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崩壊の導〜崩れゆく世界と救済者〜  作者: 朧月
第2章 学園編
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第11話 模擬戦

 ホームルーム後、俺達は学園内にある演習ホールへと案内された。


 巨大なアーチをくぐった先、そこには想像以上の広さを持つ空間が広がっていた。頭上にはドーム状の天蓋。だがその内部には、昼の青空ではなく、星がまたたく夜の景色が広がっている。


「演習ホールの空と時間帯は、導の性質に応じて調整できます。今からの対戦に合わせて、夜に設定しました」


 先導してきたセリエ先生が淡々とそう告げる。


 演習ホールの周囲を囲むようにして、2階に段状になっている観客席が設けられている。試合が進行する間、他の生徒達はそこで他の対戦を見守るようだ。


 セリエ先生が生徒達の前に立つと、落ち着いた声で説明を始めた。


「今回の戦闘では、導と身体能力の基礎を見させてもらいます。模擬戦用の武器を用意してありますが、神之片鱗を用いても構いません」


 その言葉に、生徒達がざわつく。その一角では咲弥や珠璃の姿も見えた。咲弥はどこか笑っているような顔で、珠璃は小さく両手を胸に当てて、心配そうにこちらを見ている。


「なお、命に関わる危険が見えた場合、私が即座に試合を止めます。覚えておきなさい。」


 セリエ先生の眼差しが、鋭く俺達を見渡す。その目には迷いがなかった。命を守るためなら、即時の介入も辞さないという、指導者としての覚悟が滲んでいた。


「加えて非戦闘系の導を持つ者に関しては、別の方法で実力を見させてもらいます。」


 セリエ先生は、生徒達の顔を見渡すと、すっと右手を挙げた。


「では只今より模擬戦を開始します。呼ばれた生徒以外は上の客席で待機していてください。」


 最初に呼ばれたのは、体格の良い男子生徒と、槍を得意とする女子生徒の組み合わせだった。


 どちらも張り切ってステージに上がり、先生から支給された武器を手に取る。


 模擬戦が始まると、周囲には応援や驚きの声が飛び交った。とはいえ、戦いはまだ様子見の範囲であり、緊張しつつも生徒たちはどこか《《試されている》》という意識で慎重に動いているようだった。


 演習ホールの天蓋は静かな夜空を映し出していたが、空気は次第に熱を帯びていく。時折、導が発動されるたびに、光や風、音が舞い、観客席に座る生徒たちはそのたびに歓声やどよめきを上げた。


 そして数戦目、セリエ先生がふんわりとした声で名を呼ぶ。


「次はなだ 咲弥くんと、山本 瑛士えいじくん。下に来てください」


「よっしゃ、やってやるぜ!」


 威勢のいい声を上げたのは、褐色肌で筋肉質な男子――瑛士という名の生徒だった。手には素手用の籠手をはめており、全身から「俺は体術派だ!」と主張している。


 咲弥は無言で席を立ち、静かに試合場へ歩みを進める。その姿勢には迷いも緊張もない。ただ、何かを見極めるような、冷静な光が目に宿っていた。


 二人が向き合うと、セリエ先生が柔らかく口を開く。


「二人とも、準備はいいですか?」


「はい」

「いいっすよ、先生!」


「では、はじめてください」


 合図と同時に、瑛士が猛然と突っ込んだ。素早い踏み込み、重い拳。それを咲弥は一歩も動かず、冷静に受け流す。拳が空を切り、空気が震える。


(見た目に反して、けっこう速いな)


 咲弥は内心でそう呟きながらも、必要以上に動かない。重心を崩すことなく、間合いだけをじりじりと調整していく。


 次の瞬間、咲弥は二つの剣を地面に投げ置き、両手を己の前に出した。


「――神之片鱗 あまの叢雲むらくもッ!」


 その一言とともに空間がきしみ、咲弥の手の先に亀裂が走る。そこから溢れ出すように水で創られた美しい双剣が空間に舞い降りる。


 一瞬だけ観客席がざわついた。


「あれが彼の神之片鱗か」

「綺麗……」

「フフフ……研究しがいがあるね」


 そして一瞬の隙を突いて、咲弥は音もなく踏み込む。光る双剣がしなやかに舞い、瑛士の腕をさらりと払った。刃先はかすめただけだったが瑛士の動きは止まった。


「……すげえな、今の」


 瑛士は感心したように鼻を鳴らし、拳を引いた。セリエ先生が両手を軽く打ち鳴らす。


「はい、そこまで。おふたりとも素晴らしい動きでした。特に咲弥くん、冷静でしたね。神之片鱗も安定している」


 咲弥は軽く頭を下げ、黙って武器を霧のように消し、観客席に戻ってきた。


 やがて、セリエ先生の声が再び場を静めた。


「……では、最後の対戦に移ります」


 生徒達の視線が再び先生に向かって集中する。


天帝あまかど 宵くん、白斂びゃくれん 叶多かなたくん。下へ」


 場の空気が、音を立てて変わった気がした。観客席の一角で、咲弥が小さく笑みを浮かべる。


「……いよいよか」


 珠璃は胸の前で手を組み、心配そうに視線を宵へ向けた。宵と叶多は静かに立ち上がり、ステージ中央へと歩み出る。演習ホールの夜空が、さらに深い色合いへと変わっていくように見えた。

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