第31話 探れ
学園長室の大窓から、夜の街灯がわずかに差し込み、机上の地図を淡く照らしていた。重厚な扉が閉じられ、外界の音は完全に遮断される。
時雨零は背もたれから体を起こし、机越しに二人を見やった。
神宮寺龍空は姿勢を正し、兄の龍星は相変わらず腕を組み、沈黙の中に立つ。部屋に漂うのは、安堵と緊張の入り混じった空気だった。
「……まずは報告を聞こうか」
零の声は穏やかだが、瞳の奥には鋭い光が宿っている。
龍空は短く頷き、言葉を選ばず、事実だけを淡々と告げた。
「ホールでの交戦は、黒影教授と連携して行いました。怨骸は連続攻撃で行動を封じ、黒影教授の援護射撃で致命傷を与えた後、拘束。生徒への被害は軽傷が数名、重傷者も数名。建物の被害は中規模。怨骸は自身が正であることを告白……以上です」
簡潔でありながら、情景が浮かぶ報告だった。
龍星は静かに頷き、零は数秒の沈黙ののち、机の上の地図に視線を落とす。
「……怨骸は無言を貫いている。だが、背後に正がいることは分かっている」
声の調子がわずかに低くなる。
「このまま手をこまねいていては、再び同じ手が仕掛けられるだろう」
龍空が口を開きかけたが、零が先に言葉を継いだ。
「教授たちに命じる。正の本拠地を探れ。足取りを掴めれば、こちらから動く」
その瞳は、もはや先ほどまでの柔らかさを失い、研ぎ澄まされた刃のようだった。龍星でさえ、視線を逸らさずともその圧を感じ取っているのが分かる。
龍空は深く頷き、短く答えた。
「了解しました。教授陣にはすぐに連絡を」
零は椅子から立ち上がり、窓の外に目をやった。
夜の帳は、学園の上に静かに降りている。だが、その奥に潜む影は確かに存在する。そう告げるような夜だった。
「――必ず見つける」
その一言が、部屋に鋭く響き渡った。




