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第6話 神之片鱗 闇御津羽

(これは……)


 俺は自身の胸に手を当てる。そして、それは言葉となり脳内を駆け巡った。


『神《かみ》片鱗へんりん くら御津羽みつは


 俺の脳裏に《《初めて聞いた言葉》》の筈なのに何故か懐かしいように感じる。遠い昔に聞いたような、あるいは自分の根源に刻まれていたような、そんな感覚が胸を締め付ける。それと同時に絶大な力の流れが、俺の意識と共に全身をみ込んだ。


 ほんの一瞬だけ、この世のものとは思えない、おぞましい程の闇がグラウンドを埋め尽くした気がした。まるで、この世の理から切り離されたような、凍りつくような静寂と悪寒が走る。


「なっ……!?」


 神宮寺のみが大きく目を見開き、ゾッとする闇を感じ取れた。周りにいた審判や生徒はその一瞬の闇に呑まれ、数秒だが意識を刈り取られる。


 刹那――俺は《《無意識》》に、何もない空間に向かって右手をスッと伸ばす。


(なんだ……これは……)


 咲弥が息を呑む。その瞳に、警戒と、わずかなおびえが宿っていた。


 次の瞬間、虚空から凄まじいまでの圧を持つ禍々しい短剣が姿を現した。それは、まるで闇を具現化したような漆黒で、の部分は闇を彷彿ほうふつさせるような紫紺のかすみが揺らめき、ほのかに灯っていた。


 その短剣は、俺の右手に握られるなり、俺の細胞を絡めとるように腕を蝕んでいく。やがてその侵食は顔にまで及ぶ。


 俺は、ただ《《無意識》》に短剣の切っ先を咲弥に向けていた。


 咲弥はすぐさま俺から距離をとるべく後ろへ下がる。しかし、俺はそれを許さなかった。気づけば俺は瞬時に距離を詰めて咲弥の目の前に立っていた。


(なっ……速ッ!)


 その声すら出る暇もなく、短剣が咲弥の胸元へと放たれる。


 咲弥は咄嗟とっさの判断で双剣を使い防ごうとするも間に合わない、と思われた瞬間だった……。


 咲弥の胸元まで迫っていた短剣が突如として目の前に現れた刀により威力を消され、ピタリと止まった。


「――試験はここで終了だ」


 静かながらも絶対的な威厳を持つ声が響く。その声の主は、今まで沈黙を貫き通してきた審神者さにわ学園の大黒柱、神宮寺 龍空りくのものだった。


 彼はよいが放った一撃を誰の目にも止まらぬ速さで刀を構え、咲弥の胸元寸前で止めたのだ。しかも神《かみ》片鱗へんりんではない、ただの刀で。


「っ……はぁ……」


 その瞬間、俺の意識がようやく自我を取り戻す。


(俺は……何を……)


 握っていた短剣がきりのように溶けて消える。同時に、身体を蝕んでいた闇も霧散し、俺はその場に崩れ落ちた。


「はぁッ……はぁッ」


 肩で息をしながら、地に手をつく。全身からは滝のような汗が流れ、体中が重い。咲弥も同じく神《かみ》片鱗へんりんを解除し、その場にへたり込んだ。


 神宮寺は2人を見下ろしながら、静かに口を開く。


「2人ともご苦労だった、これで実技試験の全てが終了した。結果は後日発表する、今日はゆっくり休んでくれ」


 その声は穏やかで、どこか安心させる響きを持っていた。それに呼応するように、異様な闇に呑まれ、寸刻の間意識を失い周囲で倒れていた者たちも次第に意識を取り戻し、ざわめきが広がっていく。


 そして、かみ片鱗へんりんによるプレッシャーにより怪我を負った者には周りにいた直ぐに回復魔法がほどこされる。


 俺はしばらくそのまま動かずに荒い呼吸を何度もしていた。


「大丈夫か?宵」


 咲弥が気遣うように声をかけてくれた。俺は小さく頷きその手を取り立ち上がる。


 立ち上がると、咲弥が柔らかく微笑んだ。その笑顔に、俺も思わず力が抜けるように笑顔がこぼれる。そして俺達は互いに健闘を称え合うかのように、グッと強く手を握りあったのだった。

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