第6話『いつまでも手を叩き、態度で示していたかったのに』
「サヤのプレゼント、キラキラだった。嬉しかった。サヤが悪い大人に攫われた!大人たちはみんなサヤが悪いって言うけど違う!みんながサヤを悪者扱いしたんだ!!!殺す!いつか絶対殺してやる………!!!」
「だめ!そんなことやめて!ぼくのことはいいから!」
「ごめん。まだそっちには行けないよ。なることがあるから………」
「起きろ!」
声を聞き、陽菜が飛び起きた。
「どうしたんだ、わたしが来たら急に気を失ったみたいになって。」
陽菜の方を見ていたのは芭那。
「あ、ごめんなさい………」
陽菜たちがいる旅館の部屋に、芭那が来ていた。芭那の方は陰陽師の仕事のひとつである『調査』に進展が無いため、少し暇を潰しに来ていた。
「何故わたしが来た途端に気を失うのか考察したんだが、恐らくこれを持っていたからでは無いだろうか?これを持っていた理由は、梧村の陰陽師たちは儀式の準備で忙しく呪物封印の準備の暇があまり無かったからだ。」
芭那が見せたのはビー玉であった。
「あの時2人を襲ったバケモノ………怨霊は、ここに籠った怨念が強すぎて『自然発生』した怨霊なんだ。自然発生は殆どの場合、怨霊の意思に関係ない行動をする。だからあの時のはこのビー玉に宿った怨霊では無い。」
「「難しい………」」
萌果と美結は芭那の説明に混乱していた。
「つまりそれを壊せば………いや、祓えばなんとかなるってことですか?」
陽菜が言った。
「全ての怨霊を消せるわけでは無いが一旦はな。」
「サヤを悪い大人に殺されたアヤ………アヤがみんな殺すって、そっちに行けないって………」
「ん?陽菜ちゃんどうした?」
「なんか頭がクラクラするんですよ………さっき変な記憶を見た気がしました。」
「まさか、このビー玉にこもっている怨念にあてられたのか?だとしたら陽菜ちゃんは霊媒体質………つまり霊的な要素の影響を受けやすいって事なんだ。恐らくな………」
芭那は静かに目を閉じ、ビー玉に触れた。
「このビー玉から霊的な記憶を読み取ったんだが、読み取れる情報によると………仇?」
「え、記憶を読むとかできるんですか!?」
美結がひどく驚いている。
「といっても万能じゃ無いし、生きた人間の記憶を覗き見ることはできない。このビー玉は呪物となっている。だからこの件についてはわたしが引き受けたんだ。すまない、呪物が出たとなると忙しくなりそうだ………陽菜ちゃん。わたしがいなくて寂しくなるかもしれないが、そちらの友達と恋人と一緒に過ごしておくといい。もし暇があるなら遊びに来てやるからさ。」
「はい………えっ!?えと、ここ女しかいませんよ???」
芭那の言葉のある箇所に気づき、驚いたようになる陽菜。
「隠す必要は無いぞ、陽菜ちゃん。バラすつもりも無い。」
「うぅっ、言ったっけ………バレてるし………嫌われないならバレてもいいけどやっぱりちょっと恥ずいです………なんでわかるんですか………」
赤面する陽菜。
(可愛い………)
歌恋はそういうことで恥ずかしがる陽菜も好きである。
「ああ、それは………………わたしが大学で心理学を学んでいるからだ、これでも一応大学生でな。成績が良いわけでは無かったが、観察してればいろいろわかるのさ。」
「そうそう、普通の人がそれ気づくかは分からないけど、陽菜と親しい人なら察するくらいには分かりやすいと思うよ?陽菜がそうだって気づいた時、一瞬困惑…驚いたけど、よくよく考えなくても陽菜はいい子だしそういう変な過ちは犯さないってわかるし。」
芭那の言葉に付け加える萌果。
「変な過ちて。いくら仲が良くても恋人じゃないのにそんなことするわけないでしょ………あれ、なら吉井くんや角谷さんも気づいてたのはなんで?そこまで親しいって言うほど親しかったっけ?風呂で角谷さんの悩み相談聞くくらいには会話してたけど………」
陽菜は疑問を感じた。
「それは陽菜ちゃんに充分なコミュ力と親しみやすさがあるってことでしょ?わたしが好きになった女の子なんだから。」
「ぅん………そうだね、歌恋。」
照れる陽菜。
「それじゃあな、陽菜ちゃん。陽葵とも仲良くするんだぞ………あ、もし何かあった時は連絡してくれ。LINEを交換しよう。」
そう言い、芭那はここの全員とLINEを交換した。その後、芭那は部屋を去った。
そして残された陽菜、歌恋、萌果、美結の4人。
「何して遊ぶ?わたしSwitchとゲームいろいろ持ってきたけど。定番はやっぱ桃鉄、スマブラ、マリパだよね!」
陽菜がSwitchを取り出した。校外学習では自由時間のゲームは禁止されていない。それに元々陽菜は校外学習の参加者では無いためルールで禁止されていようと関係の無いことであった。
