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第1話『この夏始まる、いつか途切れた夢の続き』

始まった、いつか途切れた夢の続き。

なくした記憶を求めて、陽菜は故郷の実家に帰ってきた。杏恋の訃報を聞き、もしかしたら何かがわかるかもしれないと。


しかし、そこで聞いたのはさらなる訃報で───

叶わない夢。

夢を諦め挫折し、親友を置いて逃げてきた。だけどそのままではだめだと思い、遠路はるばる逢いに来た。それがこんなことになるなら………こんなことなら医者に憧れなければよかったと思った。

「どうじで………おいでいぐの?」

虫の囀りが聞こえる夜の森で、弱り果てた女の子は目の前に立っている女の子をまっすぐ見つめる。そしてその様子を見ている、赤いリボンの女と禍々しい気配を放つ女の子。

「………痛い?つらい?寂しい?」

立っている女の子は、弱り果てた女の子とは対照的にすこぶる元気だった。

「痛い………いだいよ………………」

弱り果てた女の子の傷だらけの身体に、涙が染みる。

「ごめんね………元気でね。」

元気な女の子は悲しみの表情を浮かべる。

「お別れはもう済んだかしら?」

元気な女の子は禍々しい空気を感じ、声のした方を見る。そこにはロングヘアの少女が立って………という表現は適切では無かった。

「………はい。」

「………もう少しだけ待ってあげてもいいのよ?その様子を眺めていたいから。」

元気な女の子は、涙を流していた。

それを見ていたのは、頭にリボンを付けた茶色の長い髪の女。

「これで良かったの?」

リボンの女の子が、元気な女の子に聞く。

「はは、わたしの言った通りだった。寂しいよ………でも、まだやることがあるから。あとはお願いします。」

「そういうことなら、わかったわ。うまくやってみせる。つらいことなら何も知らないまま過ごすのがいいからね………」

リボンの女の子は元気な女の子の肩に触れ、その場を立ち去った。

「それじゃ、執行するわ。」

禍々しい気配の女の子がそう言った直後、元気な女の子は強い光に包まれたかのような錯覚に陥った。

しばらくして目を覚ますと、禍々しい気配の女の子はすでに姿を消していた。




これは、使命を背負った少女が失われた記憶を取り戻すまでの物語──




「ん………」

飛行機の中で、月城(つきしろ)陽菜(ひな)は目を覚ました。

2022年8月5日。親友の東雲(しののめ)杏恋(あれん)の訃報を聞き、実家のある沖縄県梧村(あおぎりむら)に帰省することにした。

「っ、あったま痛い………」

悪夢を見ていて、起きた瞬間に頭痛を感じた。

陽菜はヨッシーのぬいぐるみをいつも抱いて寝ている。これがないと寝る早さが極端に遅くなってしまう。寝る時にぬいぐるみを抱くのがやめられなくなっていた。

人間は1度何かに慣れると簡単にやめられないということをよく知っていた。某中国産ゲームの所謂『月パス』の課金をしていたが、それをし始めてからというもの、それ無しでは考えられなくなってしまった。

月城陽菜。誕生日は11月2日の18歳。医者に憧れ勉強をし始めたが、覚えが遅く母親を苛立たせてしまい、よく怒られるようになった。それからというもの、勉強嫌いになってしまい、母親に耐えられなくなった陽菜は大阪で一人暮らしを始めた。

アルバイトをやりながら、母親に内緒で父親と親戚のお姉さんにこっそり仕送りをしてもらっていた。

「はぁ………母さんまだ家にいるだろうなぁ。わたしが会いたいのは母さんじゃないのに。」

陽菜はしょんぼりとした表情でため息をついた。

(これはきっと言い訳なんだろう。夢を断念して逃げたことへの。どっちにせよ、帰ると決めたからには腹を括らなければ………と心の中では思っていても、いざとなると勇気が出ない。)

「また母親の話してる。」

陽菜に声をかけたのは、同級生で恋人の(さくら)歌恋(かれん)

コミュニケーション能力の高い陽菜は高校でも友達を作った。そして、高校で出会った歌恋と恋仲になり、同じ大学へ進学した。

「大丈夫?頭痛いの?」

歌恋が心配そうに陽菜の頭を撫でる。

「大丈夫、ヨッシーがいるから。」

「可愛っ。」

「………んっ。」

歌恋に撫でられ、照れる陽菜。

「う、ちょっとお腹すいた。」

陽菜はCAを呼び、料理を頼む。

「これください。歌恋は?」

「わたしはこれかな。」

「かしこまりました!」

CAがお辞儀をし、立ち去る。

そして、しばらくして頼んでいたメニューが来た。

(んま。)

ゲームをしているとき、ヨッシーを抱いているとき、おいしいものを食べている時は嫌なことを忘れられる。陽菜は食いしん坊なのである。

開催されている情報を見つけるのは苦労するが、食べ放題の情報を見つけては参加し、余裕でクリアする。陽菜は常人では考えられないほどの胃袋と消化速度を持っており、なおかつ太らない体質。

外の景色を眺めると、雲が見えた。近くで雲を見る機会はなかなか無く、特に意味は無いが少しわくわくしていた。

(ふーん、きれいじゃん。)

