間章第1幕『なにひとつ飾らない、頬掠める暖かいもの』
第2章がはじまるまでの、陽菜と日陽のほのぼのストーリー。
しかしそれは長くは続かないものだと知っている■■。■■は来たる時までの準備を始めていた───
陽菜、陽葵、日陽、歌恋の4人は、月城家にいる。
包帯を取り替え薬を塗り、陽葵に手当てをした陽菜。
「姉さん、大丈夫?」
「陽菜の方が大丈夫か心配なくらいだよ。無理してない?色々陽菜の知り合いたちが気遣ってくれてママの仕事増えた。ついでにパパの仕事も。」
「姉さん………そう言われるとすごい罪悪感なんだけど………」
「それは案外気にしなくていいと思うよ。いつもこの時期は儀式だけじゃなく祭りとか色々準備があるし。パパとママは陰陽師にも関わりがあるし、普通だよ。儀式は陰陽師が関わってるからね。」
「陽葵さん………大丈夫ですか?」
歌恋は心配そうだ。
「歌恋ちゃん………優しいね。陽菜も幸せでしょ?」
「うん。」
少し恥ずかしい顔になる陽菜。
「陽菜姉〜!お絵描きしたの見て〜!」
日陽が紙に描いた絵を見せる。
「これは………仮面ライダーリバイスかな?」
「そうだよ〜!」
「かわいい。」
「えへへ〜。陽菜姉が褒めてくれた!」
日陽は陽菜に頭を撫でられ、嬉しそうにしている。
「日陽ちゃん、可愛いですね。どっちかと言うと女の子はプリキュアとかかと思ってたけど仮面ライダーなんだ………いや、陽菜ちゃんが仮面ライダー好きみたいだしおかしくは無いですかね………」
歌恋は、撫でられて喜ぶ日陽を見て可愛いと思った。
「うん、そうでしょ?陽菜は人と接するのが上手いの。あたしは別に普通。運動能力も弱いからこの通り怪我しちゃうんだ。」
陽葵は怪我した左腕を見つめている。
「ねえ日陽ちゃん。今何かお絵描きしてよ。」
「うんわかった陽菜姉!なにかいてほしい?」
「え?日陽ちゃんが好きなのでいいよ。」
「うんわかった!」
(日陽ちゃん、可愛いなあ………………)
陽菜は、絵を描く日陽の様子を見てほっこりしていた。
(………………そういえば、杏恋ちゃんの死の真相はまだ掴めてないなあ………綾ちゃんが他殺でほぼ確だったけど、杏恋ちゃんはどうなんだろ。怨霊、か………杏恋ちゃんは怨霊になってないことを願うしかないか。それともわずかだけど生きている可能性………いや、そもそも杏恋ちゃんの死の真相を探ること自体が無意味………………)
「陽菜ちゃん………どうしたの?ぼーっとしてるけど。」
「え?あぁなんでもない。ちょっと考え事。」
「………たとえ陽菜ちゃんがどこにいようと一緒だからね。」
歌恋は、陽菜が呪いをかけられたことはあの時に芭那から聞いている。
「ありがと。心配しなくてもどこにも行かないから。」
歌恋の頭を撫でる陽菜。誰にでもするわけでは無いが、陽菜は頭を撫でたり撫でられたりするのが好きだ。
「日陽ちゃん、何か描けた?」
陽菜が日陽の絵の途中経過を覗いた。
「わぁヨッシーだ!かーわい〜っ!ほら、ヨッシーも喜んでるよ!」
ぬいぐるみが日陽と握手をする。
「ん〜ぎゅ!嬉しいねヨッシー!」
陽菜はぬいぐるみを抱きしめてもふもふ癒されている。
「できることなら………杏恋ちゃんもここに呼んで色々と遊びたかったなあ………日陽ちゃんと杏恋ちゃん呼んで、どんな会話するんだろうって………はぁ。」
ため息をついた。遠くを見つめ、悲しそうな表情になる陽菜。
「でも、過ぎたことは仕方ないって割り切るしか無いのかも。今を楽しまなきゃね………」
「陽菜、無理はしてないよね?」
「してないよ姉さん………母さんのこと以外は。それに関しては無理をするかしないかじゃなくて無理なんだけどね………」
「それなら安心ね、陽菜。」
陽菜と恵子の関係については、陽葵も半ば諦めていた。
(あれ………なんだろう。今何か思いついた気がするんだけど………)
日陽はお絵描きを楽しんでいる。
「わたしもお絵描きしよ。」
陽菜も鉛筆を手に取り、絵を描き始めた。
「おお………陽菜ちゃん、絵上手いね………」
歌恋が感嘆の声をあげた。
「陽菜は昔から………勉強は中の下とかだったけど、運動ができて手先も器用だった。ほとんど何をするにも技術の習得が恐ろしく早いの。」
「それはすごいですね………」
「陽菜姉すごい〜!」
「えへへ………ありがと。そろそろ友達のとこに行ってくるね。歌恋、行こ。」
陽菜は、少なくともこの夏休み、帰省している間はこのほのぼのとした暮らしがずっと続けばいいと思っていた。
しかしそれは叶わない事だと、この中の2人は知っている。しかしそのうち1人は、現在知っていると言うべきでは無いのかもしれない。
否、それを2人と呼ぶべきかどうかもわからないほどに現在の状況は複雑怪奇である。その理由は、4人のうち1人が知っているはずなのだが、それもまた知っていると言うべきなのかどうか───