第28話 闘いの果て
怨骸が膝をつくと同時に、荒れ果てた演習ホールに静寂が広がった。
粉塵がゆっくりと降り、割れた床石の隙間からは闘いの余熱が漂っている。焼け焦げた匂いが鼻を突き、遠くで崩れた壁が小さく軋んだ。
龍空は無言で片腕を振る。龍の幻影が消え、同時に怨骸の体を包んでいた鎖の断片が黒い残滓となって散った。
怨骸は立ち上がれない。胸部には黒影の一撃が深く刻み込まれ、全身は龍空の炎神龍により骨の奥まで響く衝撃が全身を蝕んでいる。だが、その瞳は最後まで濁らず、ただ無言で二人を見上げていた。
「……抵抗する気は、もうないかな」
龍空が低く呟き、懐から黒鉄の封鎖具を取り出す。導封じの枷だ。
それを怨骸の両手首に嵌めると、わずかに響いていた骸の気配が、まるで炎が水に沈むように消えていった。
黒影教授は一度深く息をつき、生徒たちの方へ振り返る。
彼らはまだ距離をとって見守っていたが、戦闘の余波で倒れている者、浅い怪我を負った者も少なくない。
教授はすぐに駆け寄り、倒れ伏す生徒たちを一人ずつ確認していく。
闇の導で生み出した薄い闇を周囲に巡らせ、再び襲撃がないかを探る。
「……よし、生きているな。動くな、そのままだ」
低く、しかし落ち着いた声で言い残し、周囲を警戒しながら他の生徒たちの元へと歩を進める。
治療はできない。それでも、銃を握る手は休めず、生徒たちの周囲を守っていた。
一方、龍空は怨骸を立たせる。抵抗の素振りもなく、ただ引かれるままに歩き出す。
無数の視線が彼の背に突き刺さるが、怨骸は一言も発さない。その口は固く閉ざされ、瞳だけが遠くを見据えていた。
演習ホールを出ると、廊下には学園地下の監視隊が待機していた。
龍空は短く指示を出す。
「地下に拘束する。学園長と兄上が戻るまで、誰一人近づけるな」
監視隊長が深く頷く。
地下牢は学園の奥、幾重もの結界と鋼鉄の扉で守られた場所だ。怨骸はそこへ連行され、厚い扉の向こうに消えていく。最後まで振り返ることはなかった。
治療班からの治療を終えた宵たちは、瓦礫の山を見つめながら息を整えていた。
戦いは終わった。だが胸の奥に残る緊張と疑問は、まだ解けそうになかった。




