第32話 復興
灰色の空に、まだ戦いの名残が漂っていた。焦げた木材の匂い、崩れた瓦礫の粉塵、あちこちで響く修復の掛け声。これらすべてが、あの激闘が夢ではなかったことを物語っている。
セリエ先生は、傷ついた講堂跡に集まった生徒たちを見渡し、落ち着いた声で告げた。
「皆、無事で何よりです。……でも、学園はまだ息を吹き返してはいません。修復も治癒も、私たちの手で進める必要があります。どうか、力を貸してください」
その言葉に、誰も異を唱える者はいなかった。
戦えなかった者も、戦った者もここが自分たちの居場所であることに変わりはない。
宵は瓦礫を踏みしめながら、咲弥と叶多のもとへ向かう。
「宵、こっち手伝って!」
咲弥が片手に双剣を収め、水の導で崩れかけた壁を固めていた。水は石灰と混ざり、白く輝きながら形を成していく。
「はいはい……器用なもんだな」
宵は苦笑しつつ、咲弥のもとに向かう。
一方、叶多は黙々と帯刀の柄に手を置き、雷の導を緻密に操って破損した照明系統を修復していた。
稲光のような線が走り、消えていた明かりが一つ、また一つと灯っていく。
「ふぅ……これで夜の作業も続けられるかな」
低く、しかし確かな声。白蓮家の正統後継者としての気品が、何気ない仕草にもにじむ。
周囲では、治癒系の導を持つ生徒たちが負傷者を次々と癒していた。光の揺らめきと安堵の吐息が交錯し、ここが戦場だったとは信じがたいほどの温もりが広がっていく。
宵は立ち止まり、ふと空を仰いだ。まだ修復は始まったばかりだ。だが、この光景を見ればわかる。ここは、たとえどんな影に覆われようとも、何度でも立ち上がる。
咲弥が笑い、叶多が静かに頷く。その二人と共にいる限り、自分もまた、その灯の一部になれると信じられた。
作業は淡々と、しかし確実に進んでいた。崩れた校舎の壁には足場が組まれ、生徒たちが互いの導を活かしながら手を動かす。笑い声もあれば、疲れ切ったため息も混じる。だが、そこに漂う空気は絶望ではなく、再生の気配だった。
「宵、この梁、もうちょい引っ張れるか?」
咲弥が額の汗をぬぐい、顎で指し示す。
「ああ、任せろ」
宵は闇の導で梁を腕のように包み、ゆっくりと持ち上げた。黒影教授に教わった技術だ。その間に咲弥が水で濡らした板を押し込み、形を整える。
「……君たち、息ぴったりだね」
叶多が横から呟き、照明の配線をさらに奥へと伸ばしていく。
「そりゃ、付き合い長いからな」
咲弥が笑い、宵もつられて口元を緩めた。




