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第9話 審神者学園へ

 そして数日経った今日。ついに俺は、審神者さにわ学園へと足を踏み入れた。


 ここが、俺の新しい生活の始まりの場所。そう思っただけで、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような、不思議な感覚に襲われる。期待と不安、興奮と緊張が、ぐるぐると入り混じっていた。


「はぁ……緊張するな」


 思わず、独り言のように小さく声が漏れた。新しい生活の始まりに対する不安と期待が入り混じって、胸の奥がそわそわと落ち着かない。


 そんな俺の様子を隣で見ていた咲弥さくやが、ふっと優しく笑みをこぼす。


「宵は、ほんとに心配性だな」


 その声はどこか茶化すようでいて、どこか自分自身を慰めるような響きもあった。ちらりと咲弥の顔をうかがうと、彼の表情もほんの少しだけこわばっている。口元こそ笑っていたが、その奥には緊張がにじんでいた。


 きっと俺も、同じような顔をしているんだろう。そう思った瞬間、なぜか肩の力が抜けた。なんだ、咲弥だって同じなんじゃないか。


 そう自覚すると、胸の内に張り詰めていたものがゆるんで、思わずくすりと笑ってしまった。


「……たぶん、お互いさまだな」


「かもな」


 咲弥も、それに応えるように少し照れくさそうに笑う。その笑顔は、あの試験のときとは違う、どこか素の彼を感じさせるものだった。


 不安は、まだ消えたわけじゃない。けれど、こうして隣に誰かがいてくれるだけで、不思議と心強く思える。


 昇降口を抜けると、目の前に広がったのはまるで大学のような広々としたエントランスホールだった。天井は高く、吹き抜けの構造が空間に開放感を与えている。壁一面のガラス窓からは柔らかな朝の光が差し込み、光と影が床に幾何学模様を描いていた。


「……すごいな、学園っていうけど大学だよな、これ」


 思わずそんな言葉が漏れた。隣の咲弥さくやが俺の言葉に気付き、小さく笑った。


「宵ってば、また顔がこわばってるぞ。緊張してるの、分かりやすいな」


「……そっちだって似たようなもんじゃないか?」


「うーん、どうだろうな? まあ、否定はしないけど」


 そう言って、咲弥は軽く肩をすくめる。けれどその指先は、いつもより少しだけ落ち着きなく制服の裾を弄っていた。やっぱり、咲弥だって緊張してるんだ――そう気づいたら、自然と肩の力が抜けた。


「えっと……俺たちの教室は、確か――」


 ポケットから入学案内の紙を取り出し、確認する。「一年A組」。場所は西棟の三階にあるらしい。


「西棟って、どっちだ?」


 周囲を見回すと、近くを歩いていた学生が目に入った。少し上の学年のようで、スマートな印象の男子生徒だ。思い切って声をかける。


「あの、すみません。西棟ってどちらか分かりますか?」


「ん? ああ、新入生? 西棟ならあそこの廊下を突き当たりまで行って、階段を上がればすぐだよ。三階に行けば、A組の札が出てるはず。案内表示もあるよ」


「あ、ありがとうございます!」


 頭を下げると、その学生は軽く手を振って去っていった。


「なに、妙に丁寧じゃないか。宵って、人見知りだったっけ?」


「いや、別に……初対面だと緊張するだけ」


「そういうのを人見知りって言うんだろ」


 からかうような口調に、俺は少しだけむっとする。が、それもまた咲弥なりの気遣いだと分かっていた。


 そして俺たちは、教えてもらった方向へと歩き出した。


 西棟へ向かう渡り廊下からは中庭が見渡せた。緑豊かで整備された庭園のような空間には、数人の生徒たちがのんびりと談笑している。


 西棟の三階。渡り廊下を渡りきった先の階段を上がり、目的の教室を探して進むと、すぐに目に入ってきた。


 ――『1-A』


 透明なガラスのプレートにその文字は刻まれていた。


「……ここが、俺たちの教室か」


 緊張と期待で、胸が再びぎゅっと締めつけられる。そんな俺の気配を察したのか、咲弥が横でふっと微笑んだ。


「行こうぜ、宵。俺たちの新しい日々が、ここから始まるんだろ?」


「ああ……そうだな」


 短く言葉を交わし、俺たちはそっと教室の扉に手をかける。


 ――扉の向こうに広がるのは、どんな仲間たちと、どんな日常だろうか。


 今はまだ、そのすべてが未知数で。でも、不思議と怖くはなかった。この場所で、俺は強くなる。そう決めたから。


 ■

 ここで第1章は終了です。次からの第2章もお楽しみに

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