基本インドア派の陽菜だが、それでもこういうのは嫌いでは無い。それに、恋人や友達と一緒にいられるのならアウトドアも苦にはならない。

「ねえ歌恋。わたしは用事があるから参加しなかったけど、歌恋は校外学習参加しなくてよかったの?」

「校外学習よりも陽菜ちゃんと一緒にいたいから。」

「………ん。」

陽菜は照れを隠せない。

「ん?」

突然、ざわざわと乗客の声が聞こえてきた。

「何かあったのかな?」

陽菜が聞き耳を立てていると、乗客が揉めていた。

大柄な男と派手な女がなにやら言い争っていた。男の飲み物が女の服にかかってしまったらしい。

「お客様、機内ではお静かにお願いします………」

CAが2人の客に呼びかけるが、2人の客は気にもとめない。

男が女を平手打ちし、女は近くの席に体を強打した。

(このまま騒がれても面倒だな………)

陽菜は席を立ち上がると、2人の間に割って入る。

「なんだお前?」

「すみません………睡眠の邪魔なので少し黙っててもらえますか。それに揉めたからと言って暴力はどうかと思いますが………」

「あ?舐めてんじゃねえぞ?」

(この人、酔ってるな………)

何か嗅ぎなれない匂いがしたが、それが酒だと理解するのに時間はかからなかった。

男は腕を少し横に伸ばし、女にやったように陽菜にも平手打ちを繰り出してきた。が、陽菜は余裕でそれを見切り、手首を掴む。

「いで!いでででででで」

陽菜が軽く力を入れて握ると男は降参したようで、自分の席に戻りながらこぼしたものと同じ酒を注文した。

「あ、ありがとうございます………」

「いえ、どういたしまして。」

女に礼を言われ、陽菜はそっと頭を下げた。陽菜も自分の席に戻り、ヨッシーのぬいぐるみを抱いて再び眠りに入ろうとした。だが1度起きてしまい、なかなか寝付けない。

そんな時、ふと昔のことを思い出した。医者を目指していた時のことだ。

(思い出したくない過去だな。でも、さっき礼をされた時、悪い気分じゃなかった。今なお、困っている人を見捨てられない自分に少し嫌気がさしている………はずなのに、助けたことで例を言われると嬉しい気持ちになる。)

残りの時間、眠ることにした。悪夢を見たこと、飛行機の環境、トラブルに首を突っ込んで酔っぱらいの気持ち悪い声を聞いたことが重なって頭痛が酷くなっていた。

「えへへ、モフモフヨッシー。ぎゅーちようね。あ〜!ぎゅーもふもふもふ!ほら、歌恋もなでなでしてあげて!」

「ふわふわなぬいぐるみだね。」

大好きなヨッシーのぬいぐるみを抱くと思わず幼稚な口調が漏れ出てしまう。歌恋がいないときは、ヨッシーがいつだってそばにいてくれた。歌恋にヨッシーを撫でてもらってご満悦の陽菜。


飛行機が目的地に着いた。早朝に出発したので降りた先の空港はまだ昼前。だから飛行機に乗った時点で眠気が取れておらず、飛行機の中で寝ていたのだ。

これなら今からゆっくり実家に行っても昼食ができる時間。

「あっ!」

陽菜が階段を降りる途中、ぬいぐるみを階段に落としてしまった。それを拾ったはいいが、その直後に後ろの客とぶつかってしまい、バランスを崩した。そしてそのまま地面に向かって落ちた。

「え?」

陽菜を突き飛ばしてしまった乗客は思わず驚きの声が出た。片手に重いキャリーケース、もう片手にぬいぐるみを持ちながら、体で受け身を取りそのまま前転。ぬいぐるみはともかく、傷がつきやすいキャリーケースを一度も地面と接触させずに受け身を取った。それを見ていた周りの人に驚きの表情を向けられたりしていたが、気にせず歩き出す。

