第21話 詼破
静まり返った演習ホール。宵の周囲には、今日も夜が降りていた。
「よし、準備はいいな? 今日は次の段階に進む」
黒影教授の声が響く。演習用の銃を片手に持ちながら、彼はゆっくりと宵へと歩を進めた。
「闇の導、それだけでも充分に異質だ。だが──」
彼は銃を掲げる。その瞬間、空間が震えた。
銃身を中心に、禍々しくも荘厳な黒金の文様が広がり、銃そのものが異形へと変貌する。
「神之片鱗─皆中稲荷」
宵がその名を聞いた直後、教授の銃口から放たれた一発が、闇の夜に鋭く閃いた。
弾は音もなく空気を裂き、瞬時に演習ホールの中央に設置された標的を貫いた。貫通した標的の内部から黒い蒸気が漏れ出し、全体が朽ち果てるように崩れ落ちた。
「刻黒。この銃が持つ基本技術の一つであった無響が神之片鱗により変化したものだ。触れたものの内部構造を崩壊させ、崩れ落とす」
黒影教授は銃を下ろし、宵をまっすぐに見つめた。
「今言ったように、一部の技に変化が起こり、技としての威力が劇的に上がる。これを使いこなすことが強くなる道への最短ルートだ。まずは神之片鱗を出してみろ」
宵は一度、目を閉じた。
胸の奥にある黒き刃が、呼応するように震える。
「……神之片鱗―闇御津羽」
そう呟いた瞬間、宵の身体から溢れる闇が短剣の形を成した。柄に宿る紫紺の霞が、静かに宵の手元に揺れる。
黒影教授の声が重なるようにして飛ぶ。
「──何らかの技を使い、対象を斬ってみせろ」
そう言って教授が放ったのは、黒い籠の中にいた──演習用の狼。
見た目は獣のような体躯。宵は、一歩も退かない。
「靭宵ッ」
手にする短剣に、闇の力が収束する。硬く、鋭く、重くなるように。
けれどその瞬間、宵の中に何かが弾けた。導の力が暴れ、靭宵の刃が変質する。
刃の輪郭が崩れ、代わりに揺らぐような黒い縁取りと共に、刃の内側に吸い込まれるような闇が宿る。
「これが……っ!?」
黒影教授が目を細める。
「発現したか……神之片鱗を用いた技の進化」
狼が跳躍し、宵に向かって突進する。宵は静かに構えたまま、手にした闇の刃を横薙ぎに振るう。
「詼破ッ」
宵は、その刃に感じた名を叫ぶ。
狼が刃に触れた瞬間、触れた箇所が黒く変質し、崩れるように闇へと変換されていく。そして、変換された闇は刃の中へと吸い込まれた。
一瞬の静寂。
宵は呆然と立ち尽くす。
「え……?」
「やはり俺と同系統の変化になるのか。触れた肉体を闇へと変換し、吸収する力。極めて危険な能力だ。何よりも──その吸収された闇は、お前の中の闇へと蓄積される」
黒影教授は銃をしまい、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「宵。闇の導がなぜ、ここまでの力を持つか……お前は考えたことがあるか?」
宵は、短剣を見下ろす。
詼破。その闇は、まるで宵の心の奥底にあるものを映すかのように、深く、恐ろしく、それでもどこか懐かしかった。
「……どうして、闇の導は……」
その問いの続きを呟くことはできなかった。
ただ、短剣の奥で揺らめく闇の中から何か、呼ぶような気配があった。
■追記
Q 第14話でも神之片鱗を出現させた後に靭宵を使用してたのに、どうして詼破にならなかったの?
A 第14話時点では、宵がまだ自身の闇の導について深く知っておらず、そもそも技が変化することさえ知らなかったのです。ちなみに技を変化させるかどうかは使用者によって決めることができます。




