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崩壊の導〜崩れゆく世界と救済者〜  作者: 朧月
第2章 学園編
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第34話 分かたれる道

 セリエ先生の言葉が講堂に落ちたとき、空気は凍りついた。


 海外のフランス。あるいは、国内の大阪。


 選択肢は二つしかない。だが、それはただの地理的な分岐ではなかった。彼らが向かう先に待ち受けているのは、テーゼの影。生きて帰れる保証は、誰にもない。


 宵は胸の奥に鈍い重みを感じながら、仲間の顔を見やった。咲弥は苦い笑みを浮かべ、叶多は眉間に深いしわを刻んで黙り込んでいる。珠璃は不安を隠すように唇を噛みしめていた。


 最初に沈黙を破ったのは、叶多だった。


「……僕は大阪にするよ」


 少しばかり高い声が講堂に響く。白蓮家の後継者としての立場と責務が、その選択を迷わせることはなかった。真っ直ぐな眼差しに、覚悟の色が宿っていた。


「じゃ、俺も」


 咲弥がすぐに言葉を重ねた。


「わ、私も……行きます」


 珠璃は胸の前で手を組み、小さな声でそう告げた。怯えは隠しようもないが、それでも逃げようとしない瞳の奥には治癒者としての使命感が確かに燃えていた。


 宵は三人の背中を見つめ、静かにうなずいた。


「なら、俺も」


 こうして宵、咲弥、叶多、珠璃に加え、さらに九人の生徒が大阪行きを選んだ。合計十三名。


 一方で十人はフランスを選び、残りは学園に残る道を取った。それぞれの決断が交差し、この場で未来が大きく分岐していく。


 ***


 セリエ先生は再び口を開き、教授たちが掴んだ情報を伝えた。


 フランス――凱旋門付近に佇む白髪の男。二十代後半ほどの姿で、彫像のように整った顔立ち。数日間同じ場所に現れては、ただそこに居るだけ。その存在感は異様で、現地調査をしていた教授たちを凍りつかせるほどだった。旅人として片づけるには不自然すぎるその行動は、教授たちをして「テーゼに関係がある可能性が高い」と疑わせた。


 大阪――道頓堀の川辺に佇む長身の男。黒いスーツをまとい、赤く光る瞳を持つ。目撃した者は皆《《記憶が曖昧になる》》と語り、精神に干渉された可能性が高いと見られている。その不気味な現れ方は、まさにテーゼらしい暗躍を思わせた。


「……これまで彼らは決して表舞台に姿を現しませんでした。怨骸えんがいが表立って攻め入ってきた今回の件は、あまりに異常です。何かに、あるいは誰かに仕向けられたのかもしれません」


 セリエ先生の声は終始穏やかで、優しさに満ちていた。だがその一言一言は鋭い刃のように生徒たちの心に突き刺さる。


怨骸えんがいがなぜあそこまで露骨に学園を狙ったのか。テーゼは長らく影に潜み、目撃情報すら断片的にしか残さない存在だった。それがわざわざ強大な兵を率い、学園を襲撃した理由は謎に包まれたままだ。


 ***


「……仕向けられた、ね」


 叶多が低く呟く。その声音には、白蓮家の後継者としての責任感が滲んでいた。


「何にせよ、確かめるしかないんじゃね」


 咲弥は双剣の柄を叩きながら、明るさを装った笑みを浮かべる。その背中は軽やかに見えながら、誰よりも覚悟を秘めていた。


「私も役に立てるよう頑張る」


 珠璃はそう告げる。


 宵は三人の横顔を見やり、胸の奥で静かに息を吸った。恐怖も不安も消えはしない。けれど、共に歩む仲間がいる。その事実だけが宵を支えていた。


 こうして、三つに分かたれた道は動き始めた。それぞれの未来がどのような結末を迎えるのか、まだ誰も、知るはずがなかった。

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