第8話 校内放送と拍手喝采
実技試験から2日が経ったある日。いつものように学校に登校し、一限目の授業の準備をしていると、校内放送が鳴り響いた。呼び出されたのは、俺を含めた4人。行き先は――校長室。
(……俺、何かやらかしたか?)
不安を胸に、足を速めて校長室へ向かう。考えごとをしているうちに、いつの間にかその前に立っていた。意を決してドアを開ける。
中にいたのは、校長先生をはじめ、審神者学園の大黒柱・神宮寺 龍空。さらに、試験監督を務めていた数名の教員たちの姿もあった。
他の生徒の姿は見えない。どうやら俺が一番乗りのようだ。
全員の視線が一斉に俺に向けられる。思わず気圧されそうになるが、すぐに姿勢を正して一礼し、「失礼します」と挨拶。そのまま校長先生の前に立つ。
少しして、見知った顔――咲弥が続いて入ってくる。その後ろにいたのは、黄色い瞳が印象的な、凛とした雰囲気を持つ人物。艶のある銀髪がさらりと揺れ、背筋は常にまっすぐ。まるで一本の刀のように凛々しく、歩く姿は風を切るように滑らかで、どこか気品を漂わせていた。
次に入ってきた彼女は、ふわふわと柔らかな淡い桜色のウェーブヘアに、目にかからない斜めバング。瞳はラベンダーとミントグリーンの幻想的なオッドアイで、常に微笑んでいるかのような柔和な雰囲気を纏っていた。
彼女たちも校長室に入り、俺の隣に並ぶ。神宮寺は、そんな俺たち4人を見定めるような鋭い視線を送っていた。
全員が揃った瞬間、校長先生が手を叩いて口を開く。
「よく来てくれたな。早速だが、本題に入らせてもらうよ」
一拍置き、校長先生は改めて語った。
「単刀直入に言おう。君たちの審神者学園への入学が決定した」
その言葉は、俺にとってまさに衝撃だった。意味を理解するまで数秒かかったが、すぐに事の重大さに気づく。思わず目を見開き、校長先生に問い返した。
「それは……本当なんですか?」
俺の問いに、校長先生は静かに頷いて肯定の意を示す。そして神宮寺も重々しく言葉を添えた。
「私が保証しよう」
――審神者学園。
その名は、神の寵愛を受けし者なら誰もが知る、都でも屈指の神導学園だ。
入学資格に年齢制限はないが、ただ入学するだけでも審神者学園公認の「推薦状」が必要となる。推薦状の入手方法としては、先日受けた実技試験での優秀な成績、あるいは国が定期的に開催する大会で好成績を収めることなどがある。
そのことを思い出した瞬間、俺と同じように他の二人も言葉を失っていた。 凛とした佇まいの彼は、静かに俯き、何かを考え込むような様子を見せる。
そんな俺たちをよそに、校長先生は再び口を開いた――。
「君たち四人には、来週から審神者学園へ入学してもらう。もちろん、拒否することも可能だ。無理にとは言わないよ」
校長先生の言葉に、咲弥がすぐさま反応する。
「こんなチャンス、棒に振るような真似はしません」
きっぱりとした口調に、校長先生も満足そうに頷いた。
「そうか、そうか。それなら、よい学園生活を」
そう言って、一連の話はひとまず締めくくられた。
「……それでは、失礼します」
俺はそう言って校長室を後にする。だが、ドアを開けた瞬間、思わず足を止めた。
廊下には、校長から話を聞いていたのか――大勢の教員と生徒が集まっていたのだ。
「え……?」
思わず呟くと、生徒達から一斉に声があがった。
「「「おめでとう!」」」
想定外の言葉に、思わず声が詰まってしまう。生徒達はそんな俺に構うことなく次々と祝福の言葉を俺達4人にかけていく。そしてそれは次第に拍手喝采へと変わっていった。
「凄いな宵!」
「これからも頑張ってね!!」
「キャー// 叶多様~こっち見て~♡」
「咲弥もあっちで頑張れよ!」
「珠璃ちゃん応援してるよ~!」
そんな皆からの暖かい言葉に戸惑いつつも、俺は、俺達は感謝の意を込めて深々と一礼し、その場を後にしたのだった。
――その夜。俺は夕食後、リビングで両親を呼び出した。試験で起きた出来事、そして校長から直接言われた言葉。それを、隠すことなく全て伝えた。
両親は何も言わず、静かに耳を傾けていた。時折頷きながら、真剣に、まっすぐに俺の言葉を受け止めてくれていた。
話し終えたとき、少しだけ間を置いて父さんが口を開いた。
「そうか……なら、宵。お前はどうしたい?」
その声は、いつもと変わらない。穏やかで、どこか包み込むようなあたたかさがあった。その優しさに背中を押されるようにして、俺は自然と口を開いていた。
「……行きたいよ。俺、あの学園で強くなりたい。もっと、自分の力を……知りたい」
胸の奥にあった思いが、言葉になって溢れた。言い終えた俺を、父さんはふっと優しく笑って見つめる。母さんも、安堵したように微笑み、そっと俺の手に触れた。
「行ってきなさい、宵。自分が選んだ道を信じて」
母の言葉は、まるで祝福のようだった。俺は、はっきりと頷く。それが、家族への決意の返事だった。
次の瞬間、二人は同時に俺を抱きしめてくれた。父の腕はしっかりと、母の手はあたたかく。そのぬくもりに触れた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「どんな時でも――《《お前は俺たちの子供だ》》」
父のその言葉が、心に深く染みた。たとえ俺がどんな力を持とうとも、何者になろうとも、この場所だけは変わらない。
「……うん。ありがとう」
そう言って、俺は微笑んだ。両親もまた、同じように微笑んでくれた。
――こうして、俺の審神者学園への入学が、正式に決まったのだった。そして同時に、俺の《《運命》》も、ゆっくりと動き出していた。