「あ、待って〜!」

歌恋が慌てて陽菜を追いかける。

空港に行くと、さっきの飛行機内での騒ぎと同じ音量がそこらじゅうから聞こえてくる。売店や立ち話などらいかにも空港らしい声ばかり。

大阪の空港と違い、こちらから電話をかける。

「もしもし、姉さん?」

『陽菜!どうしたの?』

「今そっちに向かってるから。それと、姉さんが教えてくれたんでしょ。杏恋ちゃんの訃報。」

『それはいいけど、向こうでの生活はどうしてるの?』

「いくらかは父さんと希万里(きまり)さんに仕送りしてもらってる。あとはバイトと食べ放題の賞金で賄ってるよ。」

『いや、仕送りの話は知ってたけど………そっか。食べ放題か、陽菜らしいや。』

「大学は文学部ってとこ受けて適当にやってるよ。」

スムーズにいくように予め、手続きの方法などを予習していた。

「上手いことっていっても、ただ逃げただけなんだよね、医者から。」

『そっか………ま、気にせずゆっくりしていってよ。会うの3年半振りなんだしさ、積もる話もしてほしいな。』

「積もる話かぁ………そうだ、こ………友達できたよ!またそっち行ったら話すね!」

『そうだ、大学生にもなってまだヨッシーと寝てるの?』

「何、だめなの〜?」

『いやいや!やっぱり可愛いなって思ってさ!』

「ありがと、姉さん。それは好意と受け取っておくよ。ヨッシーはだいじな家族なんだからねっ!」

陽菜は姉が大好きで、姉も陽菜が大好きな、超がつくほどの仲良し姉妹だ。知り合いの村人の間ではちょっとした噂になっている。

『家族かあ………ママのことは?』

「ごめん姉さん。母さんの話はあんまりしないで。家族だとは思ってない………なんてひどいことは言えないけど。」

『あはは、まあそうなるよね………』

電話越しに、苦笑いが聞こえてくる。

『でも、何があっても陽菜の味方だよ!』

再び姉の声に明るさが戻る。

「うんっ!」

電話越しで陽菜は精一杯の笑顔で返事をした。

電話を切って、歩き出したその時。

「おっ」

「きゃっ!」

小学生くらいの女の子とぶつかってしまった。少女の持っていた2段アイスの上が空中に放り出された。

「おっと。」

コンマ1秒の時間、陽菜は素早く反応した。

「あ、ごめんごめん!」

溶けないように、手で汚れないように1本指に乗せたアイスを2段アイスの上に乗せ直した。

それを見ていた周りの人たちが驚きの声をあげた。

「え?何?すご」

「あれさっき飛行機で揉め事解決してたやつだぜ?」

陽菜がその場を立ち去ろうとすると、

「あ、ねえねえそこの嬢ちゃんたち!」

いかにもナンパ風の男たちが3人、陽菜に声をかけてきた。

「はい?」

陽菜は男たちに呼びかけられ、返事をした。

「オレらと遊ばなーい?」

「好きな料理奢ってやるぜ〜?」

「すみません、そういうの間に合ってるんで。」

陽菜はナンパの誘いを断った。

「ナンデスカー?」

露骨な棒読みでため息をつく。それを聞いた男たちは怒りの表情になった。

「下がって、危ないよ。」

「うん………」

陽菜は歌恋と少女に呼びかけて後ろに下がらせる。

「あなたたち、こんなところで何してるんですか?生憎男に興味無いんですが………」

「てめぇ、ちょっとツラ貸してもらお」

男が陽菜に手を伸ばした瞬間、陽菜は軽くカウンターを食らわせて男をそのままはっ倒した。

「あ、てめえなにしやがんだ!」

次の男が今度は殴りかかってくるが、迫り来る腕の横に手で触れて横向きの力を加え、軌道を逸らす。

男たちを制圧するのに、時間はかからなかった。

陽菜は運動では誰にも負けたことがなく、体育でも紙テストが無い限り5を取れた。

「うわ、逃げろ!!!」

男たちは逃げ出した。同時に周りの群衆から拍手が起こった。

(………また人を助けてしまった。)

陽菜は少女に頭を下げ、その場を立ち去った。

「どうだった?」

着物を着た女が、男たちに問いかける。

「すごい体でした。」

「まさか、言う通りだとは………あれが………」

「ああ………」

着物を着た女は、立ち去る陽菜を見つめていた。


「………静かだな。」

村に続く道、踏切の近くで、黄色い着物を着た金髪の女が村を見渡す。

「さてと、仕事しますか。まずは現地調査からだな………」

耳にかかった髪をかきあげる。

(まい)………」


「ふふ〜〜〜ん。ふふんふふんふふふふふ〜〜〜ん。」

鼻歌を歌いながらスキップをする陽菜。

陽菜の生まれ故郷、梧村(あおぎりむら)。村の人口は200人ほどしかいない。毎年この時期になると村に人が来る。村の偉い人が客人を呼んでいる。

陽菜が小さい頃、村は差別されていると聞かされた。外から犯罪者が流れ込むから、と。だから陽菜は念の為、高校で梧村の出身だと言わなかった。

梧村の人間とは関わるなと近隣で言われることもあり、それが原因で村から出ていく人もいる。

「杏恋ちゃん………」

1年前にも梧村に帰ってきていたが、何故か夜になって森の中で倒れており、その間の記憶が無い。そのことを思い出しては、もやもやしていた。

(やっぱ気になるなあ。わたしは何をしてたんだろう?)

「残念だったね………」

「うん、悲しいよ………」

古さが風情を感じさせる、和風の家が見えてきた。

(………どうしよう。)

