第33話 崩壊の残響
数日間にわたる復興作業は、ようやく一区切りを迎えていた。
折れた柱は新たな木材で組み直され、壁の亀裂は補修材で埋められている。それでも、あの日の戦闘がもたらした爪痕は、学園のあちこちに生々しく残っていた。焦げた匂いはまだ空気に漂い、ひび割れた石床を踏むたびに、靴底から戦いの余韻が伝わってくる。
そんな中、全校の生徒が講堂へと集められた。高い天井の下には、ざわざわとした声と、重たい予感が入り混じった空気が漂っている。
壇上に立つセリエ先生は、いつもの柔らかい笑みを封じ、背筋をまっすぐに伸ばしていた。
その瞳には、何かを告げる覚悟と重みが宿っている。
「――今回の件、皆さんも分かっている通り、学園は正の一員・怨骸による襲撃を受けました」
その名が告げられると、空気が一段と張り詰める。前列に座る一年生の数人は、思わず背を強張らせた。
怨骸。あの黒衣の男の冷たい瞳を忘れられる者はいない。
「しかし……何の理由でここを狙ったのか。私達には未だに分からない」
セリエ先生は短く息を吸い、言葉を選ぶようにして続ける。
「ただし――長年にわたる教授たちの調査によって、《《国外》》に正が潜んでいる可能性が極めて高いことが判明しました」
その瞬間、ざわめきが広がった。国外。それはこの国の人間にとって、今や遠い、そして恐ろしい響きを持つ言葉だ。
「国外……といっても、今は《《亡き》》地ですが」
先生の声は淡々としていたが、その意味を知らぬ者はいなかった。ざわつきは一層深まり、何人かは息を呑む音を立てた。
「二十年前の――崩壊の零 事変」
壇上の空気が一段と重くなる。
「あの日を境に、日本以外の地にいた全ての人間は、理由もなく、一瞬で消え去った。街は人影を失い、国はそのまま廃れ、文明は途絶えた……」
それはすでに周知の事実。虚構ではなく、世界の傷跡そのものだった。
「その原因はいまだ解明されていません。ですが、その空白の地に、正が根を張っている可能性がある」
セリエ先生の視線が鋭くなる。
「そして、もう一つ。国内にも拠点があることが分かりました。関西圏――中心は大阪です」
名を聞いただけで、何人かの生徒の眉が僅かに動く。関西は比較的安全とされてきた地だ。その奥に、敵が潜むとなれば油断は許されない。
「よって、あなたたちには二つの班に分かれてもらいます」
途端に、ざわつきが爆ぜるように広がった。
「一つは国外、最も怪しいフランスへ向かう班。もう一つは国内、大阪へ向かう班です」
最前列にいた宵は、咲弥の袖が小さく引かれるのを感じた。
「……いきなりすぎじゃないか?」咲弥が小声で呟く。
叶多も腕を組み、わずかに眉間を寄せた。
「入学して一年も経たない僕たちを、か」
セリエ先生は、そんな反応を想定していたように、視線をまっすぐ彼らに向けた。
「確かにあなたたちはまだ若い。だけど、今回の襲撃を退けられたのは、あなたたちの力があったからこそ。選ばれる理由はそこにあります」
その言葉は柔らかくも、拒絶を許さぬ重さを帯びていた。
生徒たちは互いに視線を交わし合う。迷いと不安、そしてほんのわずかな決意の色が混じり合っていた。




