…」


尻を抑えたまま倒れた直は、ブチ切れながら錫杖を振り下ろした相手を見ている。ミフネも不可抗力とはいえ仲良くなった直にとんでもない怪我をさせてしまったので、父様!と強く呼べばウラドはどことなくしょんぼりしながらミフネの傍に歩いてきた。


もう棘はない。公園にはその痕跡の穴がボコボコと開いているだけである。


八神(やがみ)、お前わざと本気で殴ったろ」


「そんな事しないって!本当に止められなかったんだって!ごめんよ直!!」


ギャーギャー言い合いを始める直と少年の所へ、ミフネはウラドを連れていく。ウラドは未だ倒れたままの直に「…一応、先は丸めた」と弁明し、直も「ナイス判断ですね」と何故か許す方向になっているがミフネは流されない。


「先を丸めようが刺さってますよ父様」


「でもそれ、僕の攻撃のせい」


「それでも刺さってますよ、その…尻に」


「尻言うな!!!!!」


周りが誰1人怪我をしていないなか、本来ならば護衛対象である彼だけが身体的にも人権的にもダメージを負っている。


なんともおかしな状況である。


ミフネはクスクス笑いながら直の傍にしゃがみ、なんだよとぶすくれる彼のその勇気を称えた。


「でも庇ってくれてありがとう直。吸血鬼になってから庇われたのは、父様や祖父の同族のみ。人に庇われたのは初めてです」


本当にありがとうとミフネはもう一度礼を言う。直はきょとんとしていたが、照れ臭そうに視線を彷徨わせた後にまだ尻が痛いだろうに上体を起こす。


「…俺は話を聞いてくれたお前を助けたかっただけだ」


「そうですか」


その言葉だけならまだかっこいいのだが、足腰をガクガク震わせながら立ち上がるので格好がつかない。なんとも残念な男だと笑いそうになるのを堪えながらミフネも共に立ち上がり、ウラドにどうするのですか?と視線を向ける。


流石に結果が結果だったとはいえ、息子を庇ってくれたのだ。ウラドは息子のミフネよりも小さな少年を見下ろし、数分見詰め気まずい空気が続いた後に「…すまない」と謝った。


「父様は普段からこんな感じなので、慣れてください直」


「あ、俺が慣れなきゃいけないのね」


即フォローを入れるミフネに、直は本当に不思議な奴らだなぁと2人を交互に見つめる。本当に不思議な事だらけ。直の視界にはウラドとミフネが入っているが、その他にも竜のような形をしたオーラが2人から立ち上っている。


それは互いを慈しみ合う親子のように、額を合わせているように見えた。本当に大事な存在同士というのがそのオーラからひしひしと伝わる。


「ミフネの父さん、仲直りの握手しよう」


直が右手を差し出せば、ウラドはまた数分見詰めた後にその手を恐る恐る握る。ミフネがずっと城に籠っていたと言っていたので、ミフネの父さんもそうなのだろう。なんならミフネよりも人慣れしてなさそうだ。


「お前の事は許したくないけどオラ手を出せ八神」


「えぇ…元はと言えば君が逃げ出したからこうなったのに」


「あーっあーっ!何も聞こえませーん!説教は帰ってからにしてくれ」


差し出された左手を八神が握るが、案の定めちゃくちゃに力を込められる。八神が痛い痛い!と騒いでるがそれを全無視し、直はこれで仲直り成立だなとその手を離した。


「あとは…そこの魔女さん、ミフネにちゃんと『全部』身体を返してやれよ」


唯一の身内の身体を奪われた直は、そういう系の物事に過敏になっている。あわよくばと思っていたであろう魔女は、ウラドの視線に気付きちゃんと返します!とすぐに異空間からミフネの血を取り出した。


それらは今目の前に立つミフネと同量の量があったが、綺麗にその身体に収まっていく。なんとも不思議な光景に、お前本当に吸血鬼だったんだなと直が驚けばミフネは不満気に鼻を鳴らす。


