第27話 共闘
黒骨で組み上げられた巨竜が、闇の中で幾度も咆哮を響かせる。生徒たちは必死に爪による攻撃を避け、導を駆使して応戦していた。宵もまた、闇を刃に凝らして竜の頭部を狙い、咲弥と叶多、珠璃と連携を取って押し返す。
――だが、それは視界の端に映る、もう一つの戦いの迫力に比べれば、嵐の一雫に過ぎなかった。
学園の演習ホール中央。黒いローブを纏った怨骸が、鎖剣を振り抜いた。
その瞬間、鉄の唸りが空間を切り裂き、数十メートル先まで床石をえぐり飛ばす。鎖の一つひとつから骸の怨嗟が溢れ出し、刃と化した無数の節が蛇のようにうねり、四方八方へ殺意をばら撒く。
しかし、その暴風の只中に立つ男は、微動だにしなかった。
神宮寺龍空――学園の大黒柱、龍の導を継ぐ者。
その双眸は怨骸を射抜き、呼吸は深く、しかし獰猛な獣のように研ぎ澄まされている。
「……遅れたかと思ったけど、まだ間に合ったかな」
その声と共に、龍空は地を蹴った。爆ぜた床石が粉塵となって舞い上がる。
「水神龍ッ」
刹那、彼の周囲に龍の形に似た複数の水の槍が出来る。そしてそれを怨骸のもとへやる。
怨骸は笑みとも嘲りともつかぬ口元を歪め、鎖剣を再び大きく振るう。
「我が鎖を喰らうといい――」
千の鞭が一斉に叩きつけられるかの如く、周囲全域が死地と化す。
だが、龍空は退かない。一歩、また一歩と前へ進み、その足跡の周囲では、鎖が砕け、吹き飛び、地に落ちていく。
目にも止まらぬ龍の連撃が鎖剣の軌道を断ち切り、その衝撃波だけで背後の瓦礫が粉砕された。
「黒影さん、左から行く!」
「了解――!」
黒影教授の銃声が重なった。片手で構えられた銃口から、雷光のような弾が放たれ、怨骸の死角へ撃ち込まれる。
その弾丸は鎖の節目を狙い、命中した箇所を一瞬で崩壊させた。鎖剣の長さが削られ、怨骸の可動域が狭まる。
龍空はその隙を逃さなかった。右手を前方に向け、龍の奔流を解き放つ。
「龍々神・破滅ッ」
蒼白の龍が空を割くような突進と共に怨骸の胸へ直撃する。
轟音。
怨骸の身体が弾き飛ばされ、背後の石壁を粉々に砕いてめり込む。
――だが、その影が、崩れた瓦礫の向こうから再び立ち上がった。ローブは裂け、男の双眸が、より深い憎悪と愉悦で燃えている。
「クックック……素晴らしい力だ!」
怨骸は一歩、また一歩と歩み出る。
黒影教授が背後から援護射撃を続ける中、龍空は一気に間合いを詰める。怨骸もそれ応じ、鎖剣を渦のように回し、嵐の壁を築き上げた。
導の衝突が轟音となってホールを満たし、瓦礫と閃光が乱舞する。
龍空の龍が鎖を打ち砕き、怨骸の防御を穿つ。
怨骸の背後で、骸骨兵が次々と崩れ落ちる。それでも怨骸は両腕を広げ、鎖剣を二本同時に振るう。軌跡が黒い弧を描き、空間そのものを裂くかのように唸った。
「──遅い」
龍空の声とともに、漆黒の龍が顎を開く。鎖剣が触れる刹那、龍の輪郭が揺らぎ、まるで幻のようにすり抜けた。代わりに背後から顎が食い込む。
金属が悲鳴を上げ、怨骸の片腕が根元から吹き飛んだ。
「ぐ……! まだだッ!」
怨骸は鎖剣を残る腕で振り上げ、空気を裂きながら突進する。だが、その突進の正面に龍空が立っていた。
「終わりにしよう……炎神龍」
龍空の掌が静かに構えられた瞬間、背後の龍が怨骸を包囲して一斉に襲いかかり、鎖剣を打ち砕き、怨骸を焼き尽くす。
「ぐああああああッ!」
怨骸は苦痛の中で骸の兵を狂ったように出すが、その全てを龍空の龍が呑み込み、跡形もなく消す。
最後に黒影教授の銃弾が怨骸の胸を撃ち抜いた。轟音と共に、骸の導により創られた兵士たちは霧散し、怨骸の体が地面に叩きつけられる。
龍空はその傍らに立ち、冷たい瞳で息が絶え絶えの怨骸を見下ろす。
「話を聞かせてもらうぞ。正の一員、怨骸」
怨骸は血を吐きながら、呻き声を漏らす。しかし、その眼にはわずかな狂気と憎悪の火がまだ残っていた。




