第22話 神々の階級
演習を終えたあと、宵は黒影教授と二人きりで残っていた。
詼破。
宵の中で、先ほどの技の余韻がまだ冷め切っていなかった。あの技は確かに自分が放ったものでありながら、まるで別の何かに支配されていたような錯覚を覚える。それほどまでに、強すぎた。
「宵、お前は闇という導を甘く見すぎているな」
突然、黒影教授が呟いた。
「……甘く?」
「そうだ。闇は深淵だ。そして、その深淵の向こうには、神の力がある。先ほどの神之片鱗……あれが示していただろう?」
教授の言葉に、宵はゆっくりと頷いた。
闇御津羽――それは自分が持つ神之片鱗。解放されたその瞬間、自分の意志とは別に力が動き出した感覚があった。
「黒影教授……神之片鱗は……神の力の一部ですよね?」
「そうだ」
黒影は顎に手を当て、しばし逡巡したあとに語り始めた。
「お前達にはまだ教えられていないようだが……神々には《《階級》》というものが存在する。上位存在と下位存在……力の位階とも言えるものだな」
「階級……ですか」
「最上位は天帝」
その言葉を聞いた瞬間、宵の眉がぴくりと動いた。まるで自分の名を呼ばれたかのような錯覚。いや、事実、漢字は同じ――天帝 宵。
「偶然だろうが……お前の苗字と同じだな。天帝と書いて、あまかどとは。面白い」
黒影教授はくっと笑いながら続ける。
「次に位置するのは、三柱と呼ばれる存在達。龍、光、そして闇だな」
「龍と、光と、闇が同列……?」
「そうだ。この三つはそれぞれ別の法則と秩序を持ち、完全に相容れないが、力の階層としては等しい。つまり、同格の神だ」
「じゃあ、他の神々は?」
「それらの神々はその下に位置する。雷や水、火、風など、いわゆる自然属性を司る神々は全てその次の位階だ。だが、誤解するな。力の差があるとはいえ、人間から見ればどれも異常なまでに強大な存在に変わりはない」
宵は、再び自分の内に宿る力の重圧を思い出していた。あのときの詼破は、刃に触れた生き物の肉体を、容赦なく闇へと変換した。あれは技などではない。まるで神が下した裁きのようだった。
「……何故、闇の導に選ばれたんでしょう」
「それは、俺にも分からん」
黒影はそれだけを言って、煙草を灰皿に投げ捨てた。
「だがな宵、お前は気づき始めているはずだ。闇とは、ただの属性ではない。光を拒絶するものでも、悪を象徴するものでもない。もっと……根源的な、何かだ」
「根源的な……?」
「例えば、始まりや終わり、あるいは……存在の証明」
それは、簡単には理解できない言葉だった。けれど、宵の内にある闇は、その言葉に確かに反応した。
「《《お前には時間がある》》。だが……覚えておけ。神の階級はただの知識じゃない。それは力の本質に直結する。導を使う者にとって、それを知らぬまま進むのは、片目を塞いで戦場に立つようなものだ」
そう言って、黒影教授は踵を返した。
その背中を見送る中で、宵は心の奥底にある小さな疑問に触れていた。
俺の苗字は本当に偶然なのか…?
この闇は導として授かる力を越えていないか?
その答えが、世界の根底に関わるものであることを、この時の宵もこの世界の人々もまだ知らなかった。