姉にそっちに行くと言ったものの、母親の存在がちらついてあと1歩勇気が出ない。

もうすぐそこまで来ている。

もし外に出てきた母親に見つかるとただでは済まない。仕送りをしてもらっていることは内緒で、あくまで母親は陽菜が一人暮らしをしていると思っているからだ。

「母さんには期待できないとして、父さんは労ってくれるといいな。」

「わたしがいるから大丈夫。つらいときはいつだって傍にいるから。」

「ありがと、歌恋。」

そんなことを話していると、家から誰かが出てきた。

陽菜は一瞬身構えてしまうが、

「陽菜。そこで突っ立って何してるの?」

「姉、さん?」

出てきたのは姉だった。

月城(つきしろ)陽葵(ひまり)。2001年9月27日生まれ。妹の陽菜が何より大好きで、いつも仲良し姉妹だ。

「………その人は誰?」

「あ、えと………」

陽菜が少し言い淀む。

「あ、陽菜の友達の(さくら)歌恋(かれん)です!よろしくお願いします!」

歌恋が頭を下げた。長い髪が顔にかかって貞子のようになった。

「陽菜。ママはもうすぐはじまる儀式の準備でいないよ、今日は帰ってこないって。いたとしても陽菜が帰ってくる連絡は入れないから。」

儀式とは、村で行われている伝統行事のひとつ。よくありがちな、土地の神様へというものだ。

「そっか………ありがと。キャリーケース置く場所ある?」

「大丈夫でしょ。それよりも、陽菜が帰ってくるって知ったらみんな喜ぶよ!」

「母さん以外は、ね。」

「んもー!そんなこと気にしなくていいの!陽菜の大好きなレタス牛丼作ってあげるから!………良ければ歌恋ちゃんも食べていかない?」

陽葵に案内され、陽菜と歌恋は玄関に入った。

「ただいま。大阪からで疲れただろうし、ゆっくり休めば?」

「父さん………」

「そっちの女の子は………」

「桜歌恋です!よろしくお願いします!」

家の中に入ると、父親が出迎えてくれた。

月城(つきしろ)照彦(てるひこ)。陽菜の父親。

「………あれ。」

陽菜の頬から涙がこぼれ落ちた。

「なんでだろ………父さんがただ一言労ってくれたのが、なんか………嬉しくて。」

「そろそろお昼食べるから、早く上がり。」

照彦は、陽菜の荷物を持って部屋に向かった。

「ほら陽菜、いくよ。歌恋ちゃんも、よかったら食べていって?」

「………うん。」

陽菜は少し下がり気味のテンションで返事をした。

「ありがとうございます。」

歌恋は至って普通の返事。

「寂しい時はヨッシーが一緒なんだね。だったら陽菜、ヨッシーにありがとう言わなきゃね。」

陽葵が陽菜に笑いかける。

「うん!」

陽菜は笑顔になると、ヨッシーを頬ずりしながら抱きしめた。

陽菜と歌恋は居間に移動し、陽葵は昼食を作りにいった。照彦が座って待っていて、机にはコップが並び、お茶が淹れてある。

「見ない間にだいぶぺちゃんこになってるな。」

照彦がぬいぐるみを見て言った。

「そう?」

「ああ。」

「そっか。そりゃわたしは毎日見てるから気づかないか。あん時小遣いくれた父さんに感謝してる。」

「陽菜ずっと欲しそうにクレーンゲーム見てたからな。」

久しぶりの父親との会話。陽菜はどこか感慨深ささえ感じていた。

「あの………陽菜ちゃんのお父さん。陽菜ちゃんはいつも家でもぬいぐるみを抱っこしてるんですか?」

「ああ。」

「なにそれ。かわいー。」

「えへへ………」

歌恋のコミュニケーション能力は並のため、ひとつ質問をした後の次の言葉が出てこずにいた。

「はぁ………」

陽菜はため息をついた。

「陽菜ちゃん………」

陽菜の様子を心配そうに見つめる歌恋。

家に帰ってきて陽菜が思い出すのは、とてもとても苦い記憶。




「ちょっと!こんな普通の成績でどうするつもり!!!?医者になりたいんでしょ?」

「………うぅっ」

「医者になりたいんだったらもっと勉強しなさい!そんな普通の成績で医者になれると思ったら大間違いよ!ほんっとイライラするわぁ………」

母親に怒鳴られる陽菜。

陽菜が中学生の頃。医者に憧れて志すようになり、今までよりも勉強を多くするようになった。

しかしそれはなかなか上手くいかなかった。母親は最初は応援したり勉強を手伝ったりしていたが、いつもの何倍もの速度で疲労が溜まっていき、次第に母親は余裕が無くなり、陽菜に怒ったりするようになった。

「大丈夫?」

友達と近くの駄菓子屋に寄っていた。

陽菜の背中を優しく撫でたのは、陽菜の一番の親友である杏恋だった。

「大丈夫じゃないもん………わたしが医者を目指すって言ったばっかりに………」

「あ、それなら楽しい話しよ?」

「うー………」

「そ、そうだ!なんかアニメの話しようぜ!月城はなんか好きなアニメとかあるのか?」

男友達の的石(まといし)祥太郎(しょうたろう)が、陽菜に気をつかって話題を考える。

「ジョジョ………とか。」

「そうなのか?いいよなジョジョ!それで東雲は?」

杏恋にも話題を振る祥太郎。

「わたしは………アニメじゃないんだけど、小さい頃に親戚の人が仲良くしてくれてたことがあって。高校生が王様になる話を一緒にテレビで見てたんだ。」

「杏恋ちゃん、それってなんてタイトルなの?」

「えっとね!か………あ、ごめん!秘密!」

少し歯切れの悪い言い方になる杏恋。

「えーなにそれ〜!」

杏恋の体をちょんとつつく陽菜。

「ほ、ほら!早くお菓子買お?」

杏恋は駄菓子屋に入った。




そんなことがあり、陽菜は一人暮らしをするといって家出した。しかし実際に一人暮らしをする覚悟は無く、父親と親戚のお姉さんに頼み込んでこっそり仕送りを頼んで今に至る。また、1人暮らしといっても恋人の歌恋を家に招くことがあり、半ば二人暮らしのようになっていた。

「懐かしいな。杏恋ちゃんと祥太郎と駄菓子屋行ってお菓子買って。確か杏恋ちゃんが転校してきた時だったから中1だっけ。」

「そうなのか。」

照彦が陽菜の方を向いている。歌恋は麦茶を飲みながら陽菜の話を聞いていた。

父親と会話をしていると、陽菜の昔の話になった。

陽菜は2003年生まれなので、中学1年にあたるのは2016年。

(ん?)

