第17話 帰宅
黒影教授の部屋を出た時には、すでに空が淡い夕焼けに染まり始めていた。
(……なんだか、濃い一日だったな)
ふうと息をつきながら歩くと、校舎の外れにある広場のベンチに、見知った顔ぶれが集まっていた。
咲弥が足を組んで座っており、その隣で珠璃は両膝を抱えるように座っている。叶多はベンチの背もたれに両腕を乗せ、空を見上げていた。
「お、来た来た。宵、遅かったじゃん」
咲弥が顔を上げて口元を緩める。珠璃も小さく手を振ってくれた。
「ごめん。ちょっと話が長引いてて」
「なるほどな。こっちの教授は、話の隙間にポエム挟んでくるタイプで中々面白かったぞ」
「……ポエム?」
「うん。『水とは、流れであり、癒やしであり、時に破壊ももたらす』とか、目を閉じてしみじみ言い始めてさ。俺らは黙ってるしかなかったわ……」
咲弥は目を細めて、どこか遠くを見るように呟いた。
「ふふっ、咲弥くんでも黙るんだね」
珠璃が微笑む。
「珠璃ちゃんはどんな先生だったの?」
「えっと、なんか……すごく優しくて、でも逆に質問したら質問で返されるっていうか。『癒やすって、なんだと思いますか?』みたいな」
「哲学かな?」
「ね。頭の中、ぐるぐるしちゃって……今もまだ答え出てないかも」
叶多がくすっと笑う。
「じゃあ僕も言おうか」
と、叶多が勢いよく腰を浮かせた。
「雷の導専門の教授なんだけどさ、入った瞬間にいきなり言われたんだよ。『まず、感電させていい?』って」
「……は?」
「そっからさぁ、『体で覚えなきゃ雷は使えない』とか言って、もうバチバチバチって! でも、まあ……楽しかったけどね」
「いや、感電させられて『楽しかった』って言えるの、叶多くらいだろ……」
宵が苦笑すると、咲弥も珠璃も思わず吹き出した。
「で、宵は?」
咲弥が顎を引いてこちらを見る。宵は少しだけ間を置いてから答えた。
「……なんか、背中で教えてくる感じだった。怖くはなかったけど、ちょっと痺れた」
「痺れたのは雷のほうじゃないか?」
咲弥の鋭いツッコミに、俺と叶多が同時に吹き出す。珠璃も「もう、くだらない……」と呆れたように笑った。
「……それにしても、思ってた以上に個性的な教授ばっかりだな」
俺がそう言うと、咲弥が苦笑混じりに頷いた。
歩く足取りは軽く、夕焼けの光に背中を押されるようだった。黄昏に包まれた学園の小道を、四人は並んで歩いていく。
それぞれ違う導。それぞれ違う教師。そして、それぞれ違う学び。
だが、胸の奥に芽生えた小さな確信は皆に共通していた。ここで学んでいく意味が確かにある。そんなことを考えながら、夕暮れの中を彼らは帰っていった。