合議の結果、スマブラを4人でやることになった。
4人はとても仲が良いグループ。もし陽菜が存在せず、歌恋の同性愛が2人にバレた場合2人がどう思うかはその状況になってみないと誰にもわかることでは無いが、陽菜のコミュ力が陽菜以外の者同士のコミュニケーションを円滑にしていることは傍から見て明らかであった。
「わーい!勝ちー!」
勝ったのは陽菜。
「陽菜強いね〜!」
陽菜を褒める萌果。
「まあね。ゲームに自信はあるよ。けどわたしって他にも趣味たくさんあるからゲーム一辺倒てわけじゃなくて色んな趣味を満遍なくかじってるって感じ。」
「陽菜ちゃんすごい………!なんでそんなにすごいの?」
歌恋が陽菜を褒めた。
「ふふ〜ん。わたしだから?」
陽菜は得意げになっている。
「いらっしゃいませ。」
陽菜たち4人は昼食で居酒屋に来ていた。萌果と美結いわく、夕食は旅館で食べるが昼食は自由行動。
陽菜たちは席に案内され、メニュー表を見る。
「ここの居酒屋好きなんだよね〜!チャーハンが特にお気にでさ!いつも紅生姜トッピングしたりするの!」
そう言いながらメニュー表を見て悩んでいる陽菜。
少しして陽菜たちはメニューを頼んだ。
「陽菜頼みすぎでしょ………」
美結がチャーハンを食べながら陽菜の食べっぷりを見ている。
「このくらいの贅沢はいいんですぅ〜!楽しませてよね、折角の生まれ故郷なんだしさ!」
「ていうか食べるの早っ!いつも通りだね。わたしと萌果のメニューが来る前に食べ終わるとかマジで………」
「ふふん!わたしは体が強いからいっぱい食べても腹壊れないし消化速度も早いんだもんね!小中と運動は1番だったし、みんなに驚かれたっけな………むしろ強すぎてセーブしろって親に言われてたくらいだよ。」
「なにそれ、どんだけ自信家〜?」
「あははっ、すごいじゃん。」
そう言いながら、萌果と美結が料理を少し陽菜にわけた。
「ねえ2人とも。田舎なのに設備がすごいのは都市開発の一環だって話はしたよね。それでね、村のみんなはわたし含めてそれに反対だった。東雲家と西元商事ってところが共同で都市開発の計画を進めてた。」
「西元商事って………」
「そうだよ美結。Bクラスの西元一生くんがそこの社長息子。」
「陽菜ちゃんは西元くんのこと嫌いじゃないの?」
歌恋が疑問を投げかける。
「嫌いじゃないよ。」
「そっか。」
そうこう会話しているうちに、萌果と美結も料理を食べ終わった。
「今頃、あの陰陽師さん仕事してるのかな?」
美結が言った。
「まあそうだろうね。そういえば昔、姉さんが『はなちゃん』の話をしてた気がするけど………あの人のことだったのかな。」
席を立って会計に行く。
(………さっきからチラチラこっちを向いてる人がいるな。)
あの時旅館で感じていた芭那の視線と似たような感じ。しかし芭那は来ていないはず。
「ふーむ………」
陽菜は視線の主をどうするか考えていた。
「どうしたー?」
萌果がそんな陽菜の様子を気にかけている。
「いや、ごめん2人は先行ってて、一応校外学習してる身だから。えっと………しばらくしたら戻るから。はい金。」
「おっけ。」
陽菜の言葉に美結が返事をする。素直で正直なため、言うことは信用される。陽菜は友達や家族に信頼されているのだ。逆に、陽菜も友達や家族のことを信頼している。
萌果と美結が会計を済ませて外に出た後。
「あのー………わたしに何か用?」
陽菜が視線のもとに移動し、声をかけた。
「ひゃ、ひゃいっ!」
裏返った声。
その声の主は顔が可愛らしく華奢な体で、フリルのスカートをはいている。
(可愛いな………)
陽菜は素直にそういう感想を抱いた。
「あ、あのっ!───」
可愛い子がそう言った途端、その子のスマホが宙に舞った。
「ほっ。」
陽菜がコンマ1秒の間でそれをキャッチした。
「ヨッシー………?」
スマホ画面にはTwitterアカウントが表示されていた。アカウントの名前に『ヨッシー』と書かれていた。その名前に気を取られ、数秒間ぼーっとしてしまう陽菜。
「あ、ごめん返すね。あなたもヨッシー好きなんですか?」
「い、いえ………フォロワーのアカウントなので………」
「へえ、その人絵上手いね。」
陽菜の知っている有名キャラクターが描かれていたりした。刺突武器を持った黒い殺し屋のイラストや、おしとやかな見た目の水色の侍と紫の侍?のイラストなど。
(早見さんだ………)
中にはどマイナーなノベルゲームのキャラのイラストまであった。それは奇しくも、陽菜の定期入れに描かれているキャラと同じ。しかし陽菜の定期入れと決定的に違ったのは、そのキャラが腋見せポーズの全裸であったということ。
(やばエッッッッッッ………ん?)