ふいに、奥歯に何か挟まったようなもやっとした感覚に襲われる陽菜。

(あれ、何か思いついた気がするのに忘れちゃった。ま、いっか。)

過去を思い出して不意に感じた変な感覚も、陽菜にとってはあまり重要では無いことだろうと思っていた。違和感の正体に気づいたとて大したことでは無いだろうと思っていた。

「はぁ。懐かしくはあるんだけど………やっぱここにいたらやなこと思い出しちゃうな。」

そう言ったところで、陽葵が4人分のレタス牛丼を作って机に並べた。

「おまたせ!」

「ねえ父さん。母さんはいつ帰ってくるの?」

「今日は帰って来ないが、明日は帰ってくるかもしれないな。」

「うーんどうしよ………」

陽菜は頭を抱える。

「いただきます!ほら陽菜も早く!」

「あ、うん!いただきます!」

「いただきます。」

「いただきます。」

4人が挨拶をし、レタス牛丼を食べ始める。陽菜のものだけ他の2倍は量がある。

「あ、そうだ。パパこれから儀式の準備を手伝ってくるから、陽菜と陽葵、それから歌恋ちゃんはゆっくりしてるといい。」

「え、父さん………一緒にいてくれないの?」

「ママの様子を見るだけだ。だから陽菜は何も心配するな。それと、東雲家のことは………」

照彦は陽菜の頭を撫でる。

「陽菜。パパの言う通りわたしはいるから、陽菜は寂しくないよ。」

「………うん!えへへ。えへ、えへへ………」

陽葵に抱きつく陽菜。ヨッシーのぬいぐるみも一緒に抱きしめたので、ヨッシーのもふもふと陽葵の温もりで笑顔が漏れ出てしまう。陽菜にとって、これらを抱きしめることは至福のひと時。

(父さんは………わたしに気をつかって、母さんが目に届く場所にいようとしてるんだ。)

「陽菜。学校でのこととか、色々聞かせてよ!」

「えへへ。いいよー。大阪はね、ここより都会だからいろいろ漫画とかゲームが揃ってたんだ。ま、電子書籍とかあったりするけど。」

「それでそれで?」

「わたしの知ってるホラゲーがね、クラスの男子も知ってて!」

「ふーん………」

「それでね、仮面ライダーを知ってる子がいたの!」

「女の子に仮面ライダー知ってる子がいたの?」

「いや、男だけど。」

「………………………ふーん。」

少し間をあけて返事をする陽葵。陽菜は楽しそうに同級生の話をしている。

「それで、その子と話したりは?」

「それが、知ってる子のうち1人がすっごい関わりづらいタイプでさ、だからそのグループに話しかけづらくて………男友達も作りたかったのに。」

「別にいいじゃん、わたしがいるし〜。」

陽葵はわかりやすくむくれた。

「………ああ、吉井くんのことね………確かに吉井くんは関わりづらかったなあ。吉井くんにも友達はいたみたいだけど。」

「姉さんは友達じゃなくて家族でしょ!」

「そうだね〜!大阪で他に何してたの?マリオブラザーズは?」

「スマブラ覚えてる?スマブラ最新作がリリースされてるの!やる?」

「やる!陽菜と同じチームで!」

陽葵は嬉しそうにしている。

「あ、あの!わたしも参加していいですか………?」

少し恥ずかしそうに歌恋が陽葵に聞いた。

「え?………あ、うん!いいよ!」

「じゃ、2人とも準備するから待ってて〜!」

それから陽菜と陽葵、歌恋はNintendo(ニンテンドー) Switch(スイッチ)のスマブラを楽しんだ。陽菜はスマブラSPではヨッシーしか使ったことがない。

「陽菜上手いね〜。」

「そりゃ、スマブラに限らずゲーム得意だからね!」

自慢げに話す陽菜。

「でも、中途半端にゲームが上手くたってなんにもならないんだ。」

さっきまで自慢げに話していたが、途端にしょんぼりしてしまう。

「本当は辛かっただろうに………1人にさせてごめんね。ヨッシーに歌恋ちゃん。陽菜の傍にいてくれて、ありがとうね。」

しょんぼりしている陽菜を見かねて、陽葵は陽菜の頭を撫でる。

「陽菜ちゃん………」

陽菜の背中をさする歌恋。

「うぅっ………うぇ………」

陽菜から涙が(こぼ)れた。

トゥルルルル───

「ん?」

電話が鳴った。

「姉さん、今日何か予定でもあった?」

「いや、うちに個人で掛けてくる用事は特には………一応わたしが出るわ。」

玄関に行き、陽葵が受話器を取る。

「はい、もしもし。」

『陽葵ちゃんか。そっち今日暇か?』

受話器の向こうからしたのは、聞き覚えのある女性の声。

「希万里さん。」

「え、希万里さんなの?」

「ちょっと待ってくださいね、陽菜にかわります。」

陽菜は受話器を受け取った。

「希万里さん、久しぶりです〜!」

『おお!久しぶりだな!こっちに帰ってきてたのか?』

「杏恋ちゃんの訃報を聞いて………」

『ああ………陽菜のいちばんの親友だったもんな。わたしもそれを聞いて悲しかった。』

神崎(かんざき)希万里(きまり)。陽菜が小さい時から世話をしていた陽菜の親戚で、三つ編みがとても似合う美人。陽菜が悲しくて泣いている時も、希万里のもとに駆け寄れば抱きしめて慰めてくれた。陽菜の心の拠り所。

