表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崩壊の導〜崩れゆく世界と救済者〜  作者: 朧月
第2章 学園編
18/39

第18話 神託顕現の制約

 朝の陽差しが差し込む学園の中庭を抜け、俺たちはそれぞれ教室へと向かっていた。昨日の模擬戦と、導に関する授業は衝撃的なものだったが、不思議と心は落ち着いていた。


「昨日の話……まだ全部は飲み込めてないけど、少しずつ見えてきた気がするな」


 そう呟きながら教室の扉を開けると、すでにセリエ先生が前に立っていた。変わらぬ優しい笑みをたたえて、教壇に立つその姿に自然と空気が引き締まる。


「おはようございます、みなさん。では、今日も授業を始めましょうね」


 柔らかくも凛としたその声が、教室に静かに響く。


「昨日の模擬戦……とてもよく頑張ってくれました。今日はその続きとして、神之片鱗と神託顕現について、お話ししようと思います」


 教室がざわめく。特に、神託顕現という言葉に反応した生徒は多かった。昨日、確かに俺たちはそれを視たのだ。だけど誰もが正体を知らない。


「まず、神之片鱗とは……精神力を消費して神の力の一部を具現化させた武器などのことを指します。」


 セリエ先生は黒板に静かに図を描きながら、続ける。


「しかし、それはまだ神そのものではありません。片鱗は名のとおり、神のほんの一部であり、危うい均衡の上に成り立っています。使いこなすには精神の成熟と神への深い理解、信仰が必要です」


 先生は少しだけ口元を綻ばせてから、改めて教室を見渡した。


「そして、次に神託顕現について」


 空気が変わった。


「これは、神託顕現とは別格の存在です。神そのものの一部を、一時的にこの世界に顕現させる行為。神之片鱗とは比にならない程の莫大な精神力を消耗しますし、使用者に強い制約が課せられます」


 ――神そのもの。


 あの時、演習ホールに浮かんでいた人型の存在。あれは、先生の神託顕現による神の一部だった。


「その力は、時として闘いを制し、均衡を保つための秩序となります。」


 珠璃が不安そうに指を組み、咲弥は黙って頷いた。叶多は静かに、窓の外を見つめている。


「神託顕現の制約とは、長時間もしくは連続で使用すると身体に超負荷がかかるということ。それと、発動中に自身が動けるものものと動けないものがあるということです。動けないもので無理矢理動こうとすると身体が負荷に耐えられず崩壊する危険があります。」


 先生はそこで、ゆっくりと語調を落とした。


「昨日、私がその力を使ったのは、あなたたちの命の危険を感じたから。それと、あなたたちに神託顕現というものを見せるため。」


 その言葉に、俺は拳をぎゅっと握った。あの一瞬の高揚。あの歓喜。それと引き換えに、何かを失っていたかもしれない。


「……本当に、あの時はありがとうございました」


 俺はそう言うしかなかった。


 先生は柔らかく微笑み、軽く頷いた。


「それでは、今日の座学はここまでにしましょう。少し休んでから、午後の個別指導に入ってください」


 授業が終わり、生徒たちはそれぞれに席を立ち始めた。


 ***


 午後、俺は再び黒影くろえ教授の部屋を訪れた。


 中には誰もいなかったが、昨日の別れ際に「読んでおけ」と言われた書物が、机の上に静かに積まれていた。


 闇に関する導、そして神々にまつわる記録。革の表紙に黒い墨で記された文字は、どこか人の意図を超えた何かを感じさせた。


 一冊、そっと開く。最初のページにはこう書かれていた。


《闇の導をまうくる者、その数、百に一人にも満たず。されど彼らはことわりの端に立ち、不可視の領域に踏み込む者となる。》


 百に一人にも、満たない。だからこそ、黒影教授は手探りのなかで数多のことわりを見つけ、闇を研究してきたのだろう。


 ページをめくるごとに、言葉の深さが重みとなって胸を打つ。見えないものを、どう捉え、どう使うか。目の前にあるのは、過去の誰かが闇と向き合い、記した思索の足跡だった。


 ***


 書物の最後のページを閉じたとき、部屋の隅にかけられた黒影教授のコートが、ふと視界に映った。


(俺も、いつかあの人のように――)


 小さく息を吐いて、椅子から立ち上がる。夕暮れが、窓の向こうで滲んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