「君、そんなんじゃ僕らみたいな存在に簡単に食べられるよ?」


「そうかもな。でもその時はその時だろ」


そう言って笑う直に、ミフネは何故かムカムカした気持ちが込上がる。


自分が父様や祖父を心配する時と同じだ。だけど少し違う…これは、そうだ。代替わりするハンターを見て思うのと一緒だ。


自分は直に死んで欲しくないと、そう思っているのだ。


「仕方ないなぁ」


ミフネは彼等に見えないようにウインクしてるように見せながら、自分の目を血へと変えると指先にそれを集結させ形にしていく。


そうして出来た小さな『人形』を直に渡した。


「トカゲ?」


「僕の一部。大事に可愛がってね?」


「えぇ?!お前そんな事できんの?すげぇけどなんか気持ち悪いな」


「本人の前でそれ言う?!!」


今回はミフネの目を使ったので遠視できる特別な人形なのだ。しかもミフネの一族の血だからこそ小さくても強いし、夜の眷属であれば一定以上の強さまでなら近付くどころか逃げ出す優れ物なのである。


それなのに褒めと貶しを同時にするなんて。吸血鬼の存在を詳しく知っていたらまた違った結果にでもなっていたのだろうか?


…いや、直の事だ。知っていても同じ事を言いそうである。


「僕らは一旦帰るよ。おじい様も待ってるだろうから」


「そうか。ならこれも持ってけよ食いかけの残りだけど」


このままここにいたら、祖父までここに来てしまいそうだ。そうなったらまたややこしくなりかねない。ウラドが翼を生やして飛び立ち、それに続くようにミフネも背から翼を生やす。


すると直に呼び止められ、渡されたのはベンチで食べた駄菓子の入った袋である。食べかけと言いつつ、開いてない物が沢山入っていた。


ミフネは出会って間もないというのにお人好しな直に、またねと別れのハグをする。そして直にだけ聞こえるように、その耳元で囁いた。


もしも君がピンチになったり、お婆ちゃんの事が分かったら僕も手伝ってあげる。


直が何か言いた気に口を開くが、それよりも先にミフネは空に飛び立った。直からの小言はまた会った時に聞けばいい。


「…あの人間が気に入ったのか?」


そろそろ日暮れ。


夜の眷属が待ちに待った夜の訪れである。太陽に焼かれる痛みが引いていくのを感じながら、空を悠々と飛んでいれば珍しく父様が言葉を発した。


しかも自分に!


「はい、とっても!」


「…そうか」


嬉しさのあまりそのままのテンションで答えれば、ウラドはミフネから視線を逸らし前を向く。


しかしその横顔は少しだけ笑っているようにも見え、ミフネは久々に見た父の表情に泣きたくなるのを抑えその後ろに続く。帰ったら皆で駄菓子を食べましょうね!と口下手な父に声を掛けながらその背を追いかけた。



















元々は単なる気まぐれだった。


父と息子が気になると言うから来ただけだが、息子のこんなにはしゃいだ姿を見るのは何時ぶりか。ずっと失うのを恐れて城に閉じ込めていたが、これならばまた皆で来るのもやぶさかではない。


「帰ったら皆で駄菓子を食べましょうね!」


ウラドは「そうだな」と駄菓子を抱えはしゃぐミフネに言葉を返し、久しく緩む口元に戸惑った。


愛しい妻の産んだ卵だったミフネを奪われたあの日から。愛しい妻の戦う戦争に間に合わず、その美しいパールの鱗を血に濡らした妻を見てから。ウラドはずっと激しい憎悪にその身を焦がし続け、気がつけば神と竜と人の血で出来た海の中に1人佇んでいた。


竜の身でありながらその血を吸い、串刺し、鬼神が如き戦いから、それ以降ウラドは吸血鬼や串刺し公と呼ばれ仲間から恐れられられていた。


しかし、ウラドにとってその扱いは昔からの事である。竜の祖の1人である白銀の竜から産まれたにも関わらず、真っ黒な鱗に赤い瞳を持つウラドは忌み子として嫌われていた。とある人間と神を除いては。


残念ながらその者らは妻と同じくその戦いで命を落としてしまったので、ウラドの周りにはもう味方がほとんど居ない。


ウラドに対して日々強くなる当たりに、ウラドはただ耐えていたがある日気付いてしまった。このままここにいて、息子はどんな扱いを受けるかと。ウラドが吸血鬼として覚醒してから、息子もそれに感化されたかのようにウラドと似たような姿へと変えてきている。


それを他の仲間が見たらどう反応するかなど、分かりきっている。


産まれたばかりの息子は何も知らない。妻の顔もその妻の愛すらも知らずに産まれたこの子に、そんな辛い思いはさせたくない。だからウラドは人の姿で人の世に紛れた。竜の世界にいては、自分の血を引くこの子はきっと辛い思いをするから。