『希万里は小学生の年齢の頃学校に通えていない時期があった』と、陽菜は聞かされていた。今の神崎家に拾われた時、希万里には親がいなかった。幼い頃迷子になって辿り着いた場所に泊めてもらい、そこで出会った人に絵を描いてもらった、と。

「ええ。わたし、寂しんぼなんで。長いこと家ぞ………父さんと姉さんに会えなかったのがつらかったんです。」

『相変わらずだな。』

「………わたしが『向き合わないこと』、怒ってますか?」

『ううん、怒ってないよ。わたしだって陽菜が泣きじゃくってるのは見てられなかったから………って違う!そうじゃなくて、宴会があるぞって伝えに来たんだよ!』

「ごちそうパーティーあるんですか!?」

宴会があると聞き、陽菜に笑顔が戻る。

「やった!ごちそうパーティーだ!わーいわーい!!!」

『あははっ!やっぱり陽菜は食いしん坊だな!』

「あ、でも………うーん………みんな来そう………………ごめんなさい、わたしはやっぱりひと………いや、友達連れてきてますから2人ですね。2人で家にいます。ごちそうパーティーがあるなら、母さんは仕事かごちそうパーティーのどっちかにいるでしょうから。それでも友達とヨッシーがいますから、大丈夫です。」

『陽菜………』

陽菜の声を聞いた希万里の声は、どこか悲しそうだ。

『そうか。なら、陽菜が来てもらえるように努力するまでだ。』

「と、いいますと?」

『かわいい陽菜の頼みだ、まっかせなさい!』

「えっ?それってどういうことですか?」

『気にするな!その時になったらわかるさ!』

「………はい、わかり…ました。じゃあまた後で。」

会話が終わり、電話を切った。

「宴会の誘いが来たんだよね?」

陽葵が陽菜に問いかける。

「うん。」

「その、さ………陽菜は来るの?わたしは来て欲しいな。」

「なんか希万里さんがね、わたしが来れるように努力するってさ。」

「行きたくない理由は希万里さんわかってた感じ?………まぁそんな事だろうと思った。」

複雑な表情をする陽葵。しかし、それに呆れなどといった感情は含まれていない。

「そういうことなのかな?………期待して待ってるか。」

「わたしもね。陽菜には来て欲しいから………そうだ、わたしは希万里さんを手伝ってくる。」

「うん。」

陽葵は軽く支度をし、家を出た。

残された陽菜は、外が見える部屋に移動し景色を眺めながら、ヨッシーを抱きしめた。歌恋も陽菜についてきていた。

脳裏に浮かぶ、希万里の顔。

「希万里さん………わたしは村に戻ってきて良かったんでしょうか?わたしが母さんに怒られて泣いていた時、いつも慰めてくれてましたよね。希万里さんはわたしを肯定してくれたんでしょうか。『なんで泣いてるんだ?』って聞いて来ましたよね。母さんに向き合わないわたしを怒らずに抱きしめてくれたのは、優しさなんだと思ってます。」

より強くヨッシーを抱きしめ、うつむく陽菜。

「希万里さんがいなかったら、わたしはどうなっていたか。希万里さんはわたしのことを素直で純粋な子だと思ってくれたから。希万里さんが母親だったら良かった………なんて我儘なのは分かってます。でも………」

堪えていた涙が溢れ出てくる。

「寂しかった!希万里さんとずっとずっと一緒にいたかった!わたしはどうしたら良かったの!後悔しても遅いのに、時間は戻らないのに!」

母親がいなければ、陽菜は悲しむことなんてなかった。一緒にいると約束した杏恋を見捨てて村を出ずに済んだ。

陽菜がもしそう主張したのなら、母親に産んでもらわなければ陽菜は存在できなかった、と反論が来ることだろう。それなら尚のこと、母親が陽菜を産まなければ陽菜は苦しまずにすむのだ。

なのに何故生まれてきてしまったのか。陽菜は頭を抱え、床に突っ伏して泣きじゃくるしかできなかった。

「寂しい!」

寂しいのでは無い。

「悔しい!」

夢を諦めた者が言う台詞では無い。このぐちゃぐちゃになった心から産まれた感情は何なのか。

「あんまりだよ!なんで………あんまりだよ!!!」

陽菜の目から涙がぼろぼろと零れ落ちた。

「陽菜ちゃん………陽菜ちゃん………」

歌恋は陽菜が泣き止むまで傍にいた。背中をさすったり頭を撫でたりして陽菜が泣きやむよう努めた。

しばらく泣いた後、陽菜と歌恋は居間に戻った。

ぼーっと眺めた先、写真が立てかけてあった。そこには家族写真や、杏恋と陽菜が写っている写真があった。

写真を眺めていると、電話が鳴った。

「はいもしもし、月城です。」

『きみが陽菜ちゃん?』

「あ、はい。」

『希万里さんと陽葵さんが今、儀式の準備を手伝っています。2人の代わりに陽菜ちゃんに伝言を頼まれてて。陽菜ちゃんの母親は、準備で忙しくて来れないそうですよ、宴会に。』

