第二章-4
俺は、メンバーに向き直り、最後の指示を出した。声は掠れ、息も絶え絶えだったが、強い意志を込めた。
「いいか、皆……! 第二次審査のテーマは……『勇気』だ!」
俺は、自分の傷ついた腕と、ボロボロになった仲間たちの姿を見回して言った。
「今の俺たちを見てみろ! 満身創痍だ! だが……心は、まだ折れちゃいない! ここまで、たどり着いたんだ! それ自体が……俺たちの『勇気』の証明になる!」
「技術なんて、今はどうだっていい! 上手くやろうなんて思うな! 今の俺たちの、このボロボロでも諦めない魂を……ありのままに、ぶつけるんだ! 全部出し切れ! それが、俺たち『セレスティアル・ノート』の、最高の『勇気』の証明になるはずだ!」
俺の檄に、ヒロインたちの瞳に再び光が宿った。そうだ、まだ終わっちゃいない。俺たちは、まだ戦える!
音楽(再生用の魔道具は、セレネがかろうじて起動させた)が流れ始める。勇壮で、しかしどこか物悲しい、この審査のために俺が用意した曲だ。
センターに立ったミャオが、踊り始めた。
その動きは、フラついていた。いつものようなキレも、スピードもない。ステップは乱れ、ターンも覚束ない。見ているのが痛々しいほどだ。それでも、彼女は踊るのをやめなかった。その金色の瞳には、諦めない強い意志の光が宿り、歯を食いしばって、一歩一歩、懸命にステップを踏む。それは、技術を超えた、魂の叫びのようなダンスだった。
リリアが、歌い始める。声量は落ち、音程も少し不安定だ。涙声になっている。それでも、彼女は必死に声を振り絞る。ミャオを鼓舞するように、仲間を励ますように、そして自分自身を奮い立たせるように。
セレネも、残ったわずかな魔力で、光の粒子を舞わせる演出を行う。普段の華麗さはないが、それでも、ステージを彩ろうという必死さが伝わってくる。
俺は、片腕で、壁に寄りかかりながら、必死にリズムを取り、メンバーにアイコンタクトを送る。……だが、意識が……遠の……。
(ダメだ……ここまで、か……)
俺の意識が完全に途切れかけた、まさにその時だった。
カッ!!
足元の祭壇が、突如として、今までとは比較にならないほどの眩い光を放ったのだ! 祭壇に刻まれた古代文字が、まるで生命を得たかのように脈打ちながら輝き、温かく、そして力強いエネルギーが、奔流となって俺たち四人に流れ込んできた!
「な、なんだこれ……!?」ミャオが驚愕の声を上げる。
「きゃっ!? あ、体が……軽い……?」リリアも目を見開く。
「……祭壇が……応えている……? 私たちの『勇気』に……?」セレネも信じられないといった表情だ。
光に包まれた瞬間、俺の左腕の激痛が、嘘のように和らいでいくのを感じた。骨が繋がったわけではないだろうが、不思議な温かい力が傷を癒し、消耗しきっていたはずの体に、再び力がみなぎってくる! ミャオ、リリア、セレネも同様だった。疲労は消え去り、魔力さえも回復していく!
理由は分からない。だが、奇跡は起きたのだ! この祭壇は、俺たちの諦めない心、仲間を想う絆、そしてボロボロになっても立ち向かう『勇気』に、確かに応えてくれたのだ!
「……!」
俺は、メンバーと顔を見合わせ、力強く頷いた。与えられたこの奇跡、無駄にはしない! 今度こそ、最高のステージを見せてやる!
「行くぞ! セレスティアル・ノート!!」
俺の号令と共に、パフォーマンスは後半へと突入する!
それは、前半とは全く別の、神がかり的なステージの始まりだった!
ミャオのダンスは、覚醒時を思わせるほどのキレとスピードを取り戻し、祭壇というステージを縦横無尽に舞う! その動きは、苦難を乗り越えた者の力強い生命賛歌そのもの!
リリアの歌声は、天まで届くかのように朗々と響き渡り、その清らかな響きは、聴く者の魂を震わせ、真の勇気とは何かを問いかける! それは、彼女が掴んだ強さの証!
セレネの魔法は、もはや単なる演出ではない! 祭壇の力を借りて増幅された彼女の魔法は、光と闇、炎と氷を自在に操り、ステージ上に壮麗かつ幻想的な世界を現出させる! それは、孤高だった魔族の姫が、仲間と共に新たな創造を始めた瞬間!
そして俺は、回復した体で、的確な指示と、熱い視線でメンバーを導く! 俺たちの魂は、完全に一つになっていた!
彼らのパフォーマンスは、まさにテーマである「勇気」――絶望的な状況から立ち上がり、仲間を信じ、未来を掴もうとする不屈の魂――そのものを体現していた。技術を超えた、魂の共鳴が、そこにはあった。
やがて音楽が終わり、四人は汗と、涙と、そして最高の達成感に満ちた表情で、最後のポーズを決めた。祭壇の光がゆっくりと収まっていく。
後に残ったのは、圧倒的なパフォーマンスの余韻と、完全な静寂だった。
魔法水晶の向こうの審査員たちは、誰もが言葉を失い、ただ呆然とステージを見つめているようだった。
リリア、ミャオ、セレネは、息を切らしながらも、互いの顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。俺も、込み上げてくる熱いものを感じながら、満足げに頷いた。
審査の結果は、まだ分からない。祭壇がなぜ応えてくれたのか、その意味も謎のままだ。
だが、俺たちは確かに、この第二次審査という大きな試練を通して、かけがえのない絆と、大きな成長を掴み取ったのだ。
満身創痍で始まったステージは、奇跡的な輝きと共に、その幕を閉じた。