陽菜は先程見たアカウントに何か既視感を感じていた。
「それでなんですけど。ぼくはあなたと初対面ですが頼みがあるんです。」
「ぼく!?」
「あ、ぼく男です………」
男の子が恥ずかしそうにもじもじしている。
「それで、あの………あなたの知り合いだっていう陰陽師に会わせてください!陰陽師さんならぼくの彼女を助けてくれるんじゃないかって思うんです!」
「わかった。まず簡潔に事情を説明して。」
陽菜が男の子に聞く。
「ぼくの名前は天門沙耶です。彼女の高橋綾ちゃんについて相談できる人をずっと探してたんです!」
(!これは藤吉さんを探さないと!!!)
男の子の口から出たのは、サヤとアヤの名だった。
「わかった、わたしについてきて。わたしの知り合いの陰陽師さんならきっと協力してくれるから安心して。その陰陽師さんは強いから何かあっても守ってくれる。」
「あ………ありがとうございます!」
沙耶を連れて店を出た。
「陽葵姉、またいっぱい腕怪我しちゃったの?」
日陽が心配そうな眼差しで陽葵を見つめる。
「あたしは陽菜と違ってフィジカル普通だし鈍臭いからね………皿割っても避けられないよ。」
「陽葵、何かあったなら相談しい。あまり無理はするな。」
照彦は陽葵のことを心配している。
「大丈夫?」
母、恵子も陽葵のことを心配している。
「うん、大丈夫………いたた………(やば、左手がまともに動かなくなってきた。)」
「すいません!藤吉芭那さんはいませんか?」
神社に行き、掃除している巫女服の女に聞いてみた。
「藤吉さんなら、あちらの建物に行きました。」
「ありがとうございます!」
巫女服の女が示した建物へと向かう3人。
「懐かしいです。ぼくもここの夏祭りと儀式は参加してましたから………」
準備しかけの祭りの屋台を見ながら、沙耶は感傷に浸っている。
「あ、ちょっと話は逸れるんだけど、さっきのヨッシーってアカウント、どんな人か詳しく説明できる?」
沙耶に聞く陽菜。
「えと………嫌われてばっかで迷惑かけてばっかでつらい、悲しいって泣いてました。」
(………!まさかそういうこと!?)
陽菜はその特徴に心当たりがあった。
沙耶と話しながら歩いていると、
「よぉ、陽菜ちゃん!そっちの子は誰だ?また新しいお友達か?」
芭那が陽菜に向かって手を振っていた。
「違います。藤吉さんに用があって来ました。」
「わたしに用だって?」
「この子は天門沙耶。彼女の高橋綾ちゃんのことで陰陽師に相談したいことがあるそうです。」
「………そうか、わかった。じゃあついて来てくれ。」
陽菜たちは芭那についていく。そして陰陽師の建物についた。
「藤吉さん、お疲れ様です。」
敷地内で陰陽師が芭那に挨拶をした。
「お疲れ様。呪物登録をするからコレよりもうちょっと強い箱を用意しておいてくれないか?」
「わかりました、探しておきます。」
会話を交わす陰陽師たち。
そして陰陽省の建物の和室に入り、机の前に座る4人。
「呪物登録っていうのは、怨霊が宿った危険な物を特殊な箱で厳重に保管することを言う。ところで沙耶………くん?きみはどこかで会ったような気がするんだが気のせいか?」
「ごめんなさい、わかりません………」
沙耶は心当たりがないので、わからないと答えた。
「陰陽師に相談となると幽霊絡みとなるだろうが、沙耶ちゃんは彼女の幽霊に遭遇したのか?」
「いえ、それが………綾の幽霊を見たって訳では無いんです。なのに、綾の声がずっと聞こえてきて………綾が守ってあげる、沙耶を攫ったみんなを殺してやるって………」
「ふむ………その症状は、かなり強い怨念にあてられているとみえる。彼氏彼女の関係だからとても大切に思われていて、死後も怨念だけが漂っている………といったところか。」
芭那が沙耶の話を聞き分析、対策を考えている。
「綾は何年も前に死んだんです。8年前くらいでしょうか………山の中で足を滑らせて転落したそうです。」
「現場を見ていないのか?」
「死んだとされる日の翌日に村の人が騒いでるのを聞いたんです。山の中で頭を強打して血を流して………そこは崖で、事故死と断定されました。ぼくはその時、陰陽師とかの大人に叱られてて………」