「そうですか、わかりました。ではまた。」

電話を切り、しばらく棒立ちになる。

「ふーん………気楽に行けそうでよかった。ごちそうパーティー楽しみにしてたから。」


宴会の時間になり、陽菜は宴会を開催している会場に来ていた。村人が大勢くるため、軽く100人は超えている。

「あ、陽菜!こっちこっち!」

陽菜を呼んだのは陽葵だった。

「あ、父さんは来れなかったの?」

「うん、儀式の手伝いでね。」

宴会はおよそ、季節ごとに1回開催される。時期が近づくと村の掲示板に宴会の情報が貼られる。その情報は知り合いから知り合いへと伝播する。

旬の食材から郷土料理まで様々だ。

「ま、何にせよ3人だね。」

「ヨッシーがいるもん〜。」

「そう。まあ変なことしなければ怒られないだろうしいいんじゃない。」

「えへへ〜。それじゃ、いただきます!」

「いただきます。」

陽菜と歌恋は挨拶をして、料理を食べ始めた。

「んま〜!!!」

旬の食材の舌触りは、一人暮らしの時の自炊やインスタントとは比べ物にならないほど質が高い。

「ん〜おいし〜!やっぱこーいうのって一人暮らしの時だと縁なくてさ〜。」

陽菜は思わず頬を両手で抑える。

「普段は何食べてるの?」

陽葵が聞いた。

「カップ麺と自炊。それに紅生姜のトッピングを入れてね。あ、あと食べ放題。成功率は100%だから食費がちょっと浮く。」

「すご………」

歌恋は驚いていた。

「もっと食べたいな………」

「もう無くなったの!!!?」

またまた驚く歌恋。陽菜は、常人の数倍を軽く超えるスピードで自分の取り分を完食した。

「陽菜姉!」

陽菜を呼ぶ、幼い声。

「日陽ちゃん。ただいま。」

「会いたかったよ陽菜姉〜!」

可愛いフリルスカートを着て頭にリボンをつけている小学生の女の子が陽菜に抱きつく。

星乃(ほしの)日陽(はるひ)。誕生日は8月10日で、あと5日で8歳になる。小学校では成績が1番でテストはいつも満点を取る天才児あと少しでギフテッドになっていたという。

日陽には3人の姉妹がいる。そのうち2人は養子である。

「陽菜姉!きょう陽菜姉のおうちでお泊まりしたい!」

天才ではあるが陽菜と同じく甘えん坊のさみしんぼで、陽菜にとても懐いている。陽菜のもとにいる時は天才の風貌は感じられず、むしろ他の子よりも幼い印象を感じさせる。

「かわいいね………!」

歌恋が日陽の方を見ている。

「陽菜姉のおともだち?」

「うん、そうだよ。」

「よろしくー!」

日陽はにこにこ笑顔を歌恋に向ける。

「それはいいけど親の許しは大丈夫なの?」

「うん、陽菜姉に会ったら泊まってきていいって!」

「そっか。それより日陽ちゃんの両親は?」

陽菜が聞くと、

「儀式の準備だよ。ちょっとみたから。」

陽葵がそう答えた。

「そかぁ。日陽ちゃん以外のみんなは?」

陽菜が日陽にその質問をした途端、陽葵と日陽が静かになった。

「陽菜!しっ!」

陽葵が陽菜に、慌てて『静かにして』のジェスチャーをする。

(え?)

「ごめんそのことは伝え忘れてたね。ここではあまり話せないから後で話す。」


家の居間に戻った。まだ母親はいない。

「姉さん、どういうこと?日陽ちゃんには席外してもら………いや、その様子だと何か知ってるのかな?」

「あのね………紅炎ちゃん、結菜ちゃん、茉希ちゃんはもう………」

「………え。なんで?誰かに殺されたの?」

「わたしと4人とでお泊まり会に行った時、茉希ちゃんが勝手に抜け出したらしいの。わたしはその時寝てたんだけど………それで、希万里さんがやっと見つけた時には日陽ちゃんしかいなかった………」

