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崩壊の導〜崩れゆく世界と救済者〜  作者: 朧月
第2章 学園編
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第23話 侵入者、骸の咆哮

 二ヶ月。


 それは、戦いにおいて人を変えるには十分な時間だった。


 幾度となく繰り返された演習で、俺たちは導の扱いに手応えを掴みつつあった。咲弥の雷は正確無比に対象を貫き、叶多の剣技は剣士並みに、珠璃の治癒力は学園トップレベルになるなど。


 俺自身もまた、黒影教授との個人演習の中で影化かげかを会得し、さらには神之片鱗 後の技変化もだいたい理解した。だがこの力は、俺にとってはまだまだ未知の領域だ。


 けれど、そんな穏やかな日常はある朝、あまりに唐突に終わりを告げた。


 ***


 始まりは、小さな違和感だった。


「……校庭、なんかおかしくない?」


 演習場へと向かう途中、珠璃が小さくつぶやいた。いつもより張り詰めた空気、重く、湿った風。


 そして、それは次の瞬間に明確な異常へと変わる。


 ――ドォォォォン!


 学園の南門の方角で、大地が爆ぜるような轟音が響き渡った。


「な、なんだ……!?」


「敵襲か!?」


 生徒たちのざわめきが一斉に巻き起こる中、警報が学園中に鳴り響いた。


 真紅の光が空に瞬き、次の指令が下される。


「――警戒態勢!校舎南方、第二演習場付近に強制侵入者!戦闘態勢に入れ!」


 俺は、すぐに珠璃、叶多、咲弥と合流し、演習ホールへと向かった。


 その場には、既に何かがいた。


 全身を黒のローブで覆い、身体の周囲には漂うように黒骨の兵士を従えている男。


「なんだ……あれ……」


「あいつの……召喚?」


 誰もがそう思ったその刹那、骸の中心にいる男が鎖の剣を振るった。


 ゴォッという唸りとともに、鋼鉄の鎖が蛇のようにうねり、生徒の一団を薙ぎ払った。


 衝撃。うめき。飛び散る血。


「ッ!」


 咄嗟に地に伏せてその攻撃をすり抜けた俺は、身体を立て直す暇もなく第二撃をかわした。叶多の雷が男へと飛ぶが、黒骨の兵士が盾となって貫かせない。


「無限に……湧いてる?」


 叶多の言葉に、俺たちは戦慄せんりつした。


 その通りだった。奴は、自身の精神力が続く限り、黒骨の兵士を生み出せるようだ。


 人型。四つ足。翼を持つ竜骨まで。その姿かたちは関係ない。死を模した軍勢が、次々に現れる。


「――退け、お前ら。危険だ」


 黒影くろえ教授が現れ、片手の銃を抜いた。間髪入れずに幾つもの射撃が黒骨を貫くが、破壊した端から新たな骸骨が地面から這い出てくる。


「きりがない……!」


「このままじゃ、時間の問題だ……!」


 そして、誰かが呟く。


「……あれは、テーゼの者なのか?」


 誰かの呟きが、静かに空気を変える。


 テーゼ。世界を歪める思想を持ち、秩序を壊すとされる集団。その実体は不明。ただ、現れれば必ず混乱を招く。


「断定はできないが……可能性はあるな」


 黒影教授の言葉に、生徒たちの表情が緊張に引きつる。


 そのとき、骸骨の兵士たちの中心にいる男が、ゆっくりとこちらを向いた。


「……ほう。貴様らが《《あの方》》に目のつけられた……」


 まるで軽んじるような声音。奴の顔はフードに隠れて見えない。だがその奥から感じる殺気だけは、尋常じゃなかった。


 この男、殺る気だ。生徒だけではない。教授すら、含めて。


「ハァァァァァッ!」


 叶多が刀を手に構え、黒骨兵の列に突撃する。だが、その進路を遮るように骨の槍が何本も地から突き出す。


「くっ……!」


 それでも彼は止まらない。


 咲弥が水の弾を放ち、珠璃が治癒係としてでサポートする。俺も腰に下げていた剣を持ち、黒影教授と連携して突入した。


 だが――


「――足りぬ」


 男がそう呟いた瞬間、地面が割れた。


 そこから這い出てきたのは、人の身の丈をゆうに超える、骨の竜。


「……嘘だろ」


「でか……!」


「近接じゃ無理だぞ、あれ!」


 ざわめく生徒たちに、黒影教授が叫ぶ。


「全員、散開して死角から狙え!集中を切らすな!怯えた者は即時退避しろ!」


 咄嗟の指示が飛ぶが、敵は圧倒的だった。


 空を裂く咆哮。竜の骨格が光を反射し、口からは瘴気混じりの黒炎が吐き出される。


 複数の生徒が吹き飛び、地面を転がる。


「くそっ……!」


 俺は何度も攻撃をかわすが、そのたびに体力が奪われていく。


 骸の男は、動かない。まるで戦場の中央で、遊んでいるかのように。


「美しいな……。恐怖に塗れた命ほど、魂の味は濃い」


 その言葉に、俺の背中が凍る。


 この男は、心の底からそれを愉しんでいる。狂気そのものだ。


「……ッ」


 今日は運が良く曇りで、日光が遮られていた。俺は、虚空から闇御津羽くらみつはを引き抜く。


 短剣の柄に揺らめく紫紺の霞が、俺の怒りに共鳴するかのように明滅した。


「宵! やるのか!」


「あぁ…俺も行く」


 俺は男の方へ一歩踏み出した。

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