出ていくウラドに父は反対することはせず、ただ自分もケジメをつけると自らウラドと同じ夜の眷族となって人の世に堕ちた。当て付けか何かかとその頃は思っていたが、今思えばウラドを思っての行動だったのだろう。


しかしあの頃のウラドは知らない。だからこそ心の奥底で燻る憎悪を覆い隠し、いつでも息子を護れるよう冷静であろうとした結果、笑い方をいつの間にか忘れてしまった。


息子と一緒にいるのは幸せだ。話も聞くのは楽しいとも思っている。しかしピクリとも動かないのだ。まるで自分は笑う事が許されないとばかりに、ウラドの顔は動かない。妻も救えず息子にも逃亡生活を強いり、挙句に監禁生活。何処かの神かもしかしたら死んだ妻からの天罰なのかもしれない。それならば甘んじて受け入れようと、ウラドは血族以外には心を閉ざした。


その筈だった。


何処か懐かしい気配の少年と年頃の子のように喋る息子を見て、胸が温かなもので包まれ気付けば頬が緩んでいた。息子が自分の力を貸さずとも強くなり安心したからか、それともあの時のように純粋な好意をぶつけられたからかは分からない。


ただこの少しの変化が嬉しい。


愛しい我が子に笑顔を向けられないなど、受け入れたのはウラドだがそれでも地獄のように辛い日々だった。ミフネが父と交流し笑みを浮かべるようになったが、本来ならばそれもウラドが自分で教えたかった物だ。父によって人として竜として成長していく息子に、ウラドは何度歯がゆい思いをしたことか。


しかしこれからは違う。これがどのような変化をもたらすかは分からないが、それでもウラドは息子に今からでもウラドと愛しい妻の愛を教えたい。


きっと今頃、ドラクルは人と晩酌を始める頃であろうがそれをさせるつもりはない。この変化がまだ残っている内に、城に戻り昔のように輪をかいて話すのだ。


「…父上、帰ろう」


丁度晩酌をしようと縁側に出てきたドラクルに、ウラドは声をかけた。


久しく父上と呼ばれたドラクルは驚きの余り目を見開き、まるで魚のようにパクパクと口を開けては閉める。その様子を見ていた玄弥は「かかか!」と盛大に笑い、土産に持っていけと酒瓶をドラクルに渡す。


「悪いな玄弥」


「良いってことよ。親子水入らず、楽しんできなぁ」


「ありがとう玄弥さん湊さん!お邪魔しました!!」


こうして『竜の一族』はその日の内に城へと戻った。


出会った当初よりも情緒の激しくなった湊に、宿代として金貨を置いて。何故か気絶されたが、それに構っている暇はなかったので布団に寝させはした。これならば後から何も言われることはないだろう。


「父様!次っ、次はプンタンアメ食べましょう!!」


「…そうだな」


「プンタンアメとな?不思議な食べ物が多いのう日本は」


少し思考が逸れていた。ミフネの声で我に返ったウラドは、ミフネから渡された四角いそれを暫く眺めその包みを剥がそうとする。


ハンバーガーの時に包みを剥がしたからだ。ドラクルもウラドと同じように剥がすが、それを見たミフネがちっちっちっと指を振る。


「父様おじい様、これは凄いのです!このまま食べれるのですよ!」


そう言って包み事パクリと食べてしまった。美味しい!と頬を緩ませるミフネに、ウラドとドラクルも目を合わせ思い切って口に運ぶ。


無味の包装が溶けだし、中からは柔らかく優しい甘さを持つ不思議な触感の何か。確かに美味しい。ほんのりと爽やかな柑橘類の香りがし、妻も柑橘系の果物が好きだった事を思い出しあの頃の記憶に浸る。


「父様、もしかしてこれ好きなんですね!僕もこれ大好きです!!」


どうやら息子の好みも妻に似たらしい。


知らなかった。もしかしたら知ろうともしなかったのかもしれない。無意識に思い出さないようにしていたのかもしれない。でも今やっと知れた。そして思い出した。あの幸福だった日々を。


自分達には時間がある。まだ取り返せる筈だ。


「…あぁ。私も好きだ」


ウラドはミフネの言葉を肯定し、後で城の庭に自分達家族の好きな柑橘の木を植えようと決める。最初は実も成らず小さいかもしれないが、我々は永遠を生きる吸血鬼。


気付いた頃には実を成す程大きくなっている筈だから。






読んで下さりありがとうございます(*´▽`*)

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