「そんな………姉さん、なんで………」

「うん、わかってる………日陽ちゃん、ごめん。」

陽葵は日陽に頭を下げる。

「いや、別に姉さんが悪いわけじゃ………ごめん。やなこと思い出させちゃって。」

「いい、別に。ほら、テレビでも見よ?」

「ん、そうだね、姉さん。」

陽葵は、暗くなった空気を少しでも明るくしようとする。

「この時間ってアニメやってるかな?」

「陽菜は大阪でもアニメ見てたの?」

「うん、結構見てるよ!」

会話が弾む。

「へえ、どんなの?」

陽葵が陽菜に聞いた。

「日陽も気になる〜!」

「えっとね〜………」

他愛もない会話。陽菜は一緒にいたい人とそういう話をするのが好きなのである。

夜の帳が降りた。

「陽菜。まだママは帰って来なさそうだから安心して寝れるよ。」

「そっか。」

日陽がまだベッドに来ていない。

「日陽ちゃ〜〜〜ん!もう寝る時間だよ〜!」

陽菜が呼びかけると、日陽が陽菜に抱きつく。

「わーい陽菜姉〜!ヨッシーもふもふさせて〜!」

寝る前に少しだけはしゃいだ。そして消灯。

「陽菜姉、日陽はね、陽菜姉がいるから寂しくないよ。」

日陽が陽菜の腕をぎゅっと掴む。

「………そっか。寂しくなったらいつでもおいでね。ごめんね、大変な時にいてあげられなくて。」

「陽菜。」

陽葵が陽菜の名を呼ぶ。

「なあに?姉さん。」

「陽菜にもいろいろあるだろうけど、そんなに気に病まなくていいんだよ。陽菜は日陽に、そんでわたしに甘えん坊と人懐っこさを出してればいいの。」

「えへへ…わたし甘えん坊!」

「陽菜姉。陽菜姉が帰ってきてくれて嬉しい。おやすみ。」

「うん、おやすみ。姉さんも、お休み。」

「おやすみ。」

そう言うと、日陽はすやすやと可愛い寝息の音を立てて目を閉じた。陽葵も布団を被り、寝息の音を出している。

「陽菜ちゃん………」

「歌恋、どした?」

「えっとね………寒いからちょっとわたしの方に寄って………」

「うん………っ。」

歌恋の方に体を寄せる陽菜。

「んっ………///」

「はふ………」

抱き合い、そっと唇を重ねる陽菜と歌恋。

「陽菜ちゃん………好きっ………」

「わたし、も………好き、だよ………」

互いが舌を動かし、唾液の音がする。

「好きっ、好きっ、好きっ!ねえ陽菜ちゃん………触るよ?いいでしょ?」

「あッ///2人が起きたらどうするの………」

「むっ!」

歌恋は長い時間をかけ、より激しく陽菜にキスをした。

「触るよっ♡」

歌恋は陽菜のズボンに手を入れた。

「あッ………あんッ♡ひぁッ………///」

たまらず喘ぎ声が出てしまう陽菜。

段々と時間をかけて責める歌恋と、性器が火照る陽菜。

「陽菜ちゃん。ほら、もっと激しく行くよっ?」

普段の口数はそこまで多くはないものの、陽菜との性行為の時は責めに回って口数が増える歌恋。

「あッああ………んッ!んんーーーッ♡」

陽菜と歌恋はズボンとパンツを脱ぎ、胸が見えるまでシャツをまくり上げた。

時間をかけて愛撫しあい興奮して性器が火照った2人は、むにゅっと胸を押し付けあいながら貝合わせをする。

「ひあぁぁぁぁぁぁんッ!」

先程より少し大きな喘ぎ声を出した陽菜。

(歌恋ちゃんの、気持ちいいッ………)

「陽菜ちゃんっ!一緒に…一緒にイこ?」

歌恋が腰を動かすと性器がぬるぬると激しく擦れ、濡れた性器が糸を引く。

「歌恋っ!わたし、もう………」

「あッ♡わたしもッ♡イっ///」

「あ♡イっッ───」

「イッちゃ───」

「「はぁんッ!あッイク!イクっ!イックゥゥゥゥッッッ///♡」」

布団の中で激しく絶頂した2人。

「あッあ───歌恋ちゃん気持ちいいッ………もう1回………」

陽菜がそう提案し、再びディープキス、愛撫、クンニ、貝合わせをする2人。

陽菜の希望で、性行為をする時は陽菜は受けに回っている。

「ああああッ!イク!イクゥッ!──────歌恋っ!腋………腋と鼻犯してっ………」

陽菜は腋と鼻を犯されるのが性癖であり、毎回その2箇所を責めてもらっている。

「んぶっ!あああああああ♡いいッ!」

歌恋に鼻と腋を舐められ興奮する陽菜。歌恋は陽菜の頭を手で支えながら激しく腋と鼻を犯している。

「歌恋にっ♡犯されてッ♡♡イク……イッちゃう………ッああああーーーーーっ///」

何度目かの絶頂。

「歌恋………好き………」


同時刻、梧村の神社にて。

黄色い着物を着た金髪の女性が神社の前に来ていた。

「こんばんは。夜分遅くに失礼するよ。」

そう言ったが、誰かがいるわけでは無い。と思ったが、誰かが出てきた。

三つ編みが似合う美人、神崎希万里だ。

「きみ、そんなところでどうしたんだ?」

希万里が金髪の女性に問いかける。

「きみは陰陽師だよね。」

「わたしはとある事件の調査をしているんです。この村に犯人がいる可能性が高いと踏んでます。」

「ちっ。」

希万里は舌打ちをしながらその場を立ち去った。

「あれ、どっか行っちゃった。」

金髪の陰陽師は立ち止まって何かを考えていた。

「そうだ、ここにお供えされてるはずのふたつの宝石のうちひとつが無いんだ。」

金髪の陰陽師は月が輝く方を向く。

「舞………わたしは舞の意志を継げてるかな。」

「藤吉ちゃん。」

振り向くと、白い着物の女性がいた。

「あ、斎藤さん。あなたは何を?」

「あなたと同じくやることがあるだけ。じゃあね………」

このストーリーを書いていたノベルゲーム制作アプリがサービス終了したため、シナリオを小説として掲載することにしました。

第1話には物語の核心に迫る重要な伏線があります。

伏線が示すこと、さらにその先の真実を知る時、月城陽菜はどうなってしまうのか。


月城陽菜と桜歌恋のホラーチックなガールズラブ、ここに開幕───

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私の百合に対するイメージが割とソフトなものだったので、後半のガチエロシーンには驚きました。そういう意味では読む人を選ぶ作品かもしれません。 内容自体は充実していて面白かったですが、一話あたりの文量が…
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