第36話 大阪へ
大阪行きを決めた宵たち十三名は、学園の交通手配班によって整えられた特別機に揺られながら、窓の外に広がる街並みを静かに見つめていた。街は朝の光に包まれ、淡い風が窓ガラスを揺らす。だが彼らの心は、外界の穏やかさとは対照的に張り詰めていた。
咲弥は双剣を軽く握りながら隣に座る宵に向かって小さく笑った。
「……こうして一緒に行くのって、なんか久しぶりだな」
親友らしい気安さが混じる口調の裏に、戦闘後の緊張と責任感がにじんでいた。宵は黙ってうなずく。口数は少ないが、彼の目には決意が宿っていた。
叶多は窓の外を見据えながら言った。
「学園での戦いだけでは、怨骸の背後を突き止めることはできない。僕たちは次の手を打たねばならない」
雷の導を操る彼の目は、冷静さと鋭さを併せ持ち、常に先を見据えている。
珠璃は小さく肩をすくめ、宵に視線を向けた。
「私も治癒は役立てるように頑張るよ」
その声はか細いが、心の中には確かな覚悟が燃えていた。
十三名の中には、学園での修練や演習で見知った仲間たちもいる。互いに顔を見合わせるたび、無言のうちに決意を確認し合う。言葉以上に、共に戦ってきた時間が彼らの信頼の糸を紡いでいた。
***
セリエ先生から渡された資料には、関西地域での目撃情報が記されていた。道頓堀の川沿いに現れたという、長身で黒いスーツに身を包んだ赤褐色の瞳を持つ男。
宵は資料を手に取り、しばし言葉を失う。目撃情報だけでも、学園外の世界がどれだけ危険であるかが伝わってきた。だがその重圧の中で、仲間たちの存在が、彼の心を支えていた。
機内では、会話よりも思考が先を占めた。十三名は各々、自分に与えられた役割を反芻する。咲弥は水の導を操りながら防衛を想定し、宵は闇の導で影を潜ませ、叶多は雷の導を攻撃手段にする。珠璃は仲間の治癒役として、戦闘中の最悪の事態を想定して心を整えていた。
大阪に降り立つと、街は活気に満ちていた。しかし人々の笑顔や商店の喧騒は、十三名にとって異様な静寂と同義であった。戦闘の記憶が、街の喧騒を遠ざけ、目の前の現実に緊張の霧をかけていた。
セリエ先生の言葉が思い出される。
「今回、学園外の行動は非常に危険です。ですが、これを避けて通ることはできません。皆さんが目にするもの、感じるものが、今後の学園と世界の安全に直結します」
十三名はそれぞれ深く息を吸い込み、再び決意を胸に刻む。未知の正の影が、この大阪の街に確かに存在する。だが、彼らは逃げず、戦う覚悟を持っていた。
大阪班が移動した先は道頓堀川沿い。教授たちの情報では、ここで数日前に正らしき人物が目撃されている。赤褐色の瞳を持つ男は、表立っては何も行動せず、通行人に気付かれることもなく、ただ街の雑踏に紛れていた。その異様な存在感は、過去の怨骸の行動と関連しているのではないかと、宵たちは感じ取る。
宵は小さく拳を握った。
「……怨骸を仕向けたのは、あいつらの誰か……か」
咲弥が双剣を軽く振り、笑みを浮かべる。
「まあ、誰がどう仕向けたかは置いといて、俺たちは俺たちのやるべきことをやるだけだ」
叶多も黙って頷き、視線を川沿いに広げた。
「そうだね。行動は慎重に、でも確実に」
十三名は、互いの決意を胸に、道頓堀の雑踏へと歩を進めた。街の喧騒が、未知の敵の影を隠す。彼らはまだ、何が待ち受けているかを知らない。だが、覚悟だけは揺るがない。
***
宵たちが歩む街の背後では、フランス班の消息も動き始めていた。凱旋門付近に現れる白髪の青年の存在が、無言の圧力となって世界の暗部に影を落としていた。学園外の戦線は、すでに静かに、しかし確実に緊迫を増していく。
十三名――宵、咲弥、叶多、珠璃と大阪班の仲間たちは、未知の敵を前にして覚悟を決め、静かに、大阪の街に溶け込んでいった。