「叱られたとは?聞いても大丈夫か?」
「聖霊石………さっきのビー玉を綾にプレゼントするために、その………盗んだんです。ほんの出来心だったんです………」
沙耶は申し訳なさそうにしている。
「なるほどそういうことだったか………聖霊石はな、数日前陽菜ちゃんが公民館の前で拾ったんだ。そして怨念のこもったそれを拾った陽菜ちゃんたちは怨霊のトラブルに巻き込まれた。」
公民館とは、陽菜がクラスメイトたちと再会し、校外学習のイベントをやっていた洋館のこと。公民館のような役割を持つためそう呼ばれている。
「相当強い感情で相当強い年数………8年が経っていた。」
「年数なんてわかるんですか?」
芭那の言葉に歌恋が疑問を投げかけた。
「歌恋。それは彼女さんが死んだのが8年前だって沙耶ちゃんがそう言ったからだよ。ビー玉にこもっている怨念はほぼ間違いなく彼女さんの怨霊のもの………ってことですよね、藤吉さん?」
「お、陽菜ちゃん正解だ。理解が早いな。まあそんなわけで、怨霊には人間の魂、幽霊が変化したものと、人間の負の感情から自然発生した怨霊の主に2つにわけられる。そして呪物と化した聖霊石にそこらじゅうの怨念が集まって怨霊ができた。それが、陽菜ちゃんたちを襲ったものだ。」
芭那が怨霊についての説明をしている。
「な、なんかすごい話ですね………見てないから想像できないです………」
歌恋は呆気にとられたような表情だ。
「沙耶ちゃんがビー玉を綾ちゃんにプレゼントしたのだろう?綾ちゃんにとってはそれがすごく嬉しくて、思い出の品になったのさ。そして何かがあって、ビー玉を起点として死後に怨念を撒き散らしていた。綾ちゃんの怨霊がどこにいるかだけど、これにこもってないとなると死んだ場所にいる可能性が高い。」
「でも、どうして………どうして事故死ならそんなことになるんですか!おかしいですよね!?」
沙耶は叫ぶように声を出した。
「言いづらいが………おそらく他殺、だろうな。」
「そんな!あんなに優しかった綾が殺されるなんて………」
半泣きになる沙耶。
「………待てよ。何故綾ちゃんは山に登ったんだ?話を聞く限りではそっちに綾ちゃんの家も沙耶ちゃんの家も無いよな?沙耶ちゃん、綾ちゃんが死んだ場所を覚えてたりは?」
「いえ、何も………詳しくは聞いてないですので………」
「うーん、ということは、聖霊石を途中でどこかに落として、山に昇って何者かに突き落とされたってことか………そういえば陽菜ちゃん、あれはどこで拾ったんだ?」
「あの公民館の前です。」
「そうか。山で落とした訳では無かったのか。」
「ちなみに、ぼくがこっぴどく叱られた場所っていうのはその公民館です。」
「なるほど、じゃあつまり、綾ちゃんはそこでそれを落としてしまった………それか、陰陽師に回収された時に陰陽師が落としたかのどちらかか。」
芭那は一呼吸おき、
「さてと。次どうしようか。綾ちゃんの怨霊がそれほど強いものだとしたらなんとかしないとまた被害が出る可能性がある。呪物はあとで厳重保管するからなんとかなるとして、その綾ちゃんが死んだ場所だと言う山は危険かもしれない。」
「あの、わたしと歌恋はどうすれば?」
「陽菜ちゃんたちは危険だから関わるな。」
少し厳しめの顔で芭那が言った。
「はーいごはんできましたよ〜。」
恵子が昼ごはんを机に置く。
「わーいわーい、唐揚げと卵焼き〜!」
日陽は喜んでいる。
「お味噌汁もちゃんと飲みなさいよ〜?」
「「「「いただきます。」」」」
昼ごはんを食べ始める。
「陽菜姉にも分けてあげたいね〜!」
日陽は昼ごはんの美味しさにご満悦だ。
「日陽ちゃん、夏休みは楽しい?」
恵子が聞く。仲のいい者同士の食事の場の雰囲気はとてもいい。
「うん!陽葵姉、お菓子買ってくれてありがとうね〜!わたしと陽葵姉がお菓子あげたら陽菜姉嬉しそうにしてて嬉しかった!」
一瞬の静寂───
「「あ。」」
照彦と陽葵は、日陽のミスに気がついた。
「ちょっと陽葵!陽菜が帰ってきてるならなんで言わないの!!!?」
恵子の怒号が飛